「養蜂で里山を再生する」みつばちの花里(仮称)プロジェクト現場を訪ねて。

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「養蜂で里山を再生する」みつばちの花里(仮称)プロジェクト現場を訪ねて。

農地再生事業を展開している日本リノ・アグリ(中村伸雄社長)が、養蜂によって休耕地を蘇らせようとしている。放棄されていった農地、失われていった里山の暮らし。さまざまな現代の課題に対し、ミツバチという視点で未来へのブレークスルーを狙う。そのプロジェクトの現場をルポします。

みつばちの花里(仮称)プロジェクト現場を訪ねて。

里山の生物多様性を取り戻そう

千葉県市原市にある212ヘクタールという広大な休耕地。
高度経済成長期からバブル経済期へという時代のなか、都心のベッドタウン計画により土地は虫食い状に売られ、そのままおよそ40年もの間、放置されてきた場所だ。
林野は荒れ、人の営みや暮らし、さまざまなものが打ち棄てられたままとなっている。

都内大手不動産会社からこの広大な休耕地を譲り受け、農地再生事業を始めているのが日本リノ・アグリという会社だ。同社は今、「みつばちの花里(仮称)」というプロジェクトに乗り出している。

養蜂という切り口で、休耕地にさまざまな植生を蘇らせ、里山の生物多様性を取り戻そうという。そして、それを事業として成立させようと。
この半世紀以上、夢少なく疲弊していくばかりだった農業という産業を、もういちど人と自然との関わりのなかで取り戻せないか、という試みでもある。

その日本リノ・アグリのプロジェクトを、社長の中村伸雄さんとともに、ブレーンとして現場に立ち先導しているのが、豊増洋右さんだ。

豊増洋右さん

2010年にap bankが立ち上げ話題となったオーガニックファーム「耕す 木更津農場」を現場で作り上げた人で、「農業で未来をどう作っていくか」ということを実践しつづけている。

そんな豊増さんの案内で、典型的な中山間地域の千葉県内陸部、その212ヘクタールに及ぶ休耕地を見てきた。

土の力を蘇らせる

このあたりの土は、火山灰土を母体とした黒ボクと呼ばれる土。
土壌としての質は素晴らしいのだが、長らく畑として使われず、荒れた茅畑のようになっている。土だけ盗まれてしまうこともあるという。

鉄塔まで広がる広大な敷地(これでも212ヘクタールという所有地の一部)に、少しずつ葉をのぞかせているのはヘアリーベッチという植物。
この秋に自分たちで種を蒔いたものだ。

このヘアリーベッチ、春には緑の絨毯となり、花が咲く。花に誘われミツバチが蜜をとりにやってくる。そしてこれが繁茂することで雑草も防がれ、枯れると今度は肥料となり土へかえっていく。
とてもロジカルな循環である。これが昔の日本の農業のやり方でもあった。

このまま5年ぐらい有機栽培を続けていけば、そのあと手を引いても本来の土の力が蘇り、植物は育っていくのだという。
「だからこんな茅畑にはならないんですよ。それこそお正月には春の七草がとれるような。イヌフグリやホトケノザ、レンゲなんかがわーっと生えて、穏やかな植生に変わります」と豊増さんは話す。

一方、有機栽培できついのは、2年目である。
「1年目は、最初に生えてた雑草の窒素分でいろんなものができるんですよ。でも2年目は、土のなかに微生物がいなかったりするんですよね。土の中の生物多様性ってすごい大事で。夏、盆明けくらいに草を刈りますよね。草を倒したままにしておいて一週間くらいしてめくると、正常な土だと白いカビがはえてるはずなんです。それが、ぜんぜん生えない畑がいっぱいあるんです。そういうところは歴代、除草剤や殺菌剤が撒かれていて、見た目はふかふかの土なんだけど、生き物がぜんぜんいない。スポンジと一緒なんです」

農薬があると農業はずいぶん楽になる。
しかし農薬を使うことで、微生物は姿を消し、土は疲弊していく。
疲弊した土で作物を育てるには、農薬、化学肥料など、一種のドーピングで作物を成長させていくことになる。
戦後の日本が合理化の果てに陥った農業のバッドループである。

体感によって伝える

市原市の北東部。
人口97万人という千葉市の隣市で、直線2kmのところに、ちはら台団地という大きなベッドタウンが見える。
これも都心に近い中山間地域の難しいところだという。
「つまり、やめやすいんですよね」と豊増さんは言う、「農業をやめてバイトすればいくらでも仕事があるし。逆に農業をやりパートさん雇おうと思うと時給1,100円から、ってなりますし」
耕作放棄地が増えていった要因の1つである。

こちらもリノ・アグリが所有する休耕地。奥の森も所有地だという。
ここはアブラナが蒔いてあり、春になると菜の花で覆われる。
これもまたミツバチの蜜源植物である。
ミツバチにはそこが畑の中か外かは関係がないので、畑の外、土手にも種を蒔いているという。

リノ・アグリのスタッフで自作した巣箱。

12月末だが、ミツバチはまだ活動している。(2017年12月26日に取材しています)

巣箱のある場所から一段下がった休耕地。
ここにはクリムゾンクローバーを蒔いているという。
「春からはここでキャンプをやれるように整備しようと思って」と豊増さん、「あの木にハンモックをかけて。真っ赤になったお花畑のなかハンモックに揺られながら。朝は巣箱をあけて、できたての蜂蜜でトーストを食べる。そういうキャンプをやってもらって、秋には蜂に恩返しっていうことでまた来てもらって、種まきを一緒にやってもらったり」

「みつばちの花里」は、養蜂を切り口にして体験をつくろうというプロジェクトでもある。
環境や農業など、批評性を含んだ重みのあるメッセージを持ちながら、そこをいかに楽しくポジティブなかたちで、しかも陳腐化させずに伝えていくことができるか。
「積極的に参加してくれる仕組みを作ることで、循環型とか環境に優しいといったことが、何より自分が楽しいことだっていうのを、まず問答無用で体感してもらう。それが大事だと思ってます」
そう豊増さんは語る

次回、インタビューへ続きます。

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/