古木とSDGsがつなぐ、新しい価値観の輪

インタビュー
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こんにちは、中小企業診断士の岡本です。私は今、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが盛んな長野県でSDGsに関する様々な事業に携わらせていただいております。

今回、新型コロナウイルスの影響を最も受けている飲食業界で、SDGsのゴールを目指しながら新規事業を検討している野口さんと澤田さんにお話を伺うことができました。
お二方の熱い想いと事業の面白さに、私は思わず唸ってしまいます。いやぁ何と素晴らしい機会を頂いたのでしょう。
長野のSDGs交流スペースと東京の山翠舎さん事務所を繋いでお話した90分、非常に濃い時間となりました。その内容を少しだけ、皆さんにもお届けしたいと思います。

~若い人がもっと元気に、そして地域がもっと元気に~野口 利一さん



穏やかな口調で重みのある言葉を伝える姿は、「みんなのお父さん」。
野口さんは18歳で料理の世界に飛び込み、以来がむしゃらに働き続けました。その時、ふと疑問に思うことがあったそうです。
「和食の世界に若者が入ってこない…何でだろう?」
実は飲食業界、今も昔も厳しい世界なんですね。過酷なまでに長い労働時間や、なかなか増えることがない給料。そんな労働環境の中で若手が「頑張ろう!」と思えるかというと、中々難しいものがあります。
「このままでは和食が衰退していってしまう…。もっとちゃんとしたやり方があるのでは? 自分なら業界を変えることはできないか?」
そんな想いもあり、野口さんは2013年に居酒屋「ごくりっ」を地元木更津市で立ち上げました。そしてその2年後には、洋食とワインの店「ブッフルージュ」を同じく木更津市にオープンさせます。

ごくりっ(木更津)

洋食とワイン ブッフルージュ(木更津)

この2つのお店、料理以外で全く違うところがあるのです。それが「店舗のコンセプト」です。
「ごくりっ」は若手が学び、そこから独立して地域が元気になるような店を構えてほしい、というコンセプトのお店。対して「ブッフルージュ」は、地域とのつながりを大事にしながら経営マインドを突き詰めていくお店。
さらにこの両店はコンセプトの違いだけでなく、役割もそれぞれ違うのです。例えば「ごくりっ」で魚を全て仕込み、「ブッフルージュ」で肉・野菜を全て仕込むなど、それぞれの店舗で役割を決めることで無駄のない仕込みを行い、店の利益率を高めています。
この発想は中小企業には無くてはならない発想です。「中小企業は効率化しなさい」と国が言っていますが、効率化しろといっても実際に何をやればいいのか分からないことも多いですよね。
私も自分の仕事を効率化したのですが、気がつくとスマホのアプリで漫画を読んでいます。
…はい、すみません。コンサルなのにナマケモノです。

「ごくりっ」で学んだ若手が独立開業した店は、近隣だけでも4店舗あります。「これだけ近いと客の奪い合いが起きるんじゃない?」と心配しますよね。私もそう思いました。
だけど野口さんは彼ら彼女らをただ独立させるだけでなく、お互いに負担を減らしながら協力して経営していくことを目指しているのです。それを聞いたときに私の中で「みんなのお父さん」という野口さんのキャッチフレーズが出来上がりました。
独立したばかりのお店にとって、仕入れ一つにしても負担が大きいのは皆さんもご存じかと思います。しかしお父さん…もとい野口さんのお店で一括して仕入れれば、各店がそれぞれ独自で仕入れを行うより費用も手間も抑えられます。独立した店舗をライバルではなく地域活性化のパートナーとして位置付けているからこそ、このような協力関係が築けるのでしょう。

野口さんは現在ホテルやレストランのコンサルにも力を入れています。さらに若手育成のため千葉県の教育委員も務めています。もちろん地域活性化の取り組みも素晴らしいものがあります。
その中の一つが、「飲食店同士だけでなく、一般の人にも販売できるようなコンセプトのお店」です。レストランとして料理を提供するだけでなく、素材やメニューまで販売するお店。そのような店舗を作りたいとのことです。
実は私、この取材の後に野口さんとお話する機会があったのですが、そのお話を聞いて…コロナ禍が収まったらすぐにでも木更津に行きたくなりました。

「食べるのに困らない世界を作りたい」。
野口さんは今、子ども食堂の運営に携わっています。その中で、食べることに困っている子どもが大勢いることに衝撃を受けたそうです。
「地元の木更津でもこんな豊かな時代に食べられない子供たちがいるんだと驚きました。だからお金が無くても食べるのに困らない世界を作りたい。しかしそのためにはお金が必要、ならば地域のためにもっとお金が回る仕組みを僕たちが考えていきたいです」。
そのためにも、地元木更津産の素材をもっと活用していきたい。もっと全国に広めていきたい。その想いを叶える新たな形のレストランを作るために、野口さんは今日も頑張リズム全開で突き進んでいます。

