良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その1

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良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その1

無印良品で知られる良品計画。千葉県の棚田保全「鴨川里山トラスト」など、地域創生の活動を展開するなか、今年2018年2月にはソーシャルグッド事業部が発足。収益が難しいとされる地方創生事業に、同社はどういった視点で乗り出しているのか? 企業の本質が浮き上がるかのようなインタビュー。同事業部の高橋さんにお話を伺いました。

地域創生プロジェクトの意味。その1

高橋 哲(たかはし てつ)株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部課長代行。
1973年生まれ、埼玉県川越市で育つ。大学卒業後の96年、株式会社良品計画に入社。店舗社員に始まり、店長、家具商品開発、ファニチャーのカテゴリーマネージャーなどを経験。2018年現在、千葉県鴨川市において棚田保全活動や直売所の再生プロジェクトなどを担当し、地域創生のサポートをしている。

鴨川里山トラストの始まり


岩田 和憲(以下、岩田)
鴨川里山トラストっていうのはどんな取り組みなんですか?

高橋 哲(以下、高橋)
もともとは棚田保全っていうかたちから始まっていて。まさしくこの場所なんですけど。
今は水をはっていて順調そうに田植え準備が始まっているように見えるんですけど、山一つ向こうに行くと耕作放棄している場所がたくさんあるんですね。

高橋
ここはNPOの方*が保全されていたんですけど、

岩田
林さんですか?

高橋
はい、そうですね。

*NPOの方 … 「NPOうず」理事長林良樹さんのこと。千葉県の安房鴨川・釜沼を中心に、持続可能なコミュニティの創出や自然エネルギーの促進、里山保全活動などを行っている。

もう、手が追いつかないところがこの集落にもたくさんあるんですね。
もともとこのあたりっていうのは江戸時代のころからお米の産地でそれが主産業で、そういうなかで林さんもかなり危機感を感じられてて。
2014年に「もうNPOだけでは手に負えない、企業も含めて何かできないか」っていうことでお声がけいただいて、我々もちょうど新しい部署ができたりでタイミングが良かったんですね。
それで「一緒に何かやっていきましょう」っていうことが発端となって、里山トラストっていうのが始まったんですね。

儲けを得るためにやっているわけではない


岩田
NPOだと利益ではなくて理念で動くと思うんですけど、利益を必要としないNPOですら息切れになっている状況に、利益を必要とする企業が入っていって。
それは、企業として成立するんですか?

高橋
そもそも僕らはこの場所で儲けを得るためにこれをやってるわけではないんです。
あくまでも、ここに人が来ていただくこと。
そもそも人がここに来ないかぎり棚田保全って成り立たないじゃないですか?

岩田
はい。

高橋
我々が媒体になってここの活動をご紹介させていただいて、一緒にイベントをやることからスタートしているんですよ。
「都会からみなさんに来てもらって、この場所を知ってもらって、そこで輪が広がっていけばいいよね」っていうのが第一段階のスタートなわけなんですよ。

岩田
つまり良品計画さんもNPO的に関わってる、っていうことですか?

高橋
うーん、そういう表現にもなるのかもしれないですけど。
いずれにしても、2014年にそういうかたちで始めて、その2年後にわたしも社内ボランティアとして関わってみたんです。
基本的にイベントは土日にやってるんですけど、そこへちょくちょく行ってたんです。
そういうふうなことやってるうちに、2016年ですかね、会社としても「持続可能なかたちにするため、ちょっとしたビジネスも含めて何ができるかを広げて考えていきましょう」っていうタイミングになったんですね。
たまたま、わたしが異動でこの鴨川に来ることになったわけです。

岩田
そうなんですね。

高橋
で、そこから、何が地域のためにできるかを考えていきました。ここはお米が主産業なんで、お米に付加価値をつけて何かできないかっていうことを考えて、日本酒を造ったんですよ。
あと南房総市、この鴨川市の南側にあるんですけど、そちらのほうで廃校を使って、小屋の販売をしたんですね*。

