ドイツ緑の思想とイノベーション 後編「原発をやめたドイツ、やめられない日本」—ハンス・ヴィリ・バブカさんに聞く

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ドイツ緑の思想とイノベーション 後編「原発をやめたドイツ、やめられない日本」—ハンス・ヴィリ・バブカさんに聞く

ドイツ緑の党の創設メンバーであり自然塗料の開発者。そんなバブカさんに聞く、環境先進国ドイツ、その半世紀の歴史と、そこから照らす世界の課題。後編はエコのウソホント、原発問題などのお話です。

後編「原発をやめたドイツ、やめられない日本」

ハンス・ヴィリ・バブカ(Hans Willi Babka)エコテック社代表取締役。元ドイツ緑の党の党員。
1943年、ドイツ・レヴァークーゼン出身。大学卒業後は物理と化学の教員となる。1980年、37歳で教職を辞し、緑の党創設メンバーとなり、メルキッシュ・クライスの区議会議員となる。緑の党の思想を実践的なものにしようと、自然塗料の開発に着手。88年、世界初の粘土をベースとした塗料の製品化に成功する。89年、エコテック社(Ecotec Natur Farben GmbH)を設立。製造過程や廃棄後まで含めた環境負荷低減の製品開発を手がけている。

コスメ薬品の成分表記は本当か?


ハンス・ヴィリ・バブカ(以下、バブカ)
今から、わたしたちがどれほどマーケティングというものに先入観を煽られているかの話をしたいと思います。

岩田 和憲(以下、岩田)
はい。お願いします。

バブカ
あなたはシャンプーをします。
もしシャンプーの成分がベンジルアルコールだけでしたら泡が立ちませんよね?
しかし、そこにある液体を少量でも入れると、よく泡が立ちます。
でもこの液体だけでは社会に出ません。
なぜなら、シャンプーという製品イメージには量が求められるからです。「量があるから泡立つ」というイメージがあるのです。
ですので、その液体を水で薄めて量を増やし、シャンプーというものを作ります。
実はその液体が少量あるだけで泡は立つのですが、原価を抑え、イメージのために水増しをするのです。
それと同じことで、人間用とまったく同じシャンプーでも表記が「犬用シャンプー」とあったら、人は自分用としては買いませんよね?
つまり、本質以外のところをどういじるかということばかりを人は考えるのです。

薬品やコスメティックには成分表というものがありますが、化学者の観点からみると、でたらめなものがたくさんあります。その成分表どおりに混合してもその薬品はできません。成分表の記載は真実とはかなり離れているからです。

実は、おしっこというのはいちばん役に立つ薬なんです。成分表ではウレア(尿素)という表現にしてあります。これはぜんぶおしっこのことです。
化粧品にもおしっこが入ってます。うがい薬にも入ってます。
おしっこはすべてのコスメティックに入ってるのです(*)。
つまりどういうことかというと、尿素というのは売り物だということです。化学メーカーによる売り物なのです。

*すべてのコスメティックにおしっこが入っている … というバブカさんの発言は、なかば冗談ですが、コスメティックに入っている尿素のおもな効用は保湿性にあり、これは実際のおしっこにも同様にあります。南米のある民族では、自分の尿をためておいて髪に塗る習慣があるといいます。

あと今、馬用のシャンプーを開発しているのですが、匂いがあってはダメなのです。馬はシャンプーの匂いをイヤがるからです。
そして馬用のシャンプーは青でなくてはいけないのです。なぜかというと、青いシャンプーをすることで馬の毛並みがより美しく見えるからです。2トンに対して50gの青い顔料を入れると、白以上に白に見えるのです。
これは馬のためではなく、馬の見た目を重視しているためです。
青を混ぜると白に見えるなどとは、人間とは愚かなものだと思いませんか?

岩田
今までのシャンプーは馬に負荷を与えるものだったということですか?

バブカ
青を混ぜることは馬にとっても問題はありません。
問題は匂いなのです。
人間はシャンプーの匂いを良しとしますが、馬はそれを臭いと感じるのです。
ただそれは人間のために香りをつけていたわけではなく、馬の汚れを落とすための化学的な効用を考えると、これまでは匂いのないものは技術的に作れなかったのです。
わたしが開発したこの自然塗料も、匂いがありません。
わたしは、匂いというのはとても重要な観点だと思っています。ある一定の匂いをかぐと人は性的に興奮をしますよね? つまり、匂いによって人はいろいろな反応をさせられるのです。本当にその製品においてその匂いが必要なのかどうかとは別に、匂いが消費のために利用されているのです。

教育と問題解決思考


岩田
さきほど「環境というものはすべてドイツが牽引してきた」とおっしゃいましたが、なぜドイツから始まり得たと思われますか?

バブカ
重要なのは、その開発をしたら便利にはなるが、有害になる。そういうことをしっかり考えることできるかどうか、です。そこを考えるのか、考えないのか。それだけの違いです。
ドイツ人はそれを普通に考えているだけなのだと思います。
つまりこれは教育の問題だと思っています。

今のことだけに集中するのではなくて、未来も含めてどうするべきかということを考えるのです。
ドイツでは開発や教育というものに国がたくさんの予算を使っています。大学が無料で行けます。
そして大学での勉強の仕方も大切です。ただ本を読み受動的に受け取るだけの学生生活ではいけないのです。問題を解決するよう学生たちに任せることが大切なのです。

信頼とコントロール


岩田
ドイツはイノベーションが起きやすいという話をされましたが、バブカさんが起こされたような環境に優しいイノベーションもあれば、一方でバイエルのような環境に負荷を与えるイノベーションもあります。
イノベーションがもつそうした諸刃の剣のような性格についてはどう思われますか?

