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【居酒屋】「日な田」 東京都・神保町

路地裏の居酒屋。フラっと立ち寄りたくなる懐かしい店

東京23区の中心地・千代田区にある、世界最大とも言われる本の街が神保町です。ご存じの通り古書店がたくさんあり、味わい深い店舗が軒を連ねています。また、本だけでなく喫茶店などの飲食店の激戦区でもあり、カルチャーを発信する個性の強い街として知られています。

 今回ご紹介する「日な田」は、そんな特徴的な街にあります。目抜き通りである「白山通り」から少し入った路地裏にあり、木を使ったファサードが印象的な和風の店舗。

「ずっと昔からそこに佇んでいるような店」の雰囲気を心がけ、風情のある街・神保町を懐かしむ方もフラっと立ち寄りたくなるようなデザインで仕上げています。

お店のメインテーマは、店主の故郷である大分や修業時代の福岡のメニューを中心とした郷土料理を提供する居酒屋です。

店舗の中に入るとまず目に飛び込んでくるのは、L字の大きなカウンターの上に回した、象徴ともいえる木組みの梁です。

100年以上前の古民家で使われていた荒削りの八角丸太で、波打つような曲線や力強さがあり、見る者に深い印象を刻みます。

新材にはない、荒々しい姿は非日常的なインパクトを残してくれます。

重厚感はほどほどに。若い人でも入りやすいデザインに

一方で、店舗の内装で心掛けたのは、コテコテの民芸調にはしないこと。オープンキッチンスタイルで、内装の一部にタイルのアクセントウォールを用いるなど、若い方や重厚感がありすぎる空間が苦手な方でも入りやすいデザインにすることでした。

重厚感がありすぎると、人によっては「入りづらい」と感じてしまうものです。また、お店の前で足を止めてもらうアイデアとして効果的なのが、外からお店の中が「見えそうで見えない」つくりにすることです。

10席程度のオープンキッチンスタイルの居酒屋。

多彩な素材と質感が溶け合う、若い人でも入りやすい空間。

日な田の入り口の建具は、縦格子とガラスをはめ込んだ造作のオリジナルで、外からでも光や人影は何となく見えるものの、近づいて覗かないと、中の様子をうかがい知ることはできません。こうした、興味をそそるデザインアイデアも、店舗づくりでは重要となります。

今回は店舗の内装に予算の比重を高めるために、外装(ファサード)は通常の木材にヴィンテージ風の塗装を施し、シンプルに張り付けた形としました。それでも、効果的な照明計画や引き戸のデザインの印象により、味わい深い店舗の印象を阻害することなく、役目を果たしています。

照明を上手く使いながら、木の質感を引き立てている店舗のファサード。

店舗づくりは、当然予算ありきで進んでいきます。限られたコストをどこに注力するかについては、まんべんなく予算を配分するのではなく、こだわりたい箇所に注力するなど、メリハリをつけた予算配分が、成功への道だと考えています。

器も店主の故郷にある名器でコーディネート

こうした店舗の計画に加えて重要視したのが、店主の地元にある窯元の「小鹿田焼(おんたやき)」や「小石原焼(こいしわらやき)」の名器を使って郷土料理を提供することでした。

店主の地元である大分の「小鹿田焼(おんたやき)」の器。幾何学模様が美しいです。

この二つの焼き物は、それぞれ大分と福岡のもので、歴史的に見ても兄弟関係にある焼き物として知られています。独特の幾何学模様や削り模様が特色で、実は洋食にもマッチしそうなモダンな印象もある器です。

料理の味のよさもさることながら、店舗自体のデザインと同時に器にもこだわるトータルコーディネートを行うことで、ただの食事ではなく、東京に居ながらまるでショートトリップをしているような「体験」としてお客様に記憶されます。

ただの記憶ではなく、印象深い体験として残ることで、「また行きたい!」「知り合いも連れていきたい!」などの、リピーターさんの発掘にも繋がっていきます。

「日な田」は昨今の感染症による自粛要請解除後には、常に予約でいっぱいの人気店になりました。まだまだ予断を許さない状況の中でも、夜には3回転するほど大盛況しています。

