「オーガニック食品は高いか?」ナプレ中村雅彦さんに訊く その2「食文化の汚染」

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「オーガニック食品は高いか?」ナプレ中村雅彦さんに訊く その2「食文化の汚染」

ピッツェリアの「ナプレ」をはじめ、東京・青山を中心に6店舗のイタリアンを経営する中村さん。日本でいちはやくオーガニックの考えを取り入れた、そんな中村さんと話す食文化の今。第2回は、化学メーカーが推し進める食の巨大ビジネス化、その危険性についてのお話などが展開します。(※企業名、役職等は取材時点での情報です。現在の内容とは一部異なる場合があります。)

その2「食文化の汚染」

中村 雅彦(なかむら まさひこ)1957年、東京都生まれ。株式会社ベラヴィータ代表。
80年、成城大学経済学部卒業。87年、スキーの指導法を学ぶためイタリアへ。帰国後、イタリア語教室「ベリタリア」を創立する。95年、イタリアンの飲食事業をスタート。2013年、いちはやくオーガニック食材への移行を開始し、15年、「ピッツェリア・トラットリア ナプレ」が日本初のオーガニックレストラン認証を獲得。化学で管理される食文化に警鐘を鳴らし、自然本来の食文化を発信している。

(※企業名、役職等は取材時点での情報です。現在の内容とは一部異なる場合があります。)

危機的な日本の食生活


中村
あと、古木の話から我々サイドの話にもっていけば、今の日本の食生活っていうのはもう世界最大の遺伝子組み換えと食品添加物と農薬とF1の汚染国になってるんです。

岩田
そうですね。

中村
もう日本がダントツ。今まではアメリカと日本だったけど、アメリカはオバマ大統領のときに「もうそろそろ食料についてきちっとやろう」っていうことで、今では遺伝子組み換え食材の表示義務が出来上がっている。日本はいまだにそれが曖昧なまま。
その日本は今、どうなってるの? っていったら、医療費は41兆円に膨れあがってるんですよ。
確かに女性の平均寿命は90歳近くになってきて、男性は80歳を超える。
でもあまり知られていないのは、長寿国なんだけど、寝たきり期間も世界でダントツなんですよね。

岩田
なるほど。

中村
12年間。寝たきり期間が12年間。

岩田
ねじれてますよね。

中村
あと食品添加物が多いもの、例えばカップヌードル。謎肉って、あんなもの肉じゃないですよ。中身は大豆。それを肉なんていう言葉を使っちゃいけないでしょ、やっぱりね。
それと同じことで、プラスチックで作られたフローリングの床をウッドって言っちゃダメでしょ。

岩田
フェイクですよね。

中村
そうですよ。
そういうことがすべて食の中にはあるし、建材の中にもある。すべてのものが我々の生活の中に存在しているわけですよ。
我々の生活の中に存在しているものを学び、意識して、少しでもいい方向に持っていかなければいけない。
だからこういうことはものすごい大事なんですよ。

ヨーロッパ人のオーガニック志向


岩田
ナプレさんはいちはやくオーガニック食材を取り入れてますよね。

中村
そうです。

岩田
イタリアのオーガニックの取り入れ方のほうが日本に先行していたわけですよね。

中村
イタリア、フランスはすごいですね。
オーガニックっていうのは、イタリアでも普通のものに比べたら値段が1.5倍から2倍します。でも彼らはなんのために1.5倍から2倍するその差額を払っているのかっていうと、まずひとつは、将来の自分の健康のため。それから将来、自分たちに生まれてくる子どものため、孫のため。もうひとつは、そういう安全なきれいなものを手間ひまかけて作ってくれている農家の人たちを応援するため。

岩田
ええ。

中村
オーガニック食品を食べてる人たちはそれをきちっと理解して、少し高いお金を払ってオーガニック食品を食べてる。
これは日本と違う。日本はオーガニック食品がファッションみたいになってますよね。そういうふうに思われちゃってるのは、今の食品業界、そのやばい現状を、政府もマスコミも言わないから。
「オーガニック食品は価格が2倍するから高い」って思う人たちでも、ペットボトルの水は飲んでる。でもペットボトルの水って、水道水の1000倍の値段ですよ。しかも日本の水道水はそんなに危険ではないですよ。世界でも、ニューヨークと日本の水道水はいいんですよね。なのに水道水がちょっと危険だからって言って、1000倍のお金を払ってる。
それに対して、オーガニック食品はたかが1.5倍から2倍じゃないですか。

岩田
しかも将来の医療費を考えると高く付くのは安い食品の方かもしれない。

中村
ほんと、そうですよ。

フェアプレーと正当価格


岩田
中村さん、ものにこだわられてるじゃないですか。
例えば窯ですよね。何でしたっけ、フェラー…

中村
はい、フェラーラ。

岩田
フェラーラさんの職人の窯を

中村
そうです。

ナプレで使われているナポリ有数の職人フェラーラ家の手によるピッツァ窯。

岩田
あれは相当なものを入れてますよね。
特に事業をする人としては、ものに対してどれだけコストをかけるかっていう問題があると思うんですけど、中村さん、相当かけてる方ですよね。

中村
かけすぎだとよく言われる(笑)
かけすぎだから商売うまくいかないんだって言われる。

岩田
そういう職人がつくるものを使うことにも、メッセージや想いがあるんですか?

