巨樹ツアー 第10回「榛名神社の矢立杉、空を突き破る」

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巨樹ツアー 第10回「榛名神社の矢立杉、空を突き破る」

関東屈指の奇勝地榛名神社に、巨大な融合木があります。広葉樹と違い一度伐採されると命を吹き返すことはない杉。巨樹林化した境内で空を突き破るよう、一説では1000年ものあいだ伸びつづけ、サバイバルの頂点を極めています。しかしこの神社、実は奇怪なものに溢れたパラダイス。そんなパラダイスの片鱗を紹介します。

奇岩


関東では、群馬の榛名神社がいちばん好きです。
榛名神社の何がすごいのか?

この絵地図が、魅力の一端を説明してくれている気がします。

岩がぶよぶよと増殖しているような境内です。
実際、奇岩が多いです。

そろそろスライドしてきそうです。

子宮の入り口。

ヌボコ岩という名前がついています。
たぶん、ヌボコ=沼矛。ここから世界が始まったという意味だと思います。

そして、いちばんすごいのは、これ。

榛名神社の御神体だそうです。
よくこんな状態で長年月、落ちずに持ちこたえてきたなと思います。

しかも、落ちたら本殿もろとも瓦解です。

コントロール仕切っていない風景の魅力


あと、榛名神社は岩だけじゃなくて、こういう雰囲気も素晴らしいんですよね。

参道とは川を挟んで岸壁にあり、そこへ行くルートなど、ない。

現代アートっぽい。

なんかジワっときませんか?

まるで都市のように整備された伊勢神宮の魅力とは対極的で、混沌としたまま存在し、参拝者を野生の中に飲み込んでいく。そういうリアリティーが神宮に負けず劣らずの巨大なスケールで表現されているところが、榛名神社の魅力です。

矢立杉


そして目的の巨樹、矢立杉です。

2本の杉が生長の果てくっついてできた融合木でしょうか。
樹高40m超、幹周約10mの怪物です。

伝説では、1563(永禄6)年、上州に勢力拡大を図ろうとする武田信玄がここ榛名神社にきて戦勝祈願し、杉に矢を立てて(射して)祈願したため、矢立杉と呼ぶようになったそうです。
ちなみに山梨県の笹子峠にも矢立杉と呼ばれる巨樹があります。そちらも武田軍が戦勝祈願で矢を射立てていた杉だそうです。

パラダイス


矢立杉のように一本巨樹があると、その一帯はたいてい巨樹林になっている傾向がありますが、榛名神社も同様です。境内は「千本杉」と呼ばれる杉の巨樹林エリアになっています。

そのなかでも印象的だったのは、このバカでかい切り株の痕跡。

参拝者には見向きもされないような、本殿から一段下がったところ、便所の隣にあります。
何百年と生きた果てに今、消え失せるように存在しています。

電柱まで杉のデザインになってます。

なんでこんなところに米が!?
賽銭の一種でしょうか。

そしてこれ。
今となってはものすごい皮肉です。
トマトのF1品種普及を讃える碑が建ってます。

昭和32年に建てられたようです。
農業の未来を、化学肥料と農薬とF1種で夢見ていた、そんな時代の熱気を感じます。

あらためて全容を。

リスペクト!

データ:榛名神社の矢立杉


巨樹度:⭐️⭐️⭐️⭐️
国指定天然記念物 (昭和8年指定)
幹周:9.8m
樹高:43m
樹齢:推定600〜1000年
住所:〒370-3341 群馬県高崎市榛名山町849
アクセス:JR高崎駅から群馬バス本郷経由榛名湖行きに乗り榛名神社前で下車し、徒歩20分。高崎I.C.または前橋I.C.から車で約1時間。

巨樹ツアーのオフィシャルマップもあります。
みんなも自分で見つけた巨樹を、MAPに投稿してみてね。

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/