世田谷フレンチ、ルレサクラさんに訊く。住宅街で人気店になれる理由。

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世田谷の住宅街に構える、古木を使ったフレンチのお店、ルレ・サクラ(Relais Sakura)さん。お客さんの8割は常連客、それも界隈の住宅街に住む人がほとんどだそうです。つまり地元に愛される人気店。そうなるには何かしら理由があるのだろうか? ランチをいただきながら、そのあたりの話を伺ってきました。

住宅街に構えるフレンチの人気店

世田谷は桜新町駅から歩いて8〜10分。呑川の桜並木に隣し、住宅街に構えるフレンチの人気店ルレ・サクラさん。ちなみに、ここも古木を使ったお店です。

 柱、天井を飾る梁、そして窓面にあしらわれた古木という古木が、コンクリート打ちっ放しの天井、白い壁という無機質な空間に溶け込み、有機的な空気を醸し出しています。

住宅街といっても、実はそのいちばん端っこ。国道246号線沿いのやや埃りっぽい立地で、ここでオーナーの今成貴志さん(44)がお店を作ると決めた当初、飲食の知り合い仲間たちからは「こんなところでお店を構えても流行らない」と、止められたといいます。

 そんなことを言われながらも、今成さんは儲かるか儲からないかはともかく、「実験的なラボみたいな感じ」でお店をスタートしたといいます。
 そして、周囲の予想とは裏腹に、今のような人気店にまで育て上げました。

 2011年11月11日にオープンし、今年、2017年で6年目。立地面において圧倒的に不利といわれながら、なぜ成功したのか?

 シェフを務めるのは、土田光助さん(38)。今成さんとは16年前からの飲食業仲間で、「どうせ流行らないだろう」と言われたこの場所でお店を立ち上げた理由の一つには、「土田君が(隣駅)用賀の生まれの育ちだったので、その近隣ならまあ応援もしてもらえる」という、あてのようなものが今成さんにはあったといいます。

人と地の縁で共同体を作る。

そして土田さんだけでなく、ほかのスタッフさんたちも、今成さんが青山1丁目のお店で仕事をしていたころ、近くのお店でパティシエをやってた人だったり、そのお店のシェフの息子さんだったり、みんな旧知の仲間たち。人の縁です。

 そして飲食店、とりわけ個人経営の飲食店は経済範囲が多かれ少なかれ地元密着です。
 お店がやっていけるかどうかは、300km離れた地の人がグルメ観光本を手にやってくるかどうかではなく、1km圏域に住む人がその店に来てくれるかどうかだったりします。つまり、地の縁。

人の縁と地の縁。
 今成さんの考えるお店は、こうした縁の上で作られた共同体のような空間で、その考えを加速させるようにしてお店を立ち上げ営むとどうなるか。
 そういう意味での「実験的ラボ」なのかもしれません。

住宅街でやる面白さ

どうやら、駅から少し離れながらも、人が住む住宅街にお店を構えよういうのも、そういう思いの必然からきているようです。
 お客さんとは公私を超えたお付き合いになるそうで、冠婚葬祭に出席することもあるといいます。

 今成さんは言います。
「飲食人生25年経ってる中で、住宅地でやる面白さっていうのがあったんですね。仕込みで帰れないときに布団を差し入れてくれたりとか。もちつもたれつ、ともに生きてる感じがして、こういう住宅地はいいな。やっぱ金儲けじゃないな。人の生きるも死ぬも立ち会うし、なんかいろんな場面にいるんで、やりがいがありますよね」

 レストランでもビストロでもなく、フランス語で休憩所を意味する「ルレ」としたのも、同じ理由からだったそうです。

 実は今成さん、元々演劇人で座長もやってた人。20代のころは飲食アルバイトで生活を支えながら、ためたお金をぜんぶ演劇で使っていたといいます。
 どうやら、この仲間の一座でお客さんを楽しませるという演劇の経験が、「人の縁」をベースにしてお店を経営する話に繋がっているよう。

 ルレ・サクラというフレンチのお店は、「ルレ・サクラという一座」が、地元の人も一座の仲間のようにして運営していく、そんな地域空間を作り出していく不思議なお店、だったりして。

ランチを食べてきた

そして今回、僕はランチを食べにいったのですが、そのメニューがこちら。

お勧めを訊くと、やはりどれも美味しいという返事だったので、ただ意味もわからず凄そうな名前に惹かれて、こちらを注文しました。

熊本産地鶏・天草大王のトゥルヌドグリル。
 
 訊いたら、天草大王という熊本産地鶏がいるらしく、その地鶏を背中から1枚に開いたあと、トルネードみたいにロール仕立てにし、グリルで焼いたものだそうです。この天草大王という鶏肉、かなり弾力があります。
 背開きであらゆる部位を巻き込んでトゥルヌド(仏語:英語のトルネード)しているので、1度にさまざまな部位の肉が楽しめるという、10種競技選手みたいな優れものです。

 彩りを添えているのが、地元世田谷で作られた野菜。地元のファーマーズマーケットで買っているそうです。
 そしてグリーンマスタードソースのつんとした酸味とハーブの香りが、肉のまったりした旨みと合ってます。
 天然酵母で作った自家製のフォカッチャ(下写真)とサラダとコーヒーがついて1,700円。

ランチもディナーもたくさんのお客さんで賑わい、8割は常連客。毎日のように通いつめる人もいるといいます。

 この日も、ランチ営業が終わっても今成さんと談笑しているお金持ちそうなおじさんがいました。昼からワイングラス片手に、イタリアっぽいリゾートパンツとエスパドリーユをはいていて、「おおー、なんか知らんけど世田谷…っぽい」と思いました。

ルレサクラさんの情報はこちらになります。

最寄り駅: 桜新町駅から徒歩10分
TEL: 03-5760-6319
住所: 東京都世田谷区新町1-36-9
営業時間: 11:30~14:00(L.O) 18:00~22:00(L.O.)
定休日: 月曜日
WEB: http://relais-sakura.com/index.html

オシャレなフレンチのお店ながら、ルレ(休憩所)の名の通り、肩肘張らず落ち着ける場所です。

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/