木材の利用を促進するために・ウッドデザイン賞について

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木の良さや価値を伝え利用を促進するために

2020年に山翠舎では古民家・古木サーキュラーエコノミーで「ウッドデザイン賞」を受賞しました。 ウッドデザイン賞は”木の良さや価値を再発見させる製品や取り組みについて、特に優れたものを消費者目線で評価し、表彰する新しい表彰制度です。(※ウッドデザイン賞HPより) 今回、ユニバーサルデザイン総合研究所所長、赤池学様にウッドデザイン賞についてや木材利用の必要性や木材空間の可能性など、お話いただきました。

赤池学様

赤池:10年くらい前から、林野庁は、公共施設に対する国産材活用を推進する政策を進めてきました。その関連で、様々な有識者の検討会が催され、「木材利用ポイント」という国産材活用の助成補助制度が立ち上がりました。その流れを発展的に拡大し、「森林環境税」「森林環境譲与税」という新しい制度設計の動きが台頭し、前倒しの形で「森林環境贈与税」が全国の自治体に配布されるという現在の流れになってきたのです。 

 日本の森林自体が、更新期に来ています。国産材活用を積極的に活用し、新たな植林活動を行わないと、山そのものが持続不可能になってしまう。また、森林や製材に関わる人材の育成や森に関わる雇用の維持なども、大きな課題です。このような経緯と背景のなかで、森林や林業に関わる課題解決に資する、木造・木質の施設や木製品開発、それらを加速させるビジネスモデルの普及を促進していこうと、「ウッドデザイン賞」が6年前に立ち上がったのです。 

 学校などの公共施設に、調湿効果を持つ木材を活用することによって、子どもの感染症が激減する。こうした科学的なエビデンスも積みあがってきています。また、筑波大学医学部と森林総合研究所の共同研究により、木材が快眠を促すこともわかってきました。 

こうした研究がドライブとなり、2020年度のウッドデザイン賞グランプリを受賞された、日建設計、清水建設による有明体操競技場に象徴されるように、竹中工務店、大場組などのゼネコン、三菱地所、三井不動産などのディベロッパー、そしてパワービルダーを含めたハウスメーカーが、木造・木質の中高層建築や国産材戸建て住宅を積極的に建設するような流れが加速してきました。それに併せて、従来のCLTのような構造材だけでなく、様々な建材や構造材などの工法開発、その調達・流通の仕組みづくりなどが全国で台頭し始めてきたのです。 

そして、この傾向はコロナ禍で、家族とのプライベートの大切さやワーケーションに目覚めた、アフターコロナのオフィス、住宅の在り方に大きな影響を与えるでしょう。安全、安心、快適な木造・木質のオフィス空間、居住空間での就業や暮らしに、改めて注目が集まっているというのが、現在の状況だと思います。 

2020年ウッドデザイン賞受賞式
2020年ウッドデザイン賞受賞式

山上 : 木材利用の促進にうまく繋がっていきそうでしょうか? 

赤池:確実に増えていくと思いますね。木材には、視覚的、精神的なプラスの効果がありますし、その科学的、医学的効果も明らかになりつつある。木のある健康で快適な空間のなかで、家族と過ごしたい。こうしたニーズを受けて、首都圏まで1時間くらいの埼玉、神奈川、千葉の郊外エリアで今、購入しやすい木造の中古戸建住宅や木質マンションが大人気という、ウィズコロナのユニークなデータもあるのです。 

山上: 木材の効用について、科学的なエビデンスを集積しようという取り組みは、心強いですね。山翠舎でも、商品のストーリーが込められた木や古木を使って、人に対する影響の違いが出るかを実験する予定です。 

赤池:非常に面白いですね。ウッドデザインを含めて、私はデザインがもたらすバリューを、ハード、ソフト、センス、ソーシャルという4つのウエアで整理しています。 

「ハードウエア」というのは、素材や技術がもたらす機能品質です。医学的な睡眠促進効果などのバリューがそれです。 

次の「ソフトウエア」とは、優れた素材や技術の使い方がもたらす品質です。例えば、カラマツ、トドマツなどの針葉樹は、柔らかく、傷がつきやすいため、建築材料としてあまり使われてこなかった。しかし、この弱点だと思われていた柔らかさや質感が、子ども環境においては怪我を防ぎ、安らぎや温かさを生み出すことに気づけば、幼稚園や保育園に使う価値が生まれてくる。こうした展開品質を価値化していくのです。 

