「オーガニック食品は高いか?」ナプレ中村雅彦さんに訊く その3「食への感性」

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「オーガニック食品は高いか?」ナプレ中村雅彦さんに訊く その3「食への感性」

ピッツェリアの「ナプレ」をはじめ、東京・青山を中心に6店舗のイタリアンを経営する中村さん。日本でいちはやくオーガニックの考えを取り入れた、そんな中村さんと話す食文化の今。最終回となる第3回は、生産者を応援するためにできること、などのお話しです。

その3「食への感性」

中村 雅彦(なかむら まさひこ)1957年、東京都生まれ。株式会社ベラヴィータ代表。
80年、成城大学経済学部卒業。87年、スキーの指導法を学ぶためイタリアへ。帰国後、イタリア語教室「ベリタリア」を創立する。95年、イタリアンの飲食事業をスタート。2013年、いちはやくオーガニック食材への移行を開始し、15年、「ピッツェリア・トラットリア ナプレ」が日本初のオーガニックレストラン認証を獲得。化学で管理される食文化に警鐘を鳴らし、自然本来の食文化を発信している。

仕事と人


岩田
中村さんは料理という仕事を通して人を育てるっていう想いも持たれてますよね?

中村
育てるなんて偉そうなことは考えなくて、せめて、なんていうのかな、ちょっと偉そうな言い方になっちゃうのがイヤなんですけど、周りの人たちに素敵な人になってもらいたいなって。僕も素敵な人の中にいたいなって。人間、1人で生きてるわけじゃないですから。
そういうことが核家族化した日本国内からは失われてきてる。
最近、レストランに行っても2人でお食事してる人が多いでしょ。
5人、10人とか、みんなでワイワイガヤガヤっていうのはなくなってきてる。

岩田
ナプレのお客さんだと、あんまり家族連れっていうイメージでもない気がするんですけど。

中村
家族連れもありますよ。

岩田
カップルが多いですよね?

中村
カップルも多いですけどね。僕はほんとに、カップルだけじゃなくて遠慮なくお子さんも連れてきてほしい。ベビーカーでもいいですから。
で、そこで、赤ちゃんが泣きました、子どもがいたずらしました。それをお父さんお母さんが赤ちゃんを抱いてあやしたり、外へ連れて行って一回泣き止むまであやしたり。子どもを注意したり。それでお父さん、お母さんたちっていうのは成長するじゃないですか。勉強になるじゃないですか。
でもそれをできるのは、そのお父さんお母さんたちが、感じることのできる人間だからですよ。感じることができない人間はそのままほったらかすんですよ。感じることができないご両親の下で育った子どもは感じることができない。すごく大事なこと。

岩田
飲食店をやられる方で、お子さん連れを受け入れるかどうかっていうのは、やっぱり悩む方は多いですよね。

中村
悩みますよね。まあでも、目に余るようなことをする家族連れはあまりいないですよ。

食事と小さな幸せ


山上
私、昔は自分が内装業をやるとは思ってなかったので、それこそナプレさんはデートで使うお店という認識でしたから、中村さんがどういうふうなコンセプトでこの1号店を開いたのか、それが今の話すべてに繋がっているのだろうと思いまして、そこに至るまでに興味があるんですね。

中村
まずレストランの経営者っていろんなコンセプトの方がいる。確かに商売なので儲からなかったら何にもならないんですけど、でも、僕はすごく食事っていうものが大事なことだと思ってるんで、基本的にはそのレストランで、とくにディナーです、ディナーは昼でも夜でもいいですよ、その日のいちばん大事な食事をディナーっていうんですけど、その日のいちばん大事な食事において、毎回ね、小さな幸せを感じてほしい。そういう想いですね。
だからカトリックのテーブルは素晴らしいよね。食事をする前に神様に感謝する。あれは神に感謝をするのと同時に、小さな幸せを感じるんですよ。
やっぱりね、幸せを感じないとダメなんだよね。気持ちはいじけるし、怒りや悲しみも忘れられないし、だから人間っていうのは簡単でいいから毎日小さな幸せを感じること。
その小さな幸せをいちばん感じやすい方法手段っていうのは、僕は食事だと思う。
「これ、おいしいよね」「おいしいね」っていうだけでも幸せじゃないですか。

岩田
僕は、子どものもってる自由な感覚をなるべく制限したくないと思ってるんですけど、「いただきます」と「ごちそうさま」だけは言うように、そこだけは子どもに厳しく教えてるっていうのはありますね。

中村
いただきます、ごちそうさまって、要はお礼じゃないですか。

岩田
そうですね。いろんなものへのお礼ですよね。

中村
いい言葉ですよ。

傷ついた野菜、虫のついた野菜でいい。


岩田
最後に、そうしたビジョンで飲食店を経営されてきて、今、これから新しくやろうと考えられてることってありますか?