バブカ
おっしゃる通りで、やはりエコロジー以外のイノベーションのほうがたくさん起きています。お金にまつわるイノベーションが多いというのは事実です。
環境に負荷のかかるような産業的なイノベーションと、エコロジーなイノベーション。
その関係としていえば、仮に産業でイノベーションが起きたとしても、もしそれが環境に負荷を与えるものだったら、緑の党をはじめとするグリーンな人たちの勢力が制御するのです。
このコントロールによって、負荷のかからないものが世に出ていく、そうした良い関係がドイツでは起きていると思います。
つまり、産業としてお金にまつわるさまざまなイノベーションが自由に発生する。その一方で、それを精査する機能があるということです。

お金にまつわる産業的な活動も、さまざまなイノベーションを生み出すために大切なことなのです。ただそれは、片方でコントロールという概念がしっかり機能していることが前提になります。
信頼は確かに素晴らしいものです。ビジネスの世界をはじめ日本は信頼で成り立っているところが多いと思います。でも信頼するだけではいけません。それに負けない冷静な眼差しでのコントロールが必要なのです。
福島原発で事故が起きましたが、あの事故は、まさに信頼だけではいけないということを示していると思います。あなたたち日本人はそれでもまだ原子力をやろうとしていますね? そこにはさまざまな利害関係があるにせよ、いまだ原発廃止を決められないでいることは、コントロールの機能がないという日本の弱点を示していると思います。
わたしたちは、2000年前の世界についてすらほとんど知るところがありません。それなのに今、次の50万年後まで影響のある重要なことを見逃そうとしていませんでしょうか? ピラミッドでさえ6000年前のことです。そこを見逃すことで人類は滅びるかもしれないのです。
「そんなことは起きない」などとは言い切れないのです。わかった気でいるというのが、いちばん危険なのです。
緑の党が日本にあれば、こうしたことは絶対に許しません。批判の声がマジョリティーになれなくても、こういうことはドイツではありえません。
なぜなら、マジョリティーでなくてもコントロール機能は果たすからです。

電気自動車は本当にエコなのか?


岩田
おっしゃるとおりだと思います。
さきほどのイノベーションが諸刃の剣だという話とも関係しますが、ドイツは原発を廃止すると決めました。ただ一方で、そもそもドイツは原発技術の先進国で、輸出国だったと思います。

バブカ
鋭いですね。その通りです。シーメンス社は原発の技術を他国へ売っていました(*)。

*ドイツは原発技術の輸出国 / シーメンス社は原発の技術を売ってた … 「自国では脱原発を決めながら他国へは原発技術を輸出し続けている」という批判を受け、ドイツは2014年、民間企業が原発を輸出する際の貿易保険の保証を撤廃した。またシーメンス社は福島での事故を受け、同年、原子力発電事業からの撤退を決定している。

それについてはこう答えたいと思います。
例えば、ここにランプがありますね。このランプを使って人を照らすのか殺すのかは、その人次第だということです。すべての技術は悪用されうるのです。
電気自動車も決していいとは言い切れません。というのも、電気自動車は製造するのに非常に大きな環境負荷がかかっていて、80,000キロ以上走らないとディーゼル車やガソリン車と比べてもエコとは言えない現状があるのです。
電気自動車の背景には、エコがマーケティングイメージにされているという問題があります。
実際、エコというのは恐ろしいものなのです。まったくエコではないものがエコという名目でたくさん売られている現状があるのです。

メッセージ


岩田
すべての人類の若い世代の人たちにメッセージを伝えるとしたら、どういったメッセージを送られますか?

バブカ
わたしはグリーンの活動から始まり、今ではCDUの経済諮問会議の役員もしています。今のわたしには右とか左とか、産業なのかグリーンなのかという二者択一的な考えはありません。そういったものをすべて含め、全体がうまく稼動していく社会になってほしいと思っています。
メッセージとしてはこうです。
我々人類がもっている知見が悪用されず、うまく使われ、それぞれの国がどれだけ支払うかとかによらず、それぞれがバランスをとりながら一緒に成長していける世界。飢えに苦しんでいる人や戦争で苦しんでいる人、そうした人たちがいなくなるよう、ともに成長していける世界になればいいと思っています。
プロイセンのフリードリヒ大王。彼は自分がゲイであることを隠しませんでした。そしてたくさんの子どもをつくり、またファッションセンスの高い人でした。
彼の言葉を最後に結びとして引用させてください。
「すべての人たちが、自身が求める姿に対して誠実であらなければならない」
一人一人が自分のスタイルに正直になることです。
それが世界をよりよくしていくことに繋がると思っています。

岩田
ありがとうございました。


取材:岩田 和憲
通訳:境 洋一郎
写真:境 和代 / 岩田 和憲

こちらがバブカさんが開発した粘度塗料です


最後に、バブカさんが開発した粘度塗料を紹介したいと思います。

粘土をベースに、石灰岩、陶土、大理石を混合して作られた塗料。
すべて自然のものだけを使い、製造工程から使用、そして廃棄に至るまで、環境に対して負荷を与えないという思想で作られています。

日本ではまだあまり知られていませんが、

出典: https://hilari.co.jp

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ドイツのアルテナにあるアルテナ城(上写真2枚)や、

出典: https://hilari.co.jp

出典: https://hilari.co.jp

イギリスのロンドン大火記念塔(上写真2枚)などは、バブカさんの粘度塗料が使われています。

詳しくはこちらのページで解説・紹介されています。ぜひご覧ください。

これでハンス・ヴィリ・バブカさんの話はおしまいです。
お読みいただきありがとうございました。

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/