トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その2
トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その2
南イタリアでオリーブの古代種を無農薬で育て、エクストラバージンオイルとして日本に届けているトレリさん。彼ら親子が語るオーガニックの考えは、美味しいものを食べたいという「人間的な欲望」より手前に、自然や土地への敬意、「人間を超えたものへの感覚」があります。農業を切り口に、人間のルーツに触れるインタビュー、第2回はオーガニック先進国といわれるイタリアの農業の現状などのお話です。
目次
本物の味と正当な価格
岩田 和憲(以下、岩田)
イタリアも小規模農家さんは経営が難しくなってきてるんですか?
トレリ・ルカ 佑樹(以下、ルカ)
大量生産という現状がイタリアにもあるんですね。
自分たちで作ってぜんぶ管理するには初期投資がかかりますし、自分たちのマーケットを開拓していかないといけないっていうのがありますね。
だから小さなオリーブ農家さんは、「オリーブの実を売って生計を立てるしかない」っていうところがほとんどですよ。なので苦境ですよ。
値段も外部に左右されますし。
岩田
小規模農家さんは減ってるんですか?
ルカ
減ってますね。
それこそ生き残るところもあります。そういうところは自分たちのブランディングをちゃんとしてます。
特に最近よくあるのはアグリツーリズム。「農家+ベッド&ブレークファースト」みたいなかたちでツアーを組んだり、農場体験を提供したり、農場のなかに自分たちの直売所があったり。
でも、そういうところはほんと一部ですね。
ただ、そうなるとプレミアムな値段になってしまうんですよ。そこにはアグリツーリズムのいろんな催しだったり、オリーブに関係のないコストがどんどん載ってしまってるので。
岩田
ええ。
ルカ
うちは輸入をして、日本で本物をみなさんにわかってもらいたいと思って販売してますけど、そこにプレミアムな値段がついてしまうとそんなに広まらないと思うんです。
そうなってしまうと、人はブランドで買ってしまう。
私たちが百貨店とかでプレゼンするとよく言われるのは「おたくのオリーブオイル、いいんだけど、安すぎるよ。それだと消費者、買わないよ」って。日本のお客さんは、高いお金を払うから安心っていうところがあると。
これがお醤油だったり味噌だったりすると、昔から日本人に馴染みがあるからみんなよく知っている。自分で食べて「あ、これはいいものだな」って、値段を見なくても良さがわかるからいいんですけど、まだまだワインやオリーブオイルのような舶来物は、安いとそういうものとして見られてしまいますね。
だから、そこをちゃんと変えていく。
ちゃんと本物の味をわかってもらって、「オリーブオイルの価格って、ここじゃない。このあたりだよ」っていう先駆けになれればいいかなあって。
そういうなかで他の方たちも対抗してコンペティションを起こしてもらって、日本でオリーブオイルのシーンを盛り上げられればなあって日々思ってます。
イタリア人移民として、日本で何ができるか?
岩田
服もやられてるじゃないですか。作ってはないけどディストリビューターとして。
これはなんで、
ルカ
そもそもなんで始めたかっていう話ですよね。
岩田
オリーブを作る気持ちと共通したものがあるのかなと思って。
ルカ
そうですね。そこはありますね。
服をはじめ、
革製品も取り扱うトレリさん
カタルド・トレリ(以下、カタルド)
どれもイタリア独特の文化なんですね。革製品もカシミアのニットもオリーブも。
大量生産されたものではなくて、こだわりがあって、個人差がある。そういうスペシャルなものを日本に持ってくる。イタリア人として日本に持っていく。
移民として日本にきて、じゃあ自分の財産は何ですか? ってなったとき、イタリア人としての文化だったんです。
自分の文化で、自分の思う正直な商売をする。
なかでもオリーブオイルは、すべてのプロセスを自分たちでコントロールできるから面白い。100%、愛情をもったものとして届ける。そういう気持ちですね。
グローバルでオープンな社会になっている今、いいものは国境を渡って持って行けると思ったんですね。
今も農薬使用のほうが一般的、イタリアの農業の現状。
岩田
無農薬を始めた時は、苦労されましたか?
カタルド
私たちが農地を買った時は砂漠のようなところで。
昆虫もいないし、鳥もいなかった。
岩田
土も悪かったんですか?