中村
まだまだすごく大変なことだと思いますけど、日本でも生産者の方たち、特に若い農業をやってる方たちはどんどんオーガニックの方向にシフトしてて、

岩田
そうですね。

中村
オーガニックをやりたいっていう方たちがいる。そういう人たちを応援したいですね。
僕らのようなレストランっていうのは、生産者が作ってくれたものを一般消費者に売る。つまりエンドユーザーと直に接しているのは僕らレストランなんですよ。
エンドユーザーと接してるから、エンドユーザーの方たちが何を食べたいのか、どういう状態のものをおいしいと思うかっていうことを、生産者の方たちに正確に伝えてあげること。これが僕らの仕事だと思ってるんです。
昔は農協にコントロールされてたわけでしょ。農協の都合でトマトをこういう状態で、いつからいつまでに持ってきてください、それ以前も以降も買い付けしません、サイズはこれくらい、色はこのくらい、ってやってるでしょ。
でもね、僕らレストランをやってて、トマト、傷ついてていいんですよ。割れててもいいんですよ。割れてたらそこだけきれいに取り去る。もしかしたら割れてるトマトは熟してるトマトでおいしいかもしれないですよ。
そういうものが今までは農協っていうのがあいだに入ってて売れなかった。
結局、何が起こるか? 売りやすいものだけが高く売られてる。
でも、もし曲がったキュウリ、傷ついたナス、あるいは台風で落ちたリンゴを、「それでもいい」っていう消費者の方たちがいたら、たとえ半額でも流通する世界を作ってあげれば、農家の人たちは助かるじゃないですか。
逆にいうと、今のトマトは間引きされたトマト分の値段がきれいなトマトに乗ってる。
ヨーロッパに行くと、野菜の値段って日本の10分の1ですよ。

岩田
確かに向こうは安いですよね。

中村
日本の野菜って、トマトが3個で300円とか600円とかだとしたら、向こうは1kgです。
だけども、中には割れてるのもあれば傷ついてるのもある。ポルチーニ茸なんて虫が動いてるものもある。ポルチーニなんて虫がつくのが当たり前なんですよ。昔のキャベツって青虫がついてるのが当たり前だったんですよ。

岩田
「虫が食べるくらい美味しいんですよ」って言えますしね。

中村
そうですよ。
でも結局、そういう手間ひまをとるために農薬が使われたり遺伝子組み換えが使われたり。
それがどうなっていくかっていうと、食べる人たちの健康被害。あと、実は、農薬を使ってる農家の人たちがいちばん健康被害を受けてるんですよ。
日本のコンビニだとかファストフードを食べ続けた若者が、60歳になって癌になりました。癌になったときにこれをね、「今まで食べてきた食事のせいだ」って言ったって証明できないでしょ? だからどこのメーカーも、罰せられない。公害と一緒ですよ。
古木に興味があるっていう人たちは、こういう同じような感性をもってるはずですよ。少なくとも自然や環境についての感性をもってるはずですよ。古木を良しと感じてくれた人たちはオーガニック食品の世界についても良しと感じるだろうし、自然食品をいいなって感じてくれる人たちは天然の木目がいいってなる。
そういうのが広がっていけば、いい日本になるかもしれない。

生産者のもとへ足を運ぶ


岩田
そうやって生産者を応援するために中村さんが取り組んでることっていうのは、

中村
第一に、その方たちから食品を買うっていうことですよね。
それと、彼らに効率のいい仕事をしてもらう。
今の消費者のマーケットが、いったいどういった時期にどういったものを潜在的に求めているか、これを的確に伝えてあげることによって無駄がなくなりますよね。
今までよりもっと旬のものを消費者に食べてもらえる。
旬のものを食べてもらえるってことは美味しいものを食べてもらえるってことじゃないですか?

岩田
それを実現するために何か具体的なことをされてるんですか?

中村
とにかく地方へ出向き、生産者の方たちと会ってます。
名古屋の街のど真ん中で毎週土曜日に行われるオーガニックマーケット、すごいですよ。
そこで生産者の方たちと話したりとか。
あとは生産者の方たちのいろんなところへ、

岩田
現地へ足を運ぶわけですよね?

中村
もちろんです。このあいだは宮崎へ行ってきましたし。
宮崎といえば、鶏肉の話をしましょうか?

岩田
はい。お願いします(笑)

ブロイラーと地鶏


中村
みなさんが食べてるブロイラーって、生まれてから7週間くらいでもう成長して肉になって出るんですよ。7週間ですよ。

岩田
へえ。

中村
いわゆる地鶏ってあるでしょ。宮崎地鶏とか名古屋コーチンとか。

岩田
はい。

中村
ああいうのはね、だいたい生まれてから150日です。
かたや50日。かたや150日。エサ代だけで3倍かかってますよ。3倍の手間がかかってる。それ、高くなるの当たり前でしょ?
だけどブロイラーと地鶏の価格差は、だいたい倍くらい。
でも名古屋コーチンが100g/300円だったらブロイラーは100g/100円以下でなくちゃいけないんですよ。
その差は逆算すると、手間ひまをかけてない人たちの暴利ですよ。

岩田
50日で育つ鶏を人工的に作り上げてるってことですよね?

