巨樹ツアー 第6回「善福寺の逆さイチョウ、これぞ麻布」

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巨樹ツアー 第6回「善福寺の逆さイチョウ、これぞ麻布」

高級住宅地で、大使館と警官にあふれる対テロ地区の麻布。そのど真ん中に、もう一方の麻布の顔を映すように、古い記憶を残したヌシがいる。ハイテクモダンな森ビルの横でむやみと乳を垂らし、母乳の出る怪しい漢方薬みたいな信仰を今に伝える。聖人が杖をさせば大地のエネルギーが溢れ出す。麻布、一体ここは、なんなのだ!?

フォレストタワー


今日の僕は、広尾駅から、麻布の高級住宅街を抜けていきます。

カメラをぶらさげ撮り歩く「ただの巨樹好き」の振る舞いに、方々にいる警察官が「テロリスト警戒」の熱い視線を注ぐ。
そんな大使館エリアです。

こんなフランク・ロイド・ライトっぽい高級アパートの前を、

こんなコルビュジェっぽいインターナショナルスクールの横を通り抜け、

目的の善福寺に到着します。

イヤな予感がします。

うう。。

これは、結構歩くよ。。。

寺を回り込む程度じゃ許してくれないですね。
集落まるごと、3ブロックくらいを回り込まないといけない。

”合理都市東京”に最後まで抗う麻布の盆地構造に頭が下がります。。。

ようやく到着です。

巨樹、登場。

元麻布ヒルズ「フォレストタワー」という森ビルが建設した高級マンションです。

これもある意味、巨樹のような気がしますね。。。

ちなみに元麻布ヒルズ 、元は善福寺の所有地で、バブル景気前の1983年、森ビルが譲り受けて高級マンション地となり、今、このフォレストタワーが建っているそうです。

今調べたら、本当に樹木をイメージコンセプトにしてるみたいです。

コンセプトは「森の都市」。大きな樹木のようなフォレストタワー(高層棟)を中心に低層棟(2棟)を配し、…

出典: http://www.mori.co.jp

母乳が出る漢方薬か?


その森ビルがつくった巨樹よりは一回り小さいですが、

フォレストタワーの左手にあるのが今回目的の巨樹、「善福寺の逆さイチョウ」です。

墓地内は撮影禁止ゾーンですが、特別に許可をもらい撮ってきました。

これです。

そしてこれです。

こういうのを見たら人間の考えることはもう決まってますね。

おっぱいです。

昔は、母乳の出の悪いお母さんたちが善福寺へやってきて、この垂れた枝をガリガリと削っては飲んでたそうです。
しかも「効果があると評判だった」そうです。…ヤバいですね。

実はこれは枝から根っこが生えてる状態で、「気根」といいます。
平たくいうと「垂れ乳」。
この気根を枝と見、逆に枝を根っことして見ることで、逆さイチョウという通称になってます。

反対側はずいぶん焼かれてしまってます。

1945年の東京大空襲で焼け、そのときに上部を失っています。
ほとんど枯死状態になったらしいですが、根元から蘇生を始め、イチョウ特有の耐火性の強さもあって今の勢力を取り戻したそうです。そして今も、年々数ミリのペースで樹周は成長を続けているという話だそうです。

杖のイメージ

イチョウの前には親鸞上人の銅像。

親鸞の背中姿。哀愁が漂います。

この善福寺、もとは真言宗でしたが、鎌倉期に親鸞が訪ねてきたことで感化され、浄土真宗へと改宗したという歴史があります。

そのとき親鸞がさした杖がこのイチョウになったという話です。

そういえば大塩のイヌザクラも、静御前がさした旅の杖でしたね。

長野県の大町市に妖怪みたいな巨樹があるというので行ってきました。しかしまあ巨樹はたいてい妖怪みたいなものですが、こいつはまた何としたことか。山里に現れた孤高の怪物は、どこかファンタジーのにおいも放つ巨樹にも見えてきて…

杖は、大地から生命力を引き出す「揺すぶる力」の象徴でしょうか。

どうもこの「杖」のイメージには、人間思考のかなり古い形態が残されている気がします。

ちなみにこの善福寺の参道には「柳の井戸」と呼ばれる、東京では珍しい湧き水があり、

これもまた杖のイメージで、
空海が錫杖を立てたところ水が湧き出してきたそうです。

必見 越路吹雪の碑


そして親鸞銅像と向かい合う格好で、

まるでタメを張るように越路吹雪の碑があるのに、グッときます。
聖なるものの真ん前に、俗世界の偶像。
わざわざ皇居を迂回して東京を破壊した着ぐるみのゴジラくらい、深いものを感じます…
ちなみにゆかりのお寺かと思いきや、越路吹雪のお墓は川崎にあるそうです。
この文脈をまるで無視した感じ、すごいです。。。

またこの石板がすごいです。

すごくないですか?
この石彫り文明の技術。

蛇足もいいところですが、除幕式の写真を見つけました。

出典: http://www.excite.co.jp

越路吹雪の碑の前でポーズをとる宝塚の2人に、プロフェッショナリズムを感じます。

あらためて全容を。
リスペクト!

データ:善福寺の逆さイチョウ

巨樹度:⭐️⭐️⭐️
国指定天然記念物
幹周:10.8m
樹高:20m
樹齢:750年(伝承)
住所:〒106-0046 東京都港区元麻布1-6-21
アクセス:
東京メトロ南北線、都営地下鉄大江戸線・麻布十番駅から徒歩4分
東京メトロ日比谷線・広尾駅から徒歩18分

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/