中村
僕はずっとね、子どものころからいろんなスポーツをやってきたから、スポーツをやりながら、スポーツ選手の歴史、美談、物語、こういうのがすごく好きだったんですね。

岩田
はい。

中村
そういった中でいつのまにか僕に培われたものって、フェアプレーなんですよ。
フェアプレーっていうのは、言ってみれば正当価格。

岩田
ああ。

中村
価格っていうものには正当価格っていうものがあると僕は思うんですよ。
さっきも言ったようにオーガニックの食品が1.5倍から2倍するのは、これ、当たり前の話なんですよ。むしろ、オーガニックの食品を基準に考えれば、オーガニック以外の食品が高すぎる。僕は10分の1でいいと思います。
だからオーガニックの野菜を作っている人たちの原価に比べたら…

岩田
F1種ですか?

中村
F1にしてもそうだし、遺伝子組み換えもそう。人件費かけずに飛行機で農薬まいて大量に作られてるもの。ポストハーベストという殺虫剤を使用して合成保存料混ぜてるもの。
そういうものに対し、オーガニックで一生懸命農家の方たちが虫がたからないように努力したもの、腐らないように努力したものがあるわけで。
コストはね、1.5倍から2倍どころじゃないですよ。

岩田
ええ。

中村
ということは、オーガニックではない食品を作ってる人たちはボロ儲けをしてるっていうことです。僕からするとそれは正当ではない。
ボロ儲けができるからモンサント(※)みたいな会社がどんどん農業をビジネスとして世界を制覇しようとしてるわけじゃないですか。

※モンサント … アメリカのバイオ化学メーカー。1901年、人工甘味料メーカーとして創業。現在は農薬メーカー、遺伝子組み換え作物の育種販売として知られる。ベトナム戦争で使われた枯葉剤の製造メーカーでもある。

中村
とても怖いことですよ。F1種みたいなものが出てきたことは信じられないことですよ。
F1種っていうのはどういうことかというと、一代でしか…

岩田
種を残さないんですよね。

中村
種をまくと野菜はできます、実はなります。でもこの実や花から、次の世代をつくる種が出ない。種があったとしてもその種は交配できない。

岩田
実は今スーパーで売られてる野菜のほとんどはそういうF1種なんだっていう。しかも日本人のほとんどはそれを知らないですよね。

中村
そう。で、なぜF1種が出てきたのかというと、これはビジネスなんですよ。
つまり、農家の方たちというのは昔から先祖代々、自分の作物は自分で種を作って、あるいは自分で接木してずっとやってきた。これを持続的農業っていうんですけど、ずっと先祖代々続けていける、将来にわたって続けていける農業だったんですよ。
でもF1種は一代なんですよ。
ということはどういうことかというと、農家は毎年、種を買わないといけないんですよ。
種を買わされるんですよ。

山上 浩明(以下、山上)
卵と同じですね。産卵鶏の市場も海外の限られたメーカーに独占されてて、ほとんどそこから買うシステムができてるらしいですね。

中村
アメリカのモンサントやドイツのバイエル。そういう遺伝子や化学メーカーが食べ物のビジネスに着手してきている。
F1種も特許です。どんどん遺伝子組み換えを培って特許をとっていく。
そうなると、その種を農家は買わなきゃいけなくなる。その種を買いました。すると今度は、「この品種にはこの農薬を使ってください、そうでないとダメですよ」ってなる。その農薬もそのメーカーが作ってるんですよ。
まさに日本はそういう企業の最大のマーケットになってるんですよ。大変な問題なんですよ。
イタリア人は日本にくるときに、自分たちの食べるものをスーツケースに入れて持ってくるんですよ(笑)
今言ったような話も、古木に共通するでしょ?

山上
共通しますね。リンクします。

中村
古木っていうのはいちばんのエコですよ。こんなに素敵な再利用ってないですよ。
100年も持つんですよ。しかも家の中の湿度と温度さえあえば200年も持ちますよ。
法隆寺は…

山上
1300年ですね。

中村
1300年。しかもぜんぶ、木ですよ。

岩田
さらに石の上にポンと置いてあるだけっていうね。

中村
あと、僕らが日常使ってる言葉の中に林業や大工さん、木材に関わる言葉ってたくさんあるんですよ。たとえば適材適所っていう言葉があるでしょ。

岩田
ああ、そうですね。

中村
適材適所ってどこから出てきた言葉かっていうと、木材ってだいたい四面にカットする。大事なことは、木をカットするときに東西南北にあわせてカットしないといけない。
で、建物を建てるときに、もともとその木材のこの面はどっちを向いてたか? それを合わせないと木がしなったり曲がったり割れたりするわけですよ。
なぜかというと、北を向いてたところには太陽光線があたってないから、それを太陽に当たる南側にすると割れちゃうんですよ。
そういうのを昔の大工さんや林業をやってた人はこだわってたんですよ。子どものときに見た四角い柱には、東西南北って書いてあった。そういうのが昔の人たちの生活の知恵ですよね。それは結局、無駄にしないためでしょ。


次回へつづきます。

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/