*廃校を使って小屋の販売 … 南房総市の廃校跡地「シラハマ校舎」における、無印良品の小屋の販売。廃校跡地が、シェアオフィスやレストラン、ゲストハウスに生まれ変わり、その校庭を菜園付き小屋の用地として区画し、その区画を賃借する方を対象に販売。週末を自然の中で過ごしたい人などに好評。

それは単に小屋を売るっていうんじゃなくて、地域でどのようにコミュニティを形成するかという話なんです。
お客様同士が、地元の方も含めて廃校のなかでコミュニケーションをとっていただいて、地域を盛り上げていこうっていうかたちを目指してやってるんです。

岩田
なるほど。

高橋
その廃校では地元の方がレストランをやられてるんで、地元の方が集まる、それから都市から来た方も集まる。そういう流れをつくろうという考え方で、小屋をその周辺に置く取り組みをしたわけです。
あと今度、この近隣に直売所*があるんですけど、そこの運営を我々がさせてもらうことになってるんですね。

*直売所 … 鴨川市が設置する総合交流ターミナル「みんなみの里」のこと。良品計画が指定管理者に認定され、2018年4月27日、「里のMUJI みんなみの里」としてリニューアルオープンする。

そういうかたちで、地域とつながりながらビジネスに繋がっていくような話が少しずつ出てきているという状況です。
なので棚田保全の活動をきっかけに、そこから「地域としても潤う、わたしたちも潤うかたち」っていうのをやろうと、それが少しずつ広がっているっていうのが今の状況ですね。

「役に立つ」というミッション


岩田
2014年の棚田保全活動の開始から4年間、ビジネスっていうことを考えずに会社としてやられていたっていうことはすごいですね。

高橋
ビジネスというよりも地域の役に立つ、お手伝いっていう言い方になりますかね。

岩田
その、お手伝いするっていうのは、会社からすると何が目的になるのかなと思ったりするんですが。

高橋
その言い方ですと経済的な理念寄りの話なので、まさしく「何やってるの?」って見えちゃうかもしれないですけど。…なんて言ったら伝わりますかね、

岩田
いえ、本当に経済を超えてやられてるんだなっていうのは伝わりました。つまりそれはそういうことに会社として意味を見てるはずだから、その目的ってなんだろうって、やっぱり思うんです。

高橋
結局、シビアな経済的な概念は抜きにして、「僕ら無印良品は何か」って言ったとき、「役に立つ」っていう言い方を社内ではすることがあるんですよ。
いわゆる消費者、僕らは生活者っていう言い方をするんですけど、これまでだと生活者の方に役に立つような商品の開発とか販売、そういうかたちで無印良品はやってきたんですね。

無印良品って都市型のイメージがお客様には強いような気もするんですけど、僕らとしてはそんなことはなくて。僕らの商品って、地域に根ざしてきたものから発想された商品って実は多いんですね。
なので「地域を大切にしないと会社としてはおかしい、それは当たり前でしょ」って。そうやって考えていくなかで「地域の仕事になるような活動をしましょう」っていうことで、こういった千葉の活動もやってるんです。
あと、地域のお店々々でも、地元とのイベントをけっこう無印良品ではやってるんですね。
だからシンプルに言うと、「地域と繋がる活動をしましょう」っていうことだけなんですよ。
ビジネスになるかならないかっていう側面よりは、シンプルに「役に立つ」っていうことをテーマに考えてやってきている。そういう感じなんですね。

岩田
そういうこと自体が理念に直結するし会社としてのメッセージにもなるっていうことですね。

高橋
まさにそういうことだと思います。

岩田
もう少し言えば、それが会社としてのブランディングになるし、そうした懐の大きさが企業価値にもなってくるっていう。

高橋
まあ、そうですね。
僕らはものを売ってますけど、もともと単なる小売業のつもりでもないんです。
なので、ものを売るっていうよりは人間の様々な暮らし方を含めたいろんなこと、その理念を感じてもらうということなのかなと思うんです。



次回へ続きます。

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/