トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その3

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トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その3

南イタリアでオリーブの古代種を無農薬で育て、エクストラバージンオイルとして日本に届けているトレリさん。彼ら親子が語るオーガニックの考えは、美味しいものを食べたいという「人間的な欲望」より手前に、自然や土地への敬意、「人間を超えたものへの感覚」があります。農業を切り口に、人間のルーツに触れるインタビュー、最終回となる第3回、古代種を育てる理由、無農薬栽培への思いなどが語られます。

環境中心で考える

トレリ・ルカ 佑樹(以下、ルカ)
これは8年くらい前の私たちの農園。2010年の状況なんですけど。
ほとんどがこういう状態ですね。
土が流れてしまって、こういう石だらけの状態になってしまう。

©Torelli Co.,Ltd

岩田 和憲(以下、岩田)
カッパドキアみたいになってしまうんですね。
カッパドキアは昔、農地だったらしいですからね。
石を潰して土として使うんですか?

ルカ
ほど近くに採石場があるので、潰してもらって、捨てるぐらいならうちにくれっていうことで、土にして入れてもらって。
そんな状態だったのが今では、ここまでなんとか。
前はバイクでは農地を走れなかったですからね。

©Torelli Co.,Ltd

カタルド・トレリ(以下、カタルド)
あとは、耕さないっていうのも大事なんですね。

岩田
不耕起ですね。

ルカ
不耕起です。特に夏は日差しが強いので、耕すと土の中の水分が蒸発してしまうんです。直射日光で微生物も死んじゃうんですね。
不耕起でも、自分たちでエコシステムができちゃうわけですから、住んでる虫が死んで肥料になって、花が咲いて散って肥料になって。
それでもまだ完全ではないので、有機堆肥をサポートとして撒いてますけど、最終的にはそれがなくてもしっかり循環してくれるといいなあと思ってます。確実にその方向に近づいてると思います。
無農薬っていうことは、自分たち家族やお客さんに危険性のないものを食べてもらうっていうのももちろんありますけど、本来は環境自体を整えてやる、プリミティブな状態に戻してやるっていうのが大切なところで、それが手段でもあるし目的でもあると思っていますね。

カタルド
いちばん贅沢なことですよ。
「これをやれば土がきれいになる、木が元気になる、バランスがとれる」っていうことで、「これをやれば実がたくさん採れる」っていうのとはロジックが違うんですね。
やっぱり肥料をいっぱい与えれば、たくさん実がなるんです。
でもそうなると麻薬と一緒ですね。化学肥料をずっとやらないといけないですね。それをやめると実がなくなるんですね。ずっとハイな状態にしないといけない。

岩田
うん。

カタルド
だから私たちがやってることは、すぐに結果は出ないですね。
人件費もかかってコストもかかって、それでも何も出ない。
そうやって何年もかかるんですね。
環境中心で考えないと自然から搾取することになり、持続可能ではない。
やっぱり人間は自然の一部としてその中に生きる。それで、そういう中に動物や植物やいろんなものがあって、そういうものを食べると美味しいですね。
11月に、家の近くにブロッコリーを植えたんです。ただたんに植えて、水もやってないですね。そのまま放ったらかして日本に来て、ミラノとパリに行って、3月にイタリアに帰ってきたんですね。そしたら草の中に埋もれて見えなくなってるんです。あんまり大きくなってない。
ところが3月の半ばになってどんどん大きくなって。切って食べてみたら、普通、ブロッコリーって臭いですね、でもぜんぜん臭くない。食べたことない味でしたね。
そういう野菜はお金には変えられないですね。

古代種を育てる理由

岩田
自然の力を取り戻すのにはどれくらいかかりました?