3つ目は、心と五感に訴求する「センスウエア」です。経済産業省は、僕のこの言葉に、「感性価値」という日本語をつけてくれました。古木で言えば、節目、色、手触り、香りなどのバリューです。 

山上:木造木質空間や木製家具の心理的効果が、世界的にもまだ研究が少ないのですね。日本がリードできれば良いですね。 

赤池:それは、四つ目の「ソーシャルウエア」に関わります。木造・木質空間の健康効果は、お施主さんという消費者にメリットをもたらしますが、木を使ってあげることそのものが、林業とか製材に関わる事業者に対してもメリットをもたらすことができますよね。これが、ユーザーを超えた公益品質です。こうしたハードウエア、ソフトウエア、センスウエア、ソーシャルウエアをぐるぐる回しながら、ウッドデザインコミュニティをより広く実装させていきたい。これが、ウッドデザイン賞に関わる私たちの共通の思いです。 

山上:なるほど。取引先の飲食店では産地の分かる食材を扱う方が多いのですが、そのことで、生産者やその知人の方が友人を連れて、そこの飲食店を利用し、楽しい時間を過ごされるというお話を聞いたんですね。古木や材木も同様で、謂れなどのつなげられる要素は沢山あるので、そういったところをもっとアピールしていけたらいいなと思いました。 

 また、材木の製材にはたくさんの方が関わっているので、それぞれがパーツではなく、関連していることが消費者にもっと伝わるような仕組みができれば、木材の利用が加速するのかなと感じます。 

赤池:ソーシャルウエアのデザインは、センスウエアのデザインとも関係しています。大工さんに家を建ててもらったらメンテナンスもリノベーションもその大工さんとの付き合いの中でやっていく。それが、森林組合や製材ともつながっている。こうしたバリューチェーンとの交流・交歓そのものも、かけがえのない価値になるのです。 

山上:そういった意味では今後は工業化社会で機能的に分断していたところを昔のようにつながりがわかりやすいような形にもどっていくような流れがあるということですね…。 

 また、ソフトウエアのところでは、山翠舎も10年前から古木でテーブルカウンターを作っています。保存している古木の9割は松なのですが、古民家では柱などに良く利用されていたようです。当時は針葉樹でテーブルカウンターというのは一般的ではなかったのですが、加工して提供したところ、大変好評です。このように様々な利用方法に挑戦して、材木の持っている可能性を広げて伝えていけたら良いなと感じました。 

山上:ウッドデザイン賞の講評動画を見ると、審査員の方々がデザインと製品との距離について、さらなるデザイン向上が必要とのお声がありましたが、消費者が必要とするデザインについて、これから求められるポイントなどあればお聞かせください。 

赤池:これまでデザインとは、意匠性を上げていく創造活動だと狭義に捉えられていたのですが、今は国際的にも、設定した目標を達成するためのすべての創造的な行為として定義されています。ウッドデザインというのは、まさにハード・ソフト・センス・ソーシャルのそれぞれの領域の中で、価値を高めていくことで、山元にも川下にも、購入した生活者にもトータルにメリットを与えるていけますよね。中高層のオフィスビルもみんな国産の木材で作っていく、結果としてそれが山の持続的な活用に繋がっていく。ウッドデザイン賞をこれから、ウッドデザインコミュニティといった、大きなソーシャルデザインに繋げていければと思い活動してるんですね。 

野々下: 国産の木に対して高級なイメージや使ってはいけない物という感覚が私にはあったのですが、実は使っていかなくてはいけない物だったのですね。森林の更新期についてもわからなかったのですが、いま日本の森林は使うべき時期に来ているということなんですね。 

赤池:要するに木材は、50年とか70年たたないと建材として使えない。70年先のために植林しておかないと、持続不可能になってしまうわけですよね。昔の人々は、使っては植え、使っては植え、とやってきたわけですよね。 

山上:普通に日本はやってきたんですけど、やれてない国もあって、自国の木がなくなっちゃったと、レバノンやイギリスも。木と国の繁栄は比例するという考え方もあって。日本はそういう意味からすると凄いなと…。 

 国産材の消費が3割くらいと聞いたことがありますが、もっと日本の木を使えばいいのにと感じますが、そこはなぜなのでしょうか? 輸入と国産材の使用のバランスについて、お聞かせいただけますでしょうか? 

