「柿しぶってすごい」冨山敬代さんインタビュー後編

インタビュー
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「柿しぶってすごい」冨山敬代さんインタビュー後編

古くから日本人の生活を支えてきた柿しぶ。化学の進歩とともに衰退していく一方で、その重要性が注目されてきてもいます。インタビュー後編は、なくなっていく天王柿再生のプロジェクト、そしてものづくりと発酵のお話です。

「柿しぶってすごい」後編

冨山 敬代(とみやま ひろよ)明治期より続く老舗の柿渋製造販売会社「トミヤマ」代表取締役。
京都府加茂町(現・木津川市)生まれ。
大学卒業後OLを経験したのち、2011年、5代目社長として家業の柿しぶ屋を引き継ぐ。化学製品が氾濫する現代に、天然素材柿しぶの継承と発展に力を注いでいる。

科学の知識と昔の知恵


岩田 和憲(以下、岩田)
冨山さんって5代目ですよね。

冨山 敬代(以下、冨山)
そうです。

岩田
何年前に社長に就任されたんですか。

冨山
7年前です。

岩田
7年やってきて、今はどんな状況なんですか?

冨山
たくさんの方々に柿渋と柿タンニンの素晴らしさを広めたいと思ってます。
今は研究開発もようやく落ち着いて、柿タンニンの構造式がわかったので、いろんなところに柿タンニンを使っていただけるようにがんばってます。

岩田
こういう構造式なのでこういう用途にも使えるっていうことが、

冨山
そう。わかってきたの。

例えば、柿しぶで染めた綿の「カキモコ」。消臭効果に加え、シックハウスなどの原因、ホルムアルデヒドなど有害物質を分解し無害化する、そんな柿しぶの特性を活かした製品や、

高純度の柿エキスを使った「柿渋石鹸」も。加齢臭・敏感肌・アトピー対策になるほか、肘やカカトなど乾燥しがちな皮膚にはしっとり感も出るという。

冨山
でも、昔の人はそういう構造式とかがわからなくても「柿しぶって、こういうものだ」ってわかりながら利用してきたわけだから、すごいなあって思うんですよ。

岩田
ですね。

冨山
構造式がわかってない昔の時代から、補強剤とか防腐剤とか、柿しぶのいろんな作用が知られていて、そうやって柿しぶが使われてきて、しかもそういう単純な使われた方っていうのは今もずっと続いているじゃないですか。
それ、わたし、すごいと思うんですよ。

岩田
ええ。

天王柿を残そう


冨山
柿しぶって、昔は生活の糧になってて必要不可欠なものだったけど、今はもうなくても困らない。でもいろんな変遷がありながら、完全に淘汰されずに、次から次へと用途が生まれてきたわけじゃないですか。
淘汰されそうになっても淘汰されず、今日まで生き延びてきていることはほんとにすごいことだなと思うし。だから常にチャレンジ精神でやっていかないと、それこそ本当に淘汰されてしまうし、原料もなくなってしまうし。

岩田
だから天王柿*を残さなきゃいけないということで、植える活動もされてるんですよね?

*天王柿 … 渋柿の中でも最もタンニンが強い品種の一つ。柿渋の原料として古くから用いられてきた品種で、京都山城は主産地。

冨山
天王柿がないので、村の農業委員会にお願いして、柿しぶプロジェクトを発足させました。
村の役場で農業委員会の役員の方に集まってもらって、渋柿がない現状についてプレゼンしたんですよ。
「休耕田とか荒廃した茶畑に渋柿の苗木をわたしたちが提供しますので植えてください」って。
そしたら皆さん賛同してくださって。で、植えてもらったんですよ。
でも、獣害被害で半分以上やられましたね。
獣害被害は想定内でしたが、今更ながら、管理できないからやめるって方もいらして。
ほかにも近畿圏内に柿渋プロジェクトを作ってますよ。その地域は、昔の柿渋の小さな生産地で、獣害被害がないところなんです。今、500本くらい植えてます。3年後に収穫できるかもしれません。

ものづくりの魂


岩田
冨山さんって、ものづくりしてる人と、

冨山
多いですよ、お友だち。

岩田
多いですよね。

冨山
まずお客さんにものづくりしてる人が多いですから。
このあいだも四国から扇子屋さん来はりましたしね。

岩田
そういうものづくりをする方たちと同じ気持ちを共有されているところ、ありますよね?

冨山
あります、あります。
やっぱりともにものをつくってるからじゃないですか。
わたしも自分の柿しぶに魂を込めるように作ってるんですよ。
だから毎年、製造のときになると心を穏やかにする努力をしなきゃ。発酵に影響するんですよ。
これは酒屋さんもそうだと思うんですけど、自分の気持ちがすべて柿しぶに入るだろうなって思うんですよ。
だからね、ほんとに荒ぶったらタンクから泡が吹くんですよ。

「気温も安定してるし、ちゃんと雨も降ったし、涼しくなったし」って思っても、いらいらしてるんですよ、気づかぬうちに。
そのいらいらが微生物に反応するんですよ。
「ああ、もうこれだろうな」っていつも思うんですよ。

岩田
どうなっちゃうんですか?

冨山
ばぁっ、て泡の吹き出しが止められないくらいに吹き出すんですよ。
大失敗。

岩田
発酵が過剰になるってことですか?

冨山
ゆっくり穏やかに発酵してくれると嬉しいんですが、急激な発酵になるんです。
柿しぶって、ゆっくりゆっくり発酵さすことによって澱が落ちるんですよ。ただ発酵方法と酵母が違うだけでワインと同じ作り方なんですよ。ワインがゆっくりゆっくり安定させてつくることによって澱もさがって透き通ったものができるのと同じなんですよ。

岩田
失敗しても捨てない、無駄にしないんですね。

冨山
捨てないですよ。
でも、一度吹かしてしまうと火入れとかが大変になるのでお金がかかるんですよ。
だからなるべくなら吹かないように確実に商品化していかないといけないんですけどね。
そこで吹いてしまったら、「やっぱり気温が高かったから」とか、ほかの責任にしてしまう自分が時々あるんですよ。
でもそれではいけないと思って柿しぶづくりをしてるんですけどね。
たぶん器つくるのだって紙漉きするのだって、ものづくりする人はこういうことは一緒だと思うんですよ。

岩田
さきほど「柿しぶは生活の必要品ではなくなった」というお話がありましたけど、それはいろいろ便利なものが出てきて、そうしたものに変わっていったということだと思うんですけど、むしろ今、そうした便利なものよりずっと理にかなった、いろいろな意味で優れたものだということが浮き彫りになってきてますよね。
むしろ今だからこそ柿しぶってすごい可能性があると思うんですけど。

冨山
だからわたし、そういう言葉に励まされて今頑張ってるんですよ。
柿しぶを必要不可欠なものにしていくのが、今生き残ってる柿しぶ業者の役目なのかなって思ってますから。

岩田
今日はありがとうございました。



これで冨山さんとのお話はお終いです。
お読みいただきありがとうございました。

取材・構成・写真:岩田 和憲

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/