カタルド
4、5年はかかりましたよ。
とくにイタリアの夏は4月から10月はあまり雨が降らないですね。中でも我々の東海岸、プーリア地方は降らない。半砂漠ですね。

岩田
そういう気候が向いてるんでしょうね。

カタルド
そう、アーモンドやオリーブには向いてる。

トレリさんの農園にあるアーモンドの木 ©Torelli Co.,Ltd

ルカ
原生地ですからね。オリーブの古代種が発祥した土地。

岩田
オリーブも古代種なんですか?

ルカ
古代種です。オリーブは単品種、コラティーナ種でやってるんですけど、アーモンドは4種類の古代種をやってます。
見ていただいたとおり、あんまり見た目はよくないですよね(笑)

岩田
へしゃげてたり、

ルカ
へしゃげてるのもありますし、小さいのもあるし、大きいのもあるし。粒が揃ってない。
先ほど言った通り、生命力を強くするには、植物も自分がそこで発祥したっていうことは、その土地が合ってるっていうことなんですよ。

カタルド
日本であればケヤキとか柿とかね。

ルカ
ケヤキとか柿をヨーロッパにもっていっても、そんなに育たないですね。育つことは育ちますよ。ただアゲインストが大きいですね。
逆に日本だとオリーブや、特にアーモンドは難しいんですよ。アーモンドはオリーブ以上に風がいるし、オリーブ以上に湿気に弱い。実がなってからの状態が長いので。半年ぐらい実がなった状態でいるので。
日本みたいに高温多湿な夏だとアーモンドは絶対無理なんですよ。
今、鹿児島のあたりで試験的に育ててるっていう話を聞きますけど、そういう海風がしっかりとある地域じゃないと。
だからこそ私たちは原生種をやっているんです。

岩田
オリーブやアーモンドの原生種はまだトレリさんの地方にはいっぱいあるんですか?

ルカ
ありますね。

岩田
日本では今農作物の在来種がどんどん消えて行ってて、

ルカ
そうですね。

岩田
ほかの農家さんでも原生種を守られているということですか?
それとも普通に自生してたりするんですか?

カタルド
アーモンドは南イタリアでもそんなに今は多くないけど、やってる農家さんはだいたい原生種をやってます。

ルカ
イタリアの国の成り立ちとしても日本とは違うところがあるので、そういうのも影響してるかもしれないですね。
イタリアって統一されて150年ぐらい、わりと若い国なんですけど、南はいわゆる地主がいて領民がいて、ほぼ農業だけで成り立ってた地域なんですね。
南はイタリアの食料庫で、いまだに農業組合が強いですし、いろいろな品種を新しくやってみようっていう発想がそんなにない。外来種が入りにくい土壌でもあるし、政治的・歴史的に背景も閉鎖的な地域だったりするところもあるんじゃないですかね。

個人的な視点が問われる時代

岩田
食材にしろ服にしろ、日本で知られていないブランドを売っていくっていうのは大変じゃないですか?

ルカ
めちゃくちゃ大変。

カタルド
大変なこと好きだからね(笑)

ルカ
日本はポピュラー・イズ・ベストなので。
ただ、ものと情報が溢れている今、大きな組織が大多数の人々に向けて「今こういうものがいいんですよ」というふわっとした情報を流しても、追いつかない時代ですよね。
情報があふれて何がなんだかわからなくなっているからこそ、個人的な視点、職人的な視点、「この人が」という個人的な視点が受け入れられやすい時代に入ってる。
まさに私たちがやってることには、個人の視点が入ってる。
「これが新しい時代の新しい商品だ」っていうのを発信していきたいし、市場はどんどん敏感にはなってきてる。
もしかしたらうちのオリーブオイルも80年代、90年代だったら難しかったかもしれないですけど、今は受け入れられやすくなってきてるとは思いますね。
私たちの個人的なビジョンに賛同してくださる方がどんどん増えてきているとは思います。

岩田
今日はいろいろ知らない話を聞けて楽しかったです。
ありがとうございました。

これでトレリさんのお話はお終いです。
お読みいただきありがとうございました。

取材・写真・構成:岩田 和憲

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/