赤池:最近では、大手の積水ハウスさんなども、国産材を使った住宅を作ってくれていますね。 

ダイワハウスさんなんかも、木材利用ポイントやウッドデザイン賞ができたことで、国産材を使った商品住宅を積極的に作ってくれるようになった。外材とかまとめて輸入した方がコスト性がいい、といった価値観が覆った感があります。 

山上:木材の卸の方々とお話をすると、3000万円の家があった時に、国産材と輸入材の差は30万程度らしいんですね。一般的な感覚だと国産材を使うと、4-5000万円かかってしまうのではないかというイメージがあるのですが。もっと国産材を使って欲しいと思います。 

赤池:問題の一つは、やっぱり木材の流通です。その仕組みちゃんと作ってこなかった。地元の製材屋さんとか木材屋さんは、ロジスティックのスケールが小さい。一方、大手のビルダーはある程度の量が必要。この両者のニーズを満たすデリバリーの仕組みが未整備だったというのが一番の問題なんですね。それが最近、例えばナイス(株)さんのように、全国の多様な木材を全国規模でデリバリーするような仕組みが、森林環境贈与税活用などの流れを受けて、生み出されてきたのです。 

山上:流通も改善されつつあるのですね。日本の木の消費割合が全体的に増えていき、古木の消費も増えていけばよいのですが。 

赤池:そういう意味では、古木のサーキュラーエコノミーというのは非常に古くて新しいビジネスモデルだと思います。古民家をリノベーションして施設化していくという、そういう方法もあるのですが、集客のポテンシャルがないようなところで古民家改修しても、ソフトウェア的には役に立たない、ビジネスにならないという現実があるわけですよね。そこを山翠舎さんは、流通させてしかるべきポテンシャルのあるところに古木を使って行こうとされている。そのビジネスモデルが非常にチャーミングなので、ウッドデザインの審査会の中でも高く評価されたんだと思います。 

古木を使った施設「道の駅おたり」(長野県)

野々下:消費者の側はどういうことを心がけるべきか、どのように木を使っていくのが一番良いでしょうか? 

赤池:先ほどもお話したように、木造の戸建てを建ててあげると、快眠空間も提供できますし、日本の山が潤いますね。オフィスも木造、木質で作って頂いた方が、作業効率が高まるというような知見が積みあがってきたので、大手のゼネコンさんも、オフィスタワーを積極的に木造・木質で作り始めるようになりました。 

野々下:都心ではなく地方に快適な木造のオフィスを作った方が良いよね、という流れになっていきそうですね。 

赤池:徳島県海陽町っていう街が南四国にあって、大和朝廷の時代から木材を供給してた歴史ある林業地域なんですけど、その海陽町が、Iターン移住を体験するためのゲストハウスを作ったんですね。 1年以内の生活をできるゲストハウスが3棟建てられ、とても人気があるそうです。WEBワーカーとかデザイナーさんとかが、家族ぐるみで移住体験可能な施設になっています。こうした施設が、ワーケーションの流れの中で、様々な自治体などで多分、これから増えてくると考えています。 

野々下:短期間、地方での暮らしが体験できる施設はとても便利ですね! 

赤池:農水省さんが1次・2次・3次を連携させた6次産品開発などに取り組んでいますよね。6次産品みたいなことを提供したり、ブランディングをしたりする施設の開発を補助する。そういう制度も次年度から動いてくるんですね。 

 地域の中に、ちゃんとワーケーションができて、長期のリピート滞在も可能で、週末家族でも利用できる。こうした地元材で作った、地元の郷土料理も楽しめるワーケーションオーベルジュのような施設も、これから台頭してくると思います。 

山上:すでに、ワーケーションオーベルジュをやられているところはありますか? 

山梨県の「小菅源流の森」なども、こうした使われ方をしています。また、今うちが、コンサルさせていただいている地域でも、何拠点か作る計画になっています。 

 長野では、竹中工務店さんが、塩尻の街づくりをやってますよね。電通さんは、東急リゾートさんと組んで、茅野エリアのリノベーションプロジェクトを今、進めている。日本中で焦げ付いてしまった別荘地とかいっぱいあるじゃないですか? そこに、ウッドデザインなクリエイティブが入ってくると、ワーケーションリゾートが全国に立ち上がる。ウッドデザインに基づく、あるいは山翠舎さんの古木を活用した別荘地のリノベーションみたいなプロジェクトは、十分に実装可能だと考えています。 

「森林環境税」は、令和6(2024)年度から、「森林環境譲与税」は、令和元(2019)年度から譲与が開始されています。 間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の「森林整備及びその促進に関する費用」に充てることとされています。 森林の整備は地球温暖化防止のみならず、国土の保全や水源の涵養等などのため行う必要があります。 出典:林野庁HPより https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/kankyouzei/kankyouzei_jouyozei.html

※本文中は敬称を略させていただきました。

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