巨樹ツアー 第5回「高源寺の地蔵ケヤキ、穴があるとついつい…」

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巨樹ツアー 第5回「高源寺の地蔵ケヤキ、穴があるとついつい…」

なぜだろう? 穴があるとついつい入ってしまう。穴はどうしてこんなにも僕たちを魅了するのだろう? 茨城県取手市の高源寺。そこにどうしようもなく穴のあいた巨樹がある。そしていつとは知らず、人はそこに地蔵を置いたのだった…

1600年の情報量


茨城県取手市の下高井。

常総線稲戸井駅前の商店街、「スナック・マリ子」の看板を抜けると、

トトロ村(昔ながらの農村)が現れます。

ここに、推定樹齢1600年といわれる巨樹があります。
1600年前というと、古墳時代。
聖徳太子よりも前の時代は文字記録がほとんどなく、言ってしまえば歴史の闇ですが、その時代の生物が今もいるということに、しみじみと驚かされます。

高源寺。
臨済宗のお寺で、この門の向こうに巨樹があります。

門をくぐると、見えてきました。

奥の方にひときわオーラを出してる幹が見えます。

主幹はすでになく、大きな空洞を残しながら四方に枝を伸ばして生き延びているようです。

ぼこぼこと複雑に隆起した幹肌は、別格の面構えです。

デジタル化により現代社会は情報量が増えたといいますが、このアナログな幹肌を見る限り、そんなことはないです。
1,600年かけて形づくられた老木の幹肌の複雑さには、コンピューターでは処理再現できない情報量があります。
おそらく、この樹一本の情報量だけでグーグルのデータセンターをフリーズさせることもできるはず…

火災でできた穴


それはともかく、何よりもここの巨樹が魅力的なのは、そこにお地蔵さんがいることです。

400年ほど前にこのお寺の本堂で火災があったとき、ケヤキの根元に荷物を運び出した。ところが、その荷物に火がつき、類焼してこのウロができたそうです。

そのウロにいつともなくお地蔵さんが置かれたのです。
この「お地蔵さんを置く人間の感覚」、めちゃくちゃ良くないですか?

戸隠神社のウロのある杉もそうでしたが、穴があると何か入れたくなる、拝みたくなる人間文化。このどうしようもないほど深いところからやってくる穴のイメージ、僕は好きです。

この穴をくぐってお地蔵さんに詣でれば安産になるそうです。今は樹勢保護のため周囲に柵を巡らせているのでできませんが。
やはり子宮と産道、ママの胎内のイメージのようです。

まだほかにもある巨樹


ちなみにこの高源寺、地蔵ケヤキのほかにも保存樹に指定されている巨樹が何本かあります。

中でもこれがかっこよかったです。
装甲した巨樹。

樹木医の診断で腐敗を防ぐために処置したものと思われます。しかしながら、目的とは別のビジュアル効果が出ています。
しかしこの樹も随分太いな。

あと、この鉄柱。

なんだこの不粋な鉄柱はと思ったら、スダジイを支えるための壮大な手当でした。

ちなみにこのスダジイも保存樹です。


幹周4.4m、カヤノキの巨樹もあります。


このツバキも保存樹のようです。
ツバキにしてはずいぶん大きい。

そしてこのお寺にきたらぜひお勧めしたいのが、この寂れたベンチ。
このベンチに座っての一服です。

ただなんとなくここに置かれてるわけではないようです。

ベンチに座って見える景色は、こんな具合です。

まさに、巨樹を眺めながら一服できるようにと置かれています。

かつて火災で本堂は焼かれ地蔵ケヤキは類焼したのですが、それはそれとして、愛煙家に厳しい今の時世、この寛容さに“仏教”を感じます。

あらためて全容を。

リスペクト!

データ:高源寺の地蔵ケヤキ


巨樹度:⭐️⭐️⭐️⭐️
幹周:10m
樹高:18m
樹齢:1600年
住所:〒302-0038 茨城県取手市下高井 1306
アクセス:
関鉄常総線ゆめみ野駅、稲戸井駅から徒歩約20分
常磐自動車道谷和原ICより約30分

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/