中村
そうです。
ほかにも、卵をつくる鶏は寝かせない。ずっと電灯をつけっぱなしで寝かせない。

山上
野菜の話と同じですね。

中村
ぜんぶ同じです。
僕らの身体、脳みそもそうです。食べたものによって作られてるわけだから。
50日、強制的にステロイドを打たれ、寝ずに育った鶏や卵を食べてたら僕らの体がおかしくなるのは当たり前ですよ。

せめて食にだけは注意が必要


山上
こういう話を聞くと、「ちゃんとしたものを食べたいんですけど、どうしたらいいですか?」みたいな話になりますね。どこで買ったらいいんだろう、とか。
ちなみに私の実家、長野では作ってるんですよ。トマトとかレタスとか。野菜に虫が入ってるのもよくわかるんです。
それを定期的に送ってくれるので、それはいいことだと思ってるんですけど。
野菜はそれでいいとして、でも、肉とか魚までは実家では作れない。
あと、そもそも世の中に情報がいろいろある中で、いったい何が本当かわからないなっていうのはありますね。

中村
何が本当かわからない。そうですね。だから、注意しなければいけないんですよね。
僕は、洋服とかはまだいいと思うんですよ。
でも、食い物だけは自分の体の中に入るものだし、将来の自分を構成するものだから、そこに気を使わないでどうするんですか? って。
下手するとね、そういうものに気をつかわない人はヨーロッパでは嫌われたりしますから。

岩田
(笑)

中村
ほんとに。そこに気を使わないって、それ、人間じゃないよ、って。

岩田
(笑)

中村
南イタリアにアルタムーラっていうところがあるんですけど、オーガニックの硬質小麦がとれるところ。イタリアでいちばん美味しい小麦がとれる。そのアルタムーラには、当たり前だけどパン屋がいっぱいある。
10年前にその町にマクドナルドができた。でもそのマクドナルドは、わずか3ヶ月で撤退した。

岩田
へえ。

中村
誰も行かなかった。
イタリアでパンのいちばん美味しい街の人たちは、マクドナルドなんて食べなかったんですよ。
ということで、ちょっと今からやりますか? お昼ですから。
(お店のスタッフさんに)そこの角で場所をつくってくれる? テーブル3つ、くっつけて。
じゃあ今からちょっと、僕がお話ししたことが理解できるお食事をみんなでしましょう。



こうして中村さんプロデュースによる「ここまでの話が理解できるお食事」として、メニューにはない、こんな料理がふるまわれました。

それがこの食事です。

オーガニックのスパークリングワイン。スプマンテ プロセッコDOC。ナプレさん直輸入、酸化防止剤不使用だそう。

中村さんが最高の小麦粉という、アルタムーラの小麦粉で作ったパン。アルタムーラの街でふつうに食べられているパンだそう。この深い黄色こそ、天然の色。

ペドラッツォーリ社、オーガニックのブレザオラ。ブレザオラといえば牛肉が多いのですが、こちらは豚肉のもも肉を少し燻製にかけたもの。

同じくペドラッツォーリ社、オーガニックのハム。子豚も親豚もすべてオーガニックのものを食べて育ったものだそうです。

こちらもペドラッツォーリ社、オーガニックのプロシュート・コット。ボイルしたハム。

ポンテ・レアーレ社、オーガニックの水牛のモッツァレラチーズ「ボッコンチーニ」。モッツァレラができるときの温度で食べるべし、ということで常温に戻した状態でふるまわれます。

有機トマトとルッコラ。その場でヴィネガーなどとあえ、ふるまわれました。甘みがあって美味いです。

ナプレ自慢のオーガニックの小麦を使用したナポリピザ。マルゲリータの方から食べるように。味わう順番もあります。

生の手打ちタリオリーニのゆであげ。ソースもなにもなし。塩胡椒とオリーブだけで素材を味わう。

最後にジェラートを。このジェラートのミルクも含めて、すべてオーガニック。そしてこのジェラート、肌理がとても細かかったです。


という、体験を提供する食卓。
並んだのも料理という以上に食材そのもので、どれも厚みのある味で美味しかったです。
中でも生タリオリーニのゆであげ。「レストランでは、ゆでただけのパスタを出すわけにはいかないけど、実はこれがすごく美味いんだ」という中村さんの説明はまさにその通りで、目からウロコでした。
ぜひみなさんも体験してほしいなあ。。。


食材にまつわる今日の社会問題。
意見はいろいろあると思いますが、中村さんの言うとおり、とりわけ食については、自分で情報を取りに行かないといけない時代にはなっていると思います。

せめてこの記事が、そんなことを考えるきっかけにでもなればいいなあと思います。


これで中村さんとのお話はおしまいです。
お読みいただきありがとうございました。


取材:岩田和憲、山上浩明
構成:岩田和憲
写真:酒井香菜子、岩田和憲

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