 本物の素材の中で食べる郷土料理は、より一層おいしく感じること間違いなしです。ぜひ一度、訪れてみてください。

【公共施設】「道の駅小谷(おたり)」 長野県・小谷村

©ナカサ&パートナーズ

開業20周年記念リニューアル。山翠舎による2度目の施工

新潟県との県境にある長野県安曇郡小谷村。

ここには、山翠舎の古木を使った施工店舗・第一号店の「道の駅おたり」があります。1999年に村営(第三セクター)の施設として開業し、その後2009年に山翠舎の施工によりリニューアルオープン。そして、開業から20周年を迎える20019年に山翠舎による2度目の施工がスタートし、2020年6月に再びリニューアルオープンを果たしました。

今回、2度目の依頼を受けたことは、1度目の成功があったからこそ実現したと考えています。客観的な指標の一つに、「関東道の駅ランキング」があります。

関東甲信越には、160件以上の道の駅があるのですが、ランキング上位の大半は何度も足が運びやすい、アクセスの良い東京近郊の道の駅です。

この道の駅小谷は、関東甲信越では東京から300km程離れた、かなり遠い道の駅にもかかわらず、常に人気上位の15位~20位前後にランクインしてきました。

ちなみに、「全国道の駅ランキング」(調査元/全国道の駅連絡会)でも、50位以内が定位置です。全国には1600件以上の道の駅があることを考えると、アクセスの悪い「おたり」が50位以内に入るというのは驚きです。

今回の2度目のリニューアルでは、さらなる魅力あふれる空間づくりで、道の駅という商業施設にしては、異例のSDGsの発想と高いデザイン性とを取り入れた空間にこだわりました。

©ナカサ&パートナーズ

古木の小屋組みに包まれた空間で、買い物を楽しむ

「道の駅小谷」は、事業の継続が村の雇用創出に直結する重要な施設。地域住民や近隣の白馬村に来る観光客、首都圏からの集客を見込むことから、他にはない、オリジナリティが求められていたのです。そこでポイントなったのが、古木を使ったデザインに溶け込む、地元ならではのデザイン性でした。

まず、写真からも分かる力強い小屋組みは、地元小谷に点在していた、築100年近くで倒壊、もしくは解体した古民家の梁や柱を、山翠舎で回収・加工したうえで、味わいを残しながらインテリアの象徴的な要素として再利用しました。

地元の名産品やお菓子、記念品などの小売商品を取り囲むように配された古木の空間は、買い物を楽しむと同時に、古木を体験することにつながります。

ここを訪れる多くの方から聞かれる言葉が、「木の存在感がすごい」。

©ナカサ&パートナーズ

昔の職人による手刻みの跡が荒々しく残る古木を、そのまま組み上げました。同じ部材は二度と手に入らない、歴史的にも価値が高い。未来に引き継ぐべき空間です。

新しい木では醸し出せない、生命の力強さ、重みを感じると評判です。また、買い物や飲食、見学の傍ら、思わず柱を撫でてしまう体験も記憶に刻まれることになります。ここでしか手に入らない商品を販売している道の駅小谷を、ここでしか体験することの出来ない空間として形にしました。

地元職人や作家とコラボした空間づくり

そんな、古木の空間の中に佇むのが、印象的なコブがある、シンボルツリーです。これは、小谷村の天然記念物に指定されている「乳房の木」をイメージした造形。

「乳房の木」は北小谷地蔵峠にあり、太さ5.8m、樹高約15mの大木で、幹に乳房に似た5つの大きなコブを持つセンノキです。古くは地元の民間信仰の対象になっていた由緒正しい小谷村の至宝の一つです。

それをイメージして、直径60cmの鉄骨構造柱にコブのある杉の木を使い手仕事で造作・デザインを施しました。担当したのは家具の匠、渡部大工です。

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左に見えるのが、地元の天然記念物「乳房の木」をイメージした造作の柱

そして、売店のレジカウンターの背面には、北アルプスのジオラマを茅葺で再現。伊勢神宮の式年遷宮も手がける小谷屋根の茅葺職人、松澤朋典氏による「茅葺アート」です。試飲カウンターの腰壁に貼られているタイルも注目ポイントです。陶芸作家、萩原良三氏による小谷の土を使ったタイルが採用されています。プリントタイルとは違う天然の質感を創出しました。

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伊勢神宮の式年遷宮も手掛ける小谷屋根・松澤朋典氏による茅葺アート『オタリノジオラマ』

