SOYO per tutti 善光さんに訊く。後篇「口コミ」

インタビュー
公開
1463 Views

SOYO per tutti 善光さんに訊く。後篇「口コミ」

恵比寿にある古木なイタリアン、SOYO per tutti (通称ソヨさん)。オープン以来、広告宣伝費ゼロ、口コミだけで拡散しているユニークな人気店です。ファンを捉えるそのグリップ力は何なのか? 後篇はレストランという括りを超え、場づくり的なビジョンも垣間見えるこれからのお店づくりについてのお話。

後篇「口コミ」

善光 知子(ぜんこう ともこ)1981年、富山県射水市生まれ。
学生時代、18歳で飲食店でのアルバイトを始める。以後、居酒屋、ラーメン屋、蕎麦屋などホールスタッフを7年ほど経験し、東京都国立市のレストラン「文流」に。そこで料理人の山澤伸明と出会う。
12年、山澤をシェフに迎え、恵比寿にてイタリアンレストラン「SOYO per tutti」をオープン。宣伝広告を打たない口コミ経営スタイルで、個店の魅力をプロデュースしている。

場づくり的な。—舞台としてのレストラン。


岩田
ほかにも何か、そういう自分発信のことをやってられるんですか?

善光
イベント的なものをいろいろ仕掛けようと思っていて。
この前は流しの女性と知り合って。30歳の若い女の子で、

岩田
流し?

善光
ギターの。

岩田
へえ。30歳で流しをやってるの。

善光
その子とご縁あって知り合えて、そのときもラブコールしちゃったんですよね。うちのお店で歌ってくれませんか? って。

岩田
みんな食事してる中で?

善光
そうですね。彼女を主賓にして。
それで、いろいろイベントを組んでいったら、22名様とかが集まってくれたりとかして。

岩田
へえ。

善光
「楽しいから」って言ってたら、「楽しそうだね」って言ってもらえるところにまで、ようやくちょっと足がかかったのかな。
あとほかには、11月に静岡の作家さんなんですけど、ランプマンっていう、

岩田
これですか?

善光
そう。これ、ランプマンっていうんですけど。
このランプもお店に飾っておくとみなさん反応してくれて。

岩田
かわいいですね。

善光
作家さんともご縁あって知り合えたので、作家さんも来ていただいて、せっかくなので展示販売と一緒にレストランの何かを使ってやろうかなと。
お店も5年やってきて、わたしが好き、興味があるっていうことに対して、共鳴してくれるお客様が集まってくれてるなあっていうのがあって。

岩田
飲食店の括りを超えて、場作り的な空間プロデュースになってますね。

善光
思うんですけど、ここ、レストランなんですけど、せっかく恵比寿のこの場所にこれだけの空間をもってるので、何かもっとできるんじゃないかなあ、とか。
前、ここでセミナーを開いたんですね。最初に一時間半ほどセミナーをやって、そのまま場所を変えずにランチタイムに変わる。
そういう使い方もこれからどんどんしてもらっていいかなあと。
いい空間なんで、いろんな使い方ができるかなあ、使ってもらえたらなあって。

宣伝広告費ゼロ

岩田
もともとそういうお店をやろうっていうより、だんだんそうなってきたと。

善光
そうですね。だんだんです。お客様との距離がだんだん縮まってきて。
すごい図々しい言い方なんですけど、「うちのお客様」って言いたい人たち、そういう人たちと出会えるようになった。そういう人が集まってくれるお店になってくれたというか。
ほぼほぼ口コミなんですよ、うちのお店って。

岩田
食べログじゃないのね(笑)

善光
食べログじゃない(笑)
そもそもは予算がなくって、宣伝広告費ゼロなんです。

岩田
立ち上げからですか?

善光
最初はお金がなかったんです。そんなところに使えるお金がなくって(笑)
ホームページだけは作ったんです。

岩田
あれ? SOYOさんのホームページ、ありましたっけ?

善光
削除しました。

岩田
ないですよね。

善光
ホームページもやめたんですよね。

岩田
なんでですか?

