新潟の古民家をめぐる その2「骨組みだけの農家に免震の知恵を見る」

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新潟の古民家をめぐる その2「骨組みだけの農家に免震の知恵を見る」

豪雪地帯の古民家にはいい木が使われている。糸魚川の古民家を訪ねたあと、僕らが向かったのは東へ20kmほど、長野県上越市。またしても山裾の古民家です。解体が進み、骨組みがあらわになったその姿に、伝統構法の知恵が浮き上がっていました。

上越の古民家へ

糸魚川の古民家を見たあと、大工さんたちとふたたび日本海沿いを、今度は東へ向かって車を走らせます。

日本海。相変わらずの荒れ模様。

40分ほど車を走らせて到着。

またしても山裾にはりつくように建った古民家でした。

解体が進み、骨組みがあらわになっています。

雪国は山裾の古民家。山から木を伐りだしてきて、それを冬、そりに乗せて斜面を下ろしてくる。さらには雪が降ったらそこで雪山をつくり、櫓を建てて梁を組み立てる。
雪国において山裾という立地は、家を建てるにいろいろやりやすかったと言います。

防腐の煤、免震の扠首(さす)

慣れた感じで大工さんは天井へあがり、状態を確認します。
おそらくこの家、山仕事をしながらの農家だったと思われます。
骨組みだけの状態が、古民家の構造をよく説明してくれます。

間取りも透視図のように見えます。

いい梁。煤で黒光りしています。

すごい煤の量です。
昔の人が掃除を怠ってたという意味ではありません。
実はこれ、煤が木の腐敗を防いでいるのです。

糸魚川の古民家より鉄砲梁は細めですが本数はこっちのほうが多く、それがこの家の特徴になっています。

まさに鉄砲梁です。銃床の形そのもの。

そして何より、今回注目したいのはこれです。

先端の尖った丸太のようなもの

傍に捨て置かれていましたが、この尖った先端が、、、

ここ、2階部分の角の、この三角形の穴ぼこにハマっていたそうです。

傍に捨て置かれていたあの丸柱は扠首(さす)といい、この穴ぼこに尖った先端をさし、合掌造りの屋根構造を作る柱として使われていたそうです。

驚くべきは、穴ぼこにさすだけで、釘も使わなければ、木組みで固定してもいない。たださしているだけです。

当然、地震がきたらぐらつく。
でも、これが倒壊しない。
なぜか?
ぐらつくことで力を逃しているからです。免震の知恵です。

古木がもつ数百年の癖

そしてこれ。「よ八」と記された柱。

わかりますでしょうか? 湾曲しています。

何年ものあいだに古木がすこしずつ癖をもってきた結果、ここまで湾曲したようです。

古民家を解体すると、柱にたまった何百年分のそうした癖が一気に出て、さらに曲がるそうです。
古民家移築をする場合、そうした柱があったときはホゾ穴を埋めて、新しい接点に入れる作業が必要になるそうですが、ここまで曲がっているものは、果たして使えるかどうか。
なんにせよ「古木は生き物」という言葉の意味の、1つの象徴です。

そしてこれ。
古建築に興味のある人はみんな知っていることだと思いますが、僕はいつもこれを見ると妙に感動を覚えます。

建物が、 石の上に乗っかってるだけ。基礎工事もなし。かっこいい…。
これも免震の知恵です。
日本最古の建築と言われる法隆寺もそうですね。石の上に乗っかってるだけ。
自然に優しい、だけではない。
柱をガチガチに固定していないので、かえって地震で揺れがあったときに力を逃してくれる仕組みです。
このやり方で何百年も、何千年も、倒壊せずに建ってきたわけです。

何もこの話は、建築の話だけにとどまらないわけです。子育てや教育、はたまた、人の働き方…。
ガチガチにやったらちょっとした負荷がかかっただけで心はポキリと折れますよ、と。ちゃんと心がしなるように免震してください、と。

伝統建築の技法は、ただのテクノロジーではないことを思い知らされます。

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これで連載「新潟の古民家をめぐる」は終わりです。
お読みいただきありがとうございました。

連載「その1」はこちら↓からお読みください。

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/