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地元で活躍する陶芸家の荻原良三氏のオリジナルタイル。所有の釜で一枚ごと焼く事で表情の違うタイルを実現

なめらかな左官仕上げの壁は、酒蔵の杜氏も務めるという異色の左官職人、小林幸由氏による仕事。小谷の土にて重厚な土壁を仕上げています。

この他、「ぼろ織り」と呼ばれる地元に伝わる裂織の作品を展示しています。若手作家の作品と明治時代の作品を比較して展示することで、過去と現在を結ぶモノづくりの面白さや小谷の連綿と続く文化・歴史を紹介しています。

今回活躍した。、職人や作家の大半が地元で活躍する人間です。地域に眠る価値を、地域で活躍する個性豊かな職人達の技で、空間に引き出したのです。地方に残る経済圏を崩さず、その記憶を未来に残す提案は、長野県SDGs推進企業として登録されている山翠舎が得意とする取り組みの一つです。

本物の質感が作り出す、臨場感あふれる空間を、ぜひ体感してください。

【オフィス】「山翠舎東京支店」 東京都・広尾

長野県上田市の古民家にあった太い梁と柱を再利用

オフィスや飲食店が立ち並ぶ恵比寿から、数分歩いた先にある閑静な住宅地、広尾。交通の利便性も兼ね備えた心地よい街です。ここにある一室を、古木などを用いてリノベーションで仕上げたのが、山翠舎の東京オフィスです。

お問い合わせをいただいたお客様を最初にお迎えする打ち合わせスペースで、気軽に当社が提案する空間づくりの一端を感じていただける場所です。こちらのスペースについてご紹介させていただきます。

木の温もりあふれる空間の中でひと際目立つ太い梁と柱は、長野県上田市塩田の古民家を解体したときに得られた古木です。この古民家はご近所でも親しまれていた大きな屋敷で、樹齢100年近くと推定されるケヤキの柱と松の梁には職人による手刻みの跡が残っていました。この貴重な古木を保存・修復し、このスペースに足を踏み入れてすぐ目に入る場所に設置しました。

 存在感たっぷりの柱は、とくに「恵美寿柱(えびすばしら)」と呼んで大切にしています。恵美寿柱とは、大黒柱に次ぐ古木の柱のこと。もともと「恵比寿柱」として辞書にも掲載されている古い言葉ですが、当社は「比」を「美」に変えて、「美しく再生された、商売繁盛のご縁木」という意味をもたせています。 ちなみに「恵美寿柱」 は当社の登録商標です。

 また、打ち合わせスペースには複数のやや細めの柱も立っていますが、これらは古民家などで梁として使われていた古木を、あえて柱風に設置しています。出入り口付近に列柱のように配置することで、袖壁のような役割も果たしています。

 香りがわかるほどに近づいて細部をじっくり観察すれば、絶妙な曲線、色彩の移り変わり、ホゾ穴の名残など、経年の中で形成された多彩な表情を見ることができます。ぜひお客様ご自身の手で触れて、古木が語るストーリーに耳を傾けてください。

淡い色調の板壁がアクセントになり明るくモダンな空間が完成

 壁に設置した重厚感のある引き戸も、上田市塩田の古民家を解体したときに得られたもの。土蔵の入り口部分に使われていた建具で、蔵戸と呼びます。

本来は大変重量のある建具で、開閉にもグッと力を入れる必要がありますが、吊り戸として現代風に使いやすく加工したことで、指一本でも軽く動かせる建具に生まれ変わりました。全体もきれいに磨き上げているものの、新建材にはない、独特の重厚感のある雰囲気が空間を引き締めています。

 打ち合わせスペースの奥の壁には、ザラ板やガラなどと呼ばれる幅80㎝、厚み12㎝程度の板を貼り付けました。もともとは下地となる天井材などとして用いる板ですが、まとまった枚数が倉庫にあったので、壁の装飾に再利用。デザイン性を意識しながら、あえて縦横に貼り付けたことで、面白い表情が生まれました。

 当初、この板は白塗りではありませんでした。茶色や褐色の板の色味をそのまま出していましたが、色が濃すぎて全体のバランスを崩すと感じ、白い塗料で現場にて色味を調整。木目を潰すことなく、木のテクスチャーを活かしながら塗装しました。その結果、古材の梁や柱、蔵戸などを使った重厚感のある空間の中で淡い色の板壁がアクセントになり、モダンな雰囲気が息づく空間に仕上がりました。