ルカ
土も悪かったですね。もちろん国立公園の土だから悪いってことはないんですよ。ただそこは前のオーナーが農業をやってたからこそ、悪かったんですよ。
ケミカルまいて、さんざん土を耕して栄養素をぜんぶ出した状態で。
木を薬づけでドラッグ依存させた状態のまま農業をやめ、数年放置されている土地だった。そこをうちが買ったんですよ。
そこから薬はだんだんと抜けていくんだけど、
カタルド
夏になると土が砂のようになるんですね。
あとは大雨になると土がぜんぶ低いほうへ流れていく。
そうしたら石が出てくる。
根っこもどんどんむき出しになってくる。
土はなくなっていく。
土は流れ、石がむき出しだったころの農地。 ©Torelli Co.,Ltd
もうそうなると、誰もそこで農業なんてやらないんですね。
そこから、石をつぶして土を入れ直して。
最初は草も生えなかった土地でしたけど、だんだん緑が、
岩田
日本と同じ状況ですね。
カタルド
一緒ですよ。どこの世界も。
岩田
イタリアやヨーロッパはオーガニックの先進地と言われてるけど、
カタルド
日本と抱えてる状況は一緒です。
それでもイタリアは、オーガニックは増えてきてますね。
マーケットも特に北ヨーロッパとか、アメリカ、日本ではだんだん広がってきてます。
ルカ
ただマーケットは広がっているけど生産者が追いついてるかっていうと、そうではない。
イタリアでは日本よりオーガニック農場の割合は多いですよ。それは国が助成金を出しているっていう背景もありますし、周りをみると特に北イタリアでは前例となるモデルがちょこちょこあるっていうのもありますし。
そうなんですけど、それは一部の土地で、中部、南イタリアだと、まだまだ農薬に頼ったやり方が一般的なんです。
岩田
そうなんだ。
ルカ
あと、伝統の問題っていうのもありまして。
例えば3月、4月ってオリーブの木の剪定をするんですよ。オリーブやアーモンドはカビに非常に弱いので、内側に枝が多くはってしまうと湿気が溜まってしまうので剪定するんですけど、南イタリアの私たちの地域はものすごいヘビーな剪定をするんですよ。木がなくなっちゃうんじゃないかっていうくらいの剪定をするんです。
というのも、昔は夏は水がなかったのと、土の栄養状況もあまり良くなかったんですね。枝や葉っぱの成長にエネルギーを集中するためにたくさん剪定をする。木自体をあまり大きくしないようにっていうマインドがあるんです。
ただ今の土地の大きさと地中埋設タイプの散水システムを導入した状況だと、木の生命力をサポートするシステムがある。それなのにわざわざ木を切って成長を妨げるというのは、マイナスなんですね。
やっぱりそこには伝統が対立していて、なかなか農家さんに受け入れられないんです。自分の祖父から教わった手法を変えられないっていうのがあるんです。
そういう心情面での伝統の問題っていうのがあるんですね。
カタルド
「やっぱり無農薬にしない方がいいんじゃないか」っていう話になってくるんですね。
政府がオーガニックを応援してるから増えてはいるけど、実際は、ケミカルを使った方が農業はしやすいのは確かです。
ルカ
あと無農薬に切り替えると、生産量が落ちる時期っていうのが1年、2年、長い時で3年、絶対に出てくる。そのための助成金ではあるんですけど、それだったら設備投資に使いたいっていう気持ちが農家さんにはあるんですね。
©Torelli Co.,Ltd
木自体の生命力を上げる
カタルド
結局それでもなぜ無農薬がいいのかというと、木が元気になるからなんです。薬ばっかり使っていると、元気をなくしていつか死にます。
動物や虫にも同じこと言えるんですね。
自然に任せて、自然に元気になるのが結果的にいちばんいいという考えですね。
ルカ
無農薬でいちばん大切なことって、木自体の生命力を上げてやることなんです。
農薬を使った農業は、いわば人間との共同作業。人間の力を投入して、「ご飯を持ってくるから葉を出せ」と。
でも無農薬の場合は木が自立している。人間は少し手助けをするくらいのもので。
カタルド
人間も元気だったらいい仕事できますよね。
岩田
土いじりして遊んでる子どもに、親が「そんなことしてないで、塾へ行って進学校へ行って、いい企業に入りなさい」と。
親が子どもに農薬を使って芽を出せと言う。
まるで子育ての話ですね。
人間の成長過程と似てますね。
カタルド
同じですね。