南町田グランベリーパークインタビュー前編

インタビュー
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自然とにぎわいが融合したまちとは?

この場所は商業施設のグランベリーモールが2000年に10年限定の暫定施設として開設されました。(※実際は2017年まで営業が継続) その地で新に、東急と町田市の共同によるプロジェクトの一環で商業施設や公園、住宅や駅前広場などの再開発として、町田市、東急株式会社、東急電鉄株式会社が連携・協同し、2019年11月に「南町田グランベリーパーク」がオープンしました。 市民の方もワークショップなどで積極的に意見をだして街づくりに参加し、 一緒に考えながら作りだしてきた街はどんな特徴を持っているのでしょうか? グランベリーパークの副総支配人 小川卓男様と東急株式会社 沿線開発事業部町田市担当久家あかね様にお話をうかがいました。

街を活性化させるための拠点づくり

山上:南町田グランベリーパークがオープンして1年経ちますが、通常の商業施設としての役割だけでなく、街全体の活性化を目指し様々な取り組みをしているとお聞きしました。
元々住んでいる高齢の方にも住みやすく、これからの若い世代が住みたいと思うような街づくりをどのように行っているのか教えてください。
小川:これから高齢化社会に向かっていくというのは町田市だけの課題ではないんですよね。今回、当社としては南町田では商業施設の開発を行いましたが、東急沿線としてみた時にも将来的には、高齢化が進み、人口が減少していく中で、どう沿線を活性化していくか、街を活性化していくかという点は非常に大きな課題として意識してきました。町田市さまもそういった課題を持たれていました。
町田市には、町田駅周辺エリアに次ぐ拠点、副次核として南町田エリアをしっかりと整備をしていきたいという思いがまず前提としてありました。
我々も南町田の駅前にグランベリーモールという商業施設を10年の暫定事業としてスタートしてから、このエリアを今後、どのように活性化していくかということを継続的に検討してきましたので、同じ課題意識を持っていたことから、今回、まちづくりという大きな視点で町田市さまと共同でプロジェクトを進めることになりました。
一つの副次核として南町田を整備することは、このエリアの魅力や利便性が高まりますので、それが大きなきっかけとなって、住み替えにも繋がってくると考えています。
南町田に拠点となる場所ができることによって、近隣の方も引き続き住み続けていただくことにつながりますし、また、その周辺、さらには東急沿線外に住んでいる方からもこの場所に興味を持って頂き、初めてこの街に住んでみたいという思いにもつながってくると思います。
しっかりとした拠点をこの場所に作り、南町田だけではなく、その周辺エリアの活性化のきっかけを生み出すことも、このプロジェクトの大きな位置づけとしてあったと考えております。

山上:そこのお話を深堀させていただきたいのですが、東急さんとしてはこういったものがこれから沢山できていくなかでの一大プロジェクトという位置づけなのでしょうか?
小川:こういったものが沢山出来て来るというよりは、元々そのような拠点を計画的につくってきた中で、今回、南町田のまちづくりを推進しました。
例えば、沿線ではちょうど真ん中あたりにありますが、まずたまプラーザに拠点を整備いたしました。その後に、都心とたまプラーザの中間地点になりますが、二子玉川を沿線の拠点として整備をしています。計