~ワクワクの食体験を提供する、食のワンダーランドの仕掛け人~ 澤田 泰広さん



一見するとコワモテ? でもお話すると凄く優しいお兄さん。そんな澤田さんはイタリアンレストランや焼き肉店での修行を経て、2014年に「炭火ホルモン焼のネバーランド」を戸越銀座商店街にオープンしました。以来焼肉店を中心に、様々なワクワクの食体験を提供しています。
澤田さんの魅力はその行動力。「戸越銀座にワイワイできる店が少ないよね?」「じゃあ作っちゃおう!」 とスナックを作ってしまうその行動力。ナマケモノの私にはとても真似できません…。
新型コロナウイルス感染症が拡大してからはイチ早くデリバリー事業に力を入れたことで、特にサラダメニューを中心にデリバリーを行う「サラダが主役」がヒットしました。肉からサラダへの華麗な転身。ここでも澤田さんが培ってきた嗅覚が光ります。

2019年オープン「NE 酒 LAND 宴」

     

澤田さんも飲食を通じて地域活性化を図りたいという強い想いを抱いています。SDGsの取り組みにも積極的ですが、SDGsに取り組み始めた頃には「肉屋はSDGsに取り組むことなんかできないんじゃない?」と周りから言われたことがあったそうです。
ですが澤田さんは「こんな簡単なことをやるだけでもSDGsの取り組みなんだよ」と周りに伝えています。例えば洗剤や紙を環境に良いものに変えたり、節約したり。「こんな簡単なことでもSDGsの取り組みなんだよ」と伝えることで、SDGsという言葉に対するアレルギーを抑えることができるのです。
SDGsは抽象的なので、どうしても納得感というか「自分ゴト」にすることが難しいです。だからまずはやってみる。それが例え「世界共通の課題を解決する」ことにつながらなくても、身の回りの課題が解決されれば立派なSDGsです。

「今後SDGに取り組むことが必須な時代になるからこそ、飲食業界でも取り組みを普及させていきたい」と澤田さんは考えています。例えば自身の会社ではフードマイレージ(食料の輸送距離)の短縮やフードロスの削減などを実施し、飲食業界だからこそ取り組むべきSDGsのゴールがあることを積極的に伝えていく姿勢を明確にするそうです。
私もフードロスは本当にもったいないと思います。回転寿司でネタだけ食べてシャリを残すといったニュースが流れた時、日本という国の豊かさともったいなさが非常によく表れていると感じました。「残すなら頼むな。頼むなら感謝しながら全て食え。」が信条の私は、飲み会でも周りに完食するよう迫ります。その時だけは鬼軍曹のようになります。

澤田さんはもちろん地域活性化の視点も見据えています。これまでにも地域にないお店を作ることで、地域への貢献を果たしてきました。では次の一手は何ですか? と伺ったところ、「地域の○○を残していきたいですね」という回答を頂きました。さて、○○とは? …残念ながらここではまだお話できません(笑)。

しかし澤田さんが考えるこの事業プランは、「実現したら飲食業界の基準が変わる」と断言できるぐらい面白く、そして壮大なプランでした。常に新しいことにチャレンジし、「食を通じたワクワク」を提供するスペシャリスト。でも、そのようなワクワクを考える時の澤田さんがきっと一番ワクワクしているのではないでしょうか。

~新たなパートナーシップが生まれるSDGs交流スペースの「古木空間」~


さて、今回私と野口さん・澤田さんは、たまたま山翠舎さんのSDGs交流スペースを通じて対面を果たしました。その時野口さんと澤田さんもお互い初対面だったようですが、その中でお二人の価値観がとても似ていることに驚いていました

「木は人を集める性質があると思っています。木があるだけでその空間が気持ち良くなるし、毎日いても飽きない。古木の空間も派手さはないけど、とても気持ちがいいですね。料理も本当に美味しいものは派手な演出なんかいらない。それよりも芯にあるもの、本質的なものを大事にしなきゃいけないんです」と野口さん。なるほど、確かにSDGs交流スペースのイベントでも毎回穏やかな時間が流れ、そして「いい人」が集まってきます。
そのご縁をもとに、またSDGsを通じた「パートナーシップ」をもとに、新たな事業や取り組みが始まるでしょう。それもまた「古木」の良さかもしれません。

この記事のライター WRITER

岡本洋平

SMEビジネスコンサルティング合同会社 代表社員 株式会社戦略デザインラボ 代表取締役 中小企業診断士 岡本 洋平