巨樹ツアー 第3回「大塩のイヌザクラ、これはまるで妖怪…」
巨樹ツアー 第3回「大塩のイヌザクラ、これはまるで妖怪…」
長野県の大町市に妖怪みたいな巨樹があるというので行ってきました。しかしまあ巨樹はたいてい妖怪みたいなものですが、こいつはまた何としたことか。山里に現れた孤高の怪物は、どこかファンタジーのにおいも放つ巨樹にも見えてきて…
目次
樹木子
長野県の大町市にすごい巨樹があるということで、行ってきました。
何でも、妖怪みたいな木だということです。
木の妖怪といえば、樹木子(じゅぼっこ)というのがありますね。
樹木子(じゅぼっこ)は、(中略)多くの戦死者の出た戦場跡地などに生えており、外観は一般の樹木と変わらないものの、死者の血を大量に吸って妖怪と化しているために血に飢えており、通りかかった人を捕まえ、枝々を管のように操って人の血を吸うとされる。
いいですね、樹木子、お金に飢えた都会のカマキリ人間みたいで…
そんな次第で、今回は長野の大町市へ行ってきました。
いざ接近
大町市。
英訳するとビッグ・タウン・シティです。
ビッグ・タウン・シティ、こんな感じです。
長野インターから車でおよそ1時間。
山間の田野に忽然とサインが現れます。
「県指定天然記念物 静の櫻(イヌ櫻)入口」と書いてあります。
ここからさらに山道を数百メートルと行くと、到着です。
おしゃれに公園化されています。
奥の方に、面構えのいい物体が写ってます。これですね。
近づいてみます。
素晴らしい。
木の髭
これは素晴らしい。
面構えが完全にアウトサイダーアートです。
高さはそんなにないです(推定20m)。
幹から枝まで全身、トルネードしてます。
…確実に何か吸い込んで生きてますね。
ずっと何かに似てると思ってたのですが、今ようやく思い至りました。
「ロード・オブ・ザ・リング」に出てくる木の髭ですね。
木の髭、これです。
…
似てると思ったけど、あんまり似てなかったですね。
でもなんとなく、雰囲気が似てる気が。
夜になると歩き出しそうな感じとか、似てる気が。
試しに、ケルトっぽい感じにしてみます。
完全に「ロード・オブ・ザ・リング」です。
「静の桜」伝説
ちなみに昭和2年当時の写真が園内に掲示されていました。
これです。
当時と比べるとだいぶ樹枝が折れてしまったみたいです。
ずたずたに折れてます。
1962年に、長野県から天然記念物に指定されています。
樹種はイヌザクラ(犬桜)。
「静の桜」、または「大塩のイヌザクラ」として知られてます。
5月下旬~6月上旬にかけて、小さな花を咲かせます。
こんな近くなのに、双眼鏡がないと見えないくらい小さいみたいです。
おそらくこの周辺環境からして、神社のような人間が定めた聖域の中で守られてきたわけでもなく、交通の分岐点で目印として守られてきたわけでもない、自力自生型、山間に生えていた樹木の生き残りと思われます。
こういう巨樹を僕は「インディペンデント型」と呼んでいます。
インディペンデント型には、戦い抜いてきた巨樹ならではの屈強な味わいと、戦い抜き最後は1人になってしまった寂しさのようなものがあって、そこがすごくいいです。
ちなみにこの大塩のイヌザクラには、伝説があります。
時は鎌倉時代、源義経の妾であった静御前は、奥州(オウシュウ)へ逃れた義経を追って、間違えてここ大塩(オオシオ)に来てしまいます。ここが奥州ではないと知った静御前は途方にくれ、病に倒れ、義経との再会を果たせないままこの地で亡くなります。そのときの旅の杖が根を張り、このイヌザクラになったといいます。
今ならメールで確認すればすむでしょう。
そんな悲しい伝説が、この八角堂の四阿に掲示されています。
「静の桜」伝説。
信州大学の市澤静山教授が執筆されたという、署名つきの立派なレリーフです。
残念なことに反対側は、日に焼けて真っ白になってます。
人間がどんなに立派なものを拵えようと、放置すればものの数年。
自然の力による経年変化でヤられてしまう、この感じ。
僕はこういうところにいちいちグッとくる人間です。
あらためて全容を。
リスペクト!
データ:大塩のイヌザクラ
巨樹度:⭐️⭐️⭐️
幹周:8.0m
樹高:20m
樹齢:800年? 1,000年?
住所:長野県大町市美麻大塩3342
アクセス:JR大糸線信濃大町駅からバス16分→徒歩5分/または長野自動車道「安曇野IC」から車約50分/長野ICから60分