古木のイメージにぴったりの、ナチュラルな素材でまとめたインテリア

 そのほかのインテリアにも着目してみましょう。

打ち合わせ用のテーブルは、松の一枚板を丁寧に加工した逸品。樹齢200年はある立派な一枚板で、大きなスペースにたくさんの資料を広げられます。肌触りもよくストレスなく話し合いができると好評です。

また、壁は左官職人が熟練の腕をふるった漆喰塗りで、室内の空気をきれいにする効果も。そして、何気ない床の絨毯にもこだわりがあります。天然の麻を原料とする「サイザルカーペット」を採用ししています。毛足のやや深い腰のある麻の繊維が、足に心地よくフィット。自然な色合いが空間全体に良く馴染みます。機能的な点では、静電気を発生しないため、ほこりの堆積を抑えることもできます。

 さまざまなご用で来社されるお客様をお迎えする東京オフィス。ここは、これからの時代のオフィスの在り方を見ることもできる場所です。感染症によって、リモートワークが増えることで、大きなオフィスは不要になりました。とはいえ、企業としての拠点は必要です。そんなとき、小ぢんまりとした空間でも、古木のように印象的でこだわりの空間としてまとめることで、企業のブランドはグッと高まります。面積が狭い分コストも抑えることが可能です。

「存在感たっぷりの恵美寿柱に触れてみたい」「指一本で簡単に開閉するリメイク蔵戸を体験してみたい」。こうしたご要望でも結構ですので、いつでもお気軽にお越しください。

100年前の古民家の梁が息づく居酒屋。

<東京都神保町・日な田>

路地裏にある『日な田』は、大分と福岡の郷土料理を提供する居酒屋。郷土料理店にありがちな民芸調ではなく、若い方たちも入りやすい、シンプルに木のぬくもりを体感できる空間とした。印象的なのが、カウンター上部の木組みの梁。100年以上前の古民家で使われていたもので、上品な空間に力強さを添えた印象的な店舗に仕上がっている。

before
after

店主の故郷である窯元の小鹿田焼きや小石原焼きなどの民芸の器で料理が提供される。本物の素材の中で食べる郷土料理は、ただの食事ではなく印象的な体験としてお客様の心に刻まれる

倒壊古民家の古木や地元の職人たちの「技」がある空間

 <長野県小谷村・道の駅おたり>

 長野県内でも有数の豪雪地帯・小谷村にある道の駅の改修計画。地元の震災で倒壊した古民家の古木を活用し、さらに茅葺職人、左官職人、陶芸家など、地元の職人・芸術家たちとのコラボレートにより、多彩な素材が融合する道の駅に。通過点ではなく目的地となる、「本物の質感」を体感できる公共施設となった。

古木を使った木組みの大空間が圧巻な道の駅だが、店内にはシンボルツリーとして、地元の銘木「乳房の木」を採用するなど、地産地消を大切に空間づくりを行った

蔵の建具や古民家の大黒柱が迎えるオフィス

<東京都広尾・山翠舎事務所>

山翠舎の本社・長野県にある古民家から採集した100年以上前の古木の大黒柱が迎えてくれる打ち合わせスペース。蔵の建具をリメイクした引き戸や、古木を加工した板を貼ったアクセントウォールなど、ついつい長居してしまう、木の温もりあふれる空間。僅か5.7坪のスペースに古木の魅力が凝縮されている。

山翠舎を訪れるお客様を最初におもてなしする打ち合わせスペース。木の魅力の他、漆喰の塗り壁や一枚板のダイナミックな打ち合わせテーブルなど、多彩な質感を確認できる

店舗づくりには、ストーリー性を持たせることが大切。

「古木™※」とは、採取した古民家の所在地や部位、さらに樹齢や樹種、その部材にまつわるエピソードまで管理・記録された古材のこと。昨今、あらゆる商品の重要な要素となっている、「トレーサビリティの効いている素材」と呼ぶことができる。

古木を店舗の内外装に使用することで、「ストーリー性のある空間づくり」が実現する。古木の来歴や手触り、温もりある独特の存在感などから、訪れたお客様との間に会話の接点が生まれ、集客装置としての役割も果たしている。