善光
そういうのじゃないお店がいいと思って。
知ってもらわないと来てもらえないお店ではあるんですけど、すごく健全な成長をしてるなと。
じわじわですけど。
お客様の、たぶん100%、口コミ。

岩田
ネットからSOYOの情報を消していくっていうことですね。

善光
極力(笑)

岩田
口コミだけで。

善光
うん。

岩田
すごいですね。

善光
すごくないですよ。それで成り立てばすごいですけど。成り立つかな、くらいのところにようやく片足かけたかな、ぐらいの。
今、フェイスブックページがメインになってるんですね。フェイスブックページはやめないほうがいいかなあと。お客様との距離感がちょうどいいんですよね。

岩田
たしかに、フェイスブックはSOYOさんのやり方にあってますね。

善光
フェイスブックページは、うちのことが気に入ってくれた人が「いいね」してくれて、その人に対して情報がいって、その人が「いいね」ってすると、その人の友達くらいまで情報がいくんですよね。
ちょうどいいんですよね、距離感が。

岩田
そうでしょうね。

善光
そこにプラスして、できるだけわたしとの距離を近く感じてほしいんですね。
予約とかも直接メッセージでやりとりするんですよ。最初たいへんだなと思った時もあったんですけど、直接わたしがやりとりする。パーティーにしても、とにかくわたしが対応する。
それがお客様のなかでは安心してもらえたりとか、わがまま言えたりするのかなとか思うと、ああ、この距離感はやる価値あるなあと。
ホームページだと、投げたままになっちゃうんで。

岩田
ネットも宣伝広告も活用しない。あるのはフェイスブックだけ。
今日は何の取材ができるかなあと思ってましたけど、だいぶエッジ効いてますね。

骨太なお店づくり


岩田
最初の年からスムーズでした?

善光
いやあ、ひどかったですよ。あのー…なんせ発信してないので。

岩田
そうですよね。

善光
誰も知らないですからね。場所も場所で…

岩田
わかりにくといえば、わかりにくい場所ですよね。

善光
正面の建物、今でこそ飲食ビルになってますけど、あそこもなかったんですよ。そこのパン屋さんもなかったんです。

岩田
たしかに、要所々々にお店があると、

善光
つながりますよね。

岩田
足が伸ばせる。
次の通りを見て、そこにお店がないと、「ここの通りはないね」ってなって、もうそれ以上そっちへ歩かないですからね。

善光
だからほんとに、夜になると、ポツンとうちだけ電気がついてる状態だったんで。
正直、しんどかったですね。

岩田
軌道に乗るのに何年ぐらいかかりました?

善光
今でも乗ってないですけど(笑)

岩田
そうなの?

善光
まだまだですけど、通帳見て体が震えることはなくなりました(笑)

岩田
ああ(笑)

善光
それで5年経ってようやく、軌道に乗ったとは言わないですけど、お店らしくなったのかなあと。
3年後にはオリンピックもありますし。

岩田
オリンピックは反面、そのあとで不景気が来るっていうことを示してたりもするからなあ。

善光
そういうことですよね。
なので、そういうことに左右されないお店、骨太なお店になろう、と。

岩田
面白いことになりそうなお店ですね。
善光さんのそのやり方が結実していく感じがする。

善光
そうですか。そう思ってもらえるんでしたら(笑)

岩田
僕は未来を感じるなあ。
個をちゃんと伝えてく、こういうやり方のほうが、未来がある感じがする。

善光
ああ、よかった。支えになります、その言葉は。


これで善光さんとのお話はおしまいです。
お読みいただきありがとうございました。

取材・構成・写真:岩田 和憲

「SOYO per tutti」ランチの一品

ズワイガニと季節野菜のリングイーネ・フィニ

オリーブと塩でシンプルに味つけ、ズワイガニから出る旨みを活かしたパスタ。
楕円平面形の細いリングイーネはソースに絡みやすく、あっさりとした味つけによく合います。

野菜は築地を通さない産地直送。農家さんから前日に情報をもらい、その日ごとに選んだ旬のものが彩りを添えます(ちなみにこの日は、ロマネスコ、オクラ、枝豆、生トマト、ズッキーニ)。

毎日、朝晩2回焼きあげられる自家製パンも名物。マッシュポテトを練り込み、もっちりとした弾力で人気です。
よろしかったらぜひ、SOYOさんで食べてみてくださいね。

店名:SOYO per tutti(ソヨ)
住所:東京都渋谷区恵比寿西2-17-22 アプリュスⅡ 1F
電話:03-6427-0440
アクセス:恵比寿駅から徒歩4分。代官山駅から徒歩4分。
営業時間:
11:30 ~ 14:30(L.O. 14:00)、 18:00 ~ 22:30(L.O. 21:30)
休日:土日

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/