山翠舎では、ただデザインにこだわるのではなく、ストーリー性を持たせることが店舗づくりには必要だと考えている。

そのうえで、内装に古木の柱や梁を印象的に使う際は、古民家が建てられた往時の荒々しい手刻みの跡が残る八角丸太や、大きく曲がった木をそのまま生かして使用することが望ましい。自生していた頃に極力近い形を保つことで、きれいに製材された新材にはない、古木ならでは力強さなどの魅力を最大限引き出した空間づくりができる。

カウンターなど常に触れる部分には肌触りの良い無垢板を使う。 

印象的な古木の使い方に加え、カウンターなどに、質感の良い木を一枚板で使用するのも仕掛けとして効果的だ。カウンターは、いつもお客様の手に触れる場所であり、料理や店舗の雰囲気を愉しみながら、実際に「肌ざわり」としてその店舗を体感する。まさに、五感をすべて揺さぶることで、お客様に深い印象を残す店舗となるのだ。

空間づくりの一環でもうひとつ大切なのが「器」である。例えば、都内で地方の郷土料理を出す店舗の場合、昔ながらの古民家の風情を出しながら、器は地元の名器である焼き物で統一。料理の美味しさも去ることながら、器を含めたすべての雰囲気を統一することで、まるで旅行先に来たような空間を提供する。古木同様、器についての会話も弾み、お客様との接点も生まれるだろう。

「見えすぎず、隠れすぎず」の外観がお客様の入店を誘う。

店舗内の心地よさに加え、外のしつらえ、「ファサード」についても工夫したいところ。インテリアに予算をかけすぎてしまい、ファサードのデザインがおぼつかないようでは、先行きが不安だ。

そこでコストを抑えながらできる効果的な工夫を紹介したい。ファサードのポイントは、インテリアとの統一感はもちろんだが、外から室内の様子が「見えすぎず、隠れすぎずにつくる」ことがポイントになる。

室内の様子がまったく見えなければ入店する側としては不安になるが、全面ガラス張りで見えすぎては、ゆったりくつろげない。そこで建具や窓ガラスの一部にモザイクガラスや泡ガラス、縦格子を加えることで、室内からほどよく光がこぼれる「気になる店」を演出することができる。

コロナ禍で生まれた、狭くてもこだわりを凝縮したオフィスづくり

古木の内装は、昨今ではオフィスでの需要も増えている。古木を使ったオフィスづくりは、一点ものの完全オリジナルなうえ、再利用の国産材で、エコマークやFSC認証※も取得済みの、極めて環境負荷の低い素材。企業のこだわりやブランドイメージを発信することにも役立つ。

ただ一方で、古木は通常のオフィス建材と比較すると、相対的にコストが上がってしまう。

しかし、このコロナ禍で生まれた「新しい時代の働き方」を踏まえると、テレワーク中心の働き方において、オフィスは最小限の空間で事足りると考えられるようになってきた。そこで、限られた空間であれば、より充実させ、デザインや心地よさ、社会貢献性にこだわったとしても、トータルコストは抑えられる。限られた空間だからこそ、古木の魅力や木のぬくもりを凝縮した空間を生み出せ、企業のブランド力をグッと高めることができるのだ。 

魅力と地域への貢献度合いの高い公共施設のつくり方

 最後に、公共施設のこれからの時代のつくり方について触れておきたい。山翠舎の事例で説明すると、道の駅やビジターセンターなどの施工では、ただの通過点となる施設ではなく、そこを訪れることで、地域の文化・芸術を知り、楽しむこともでき、さらに地元の社会問題まで同時に解決できるような視点が大切だと考えている。

そこで、提案してきたのが、地元で放置されている空き家の古民家を積極的に設計に取り入れることや、故郷の間伐材や銘木を象徴的に使うアイデア、さらに地元エリアの職人、大工、陶芸家などを施工に巻き込むこと。地元に雇用も生まれ、文化の発信地として、その地域の価値を高めていく。

これからの時代は、どこか一つが利益だけを追求するのではなく、地球環境を含め、皆が幸福を享受できるようなソーシャルな視点を持つことが大切では。それが結果的には事業者の発展や成功につながっていく。そんな事例を、これまでいくつも見てきたので、多くの方にそのノウハウを提供し、紹介していきたい。

この記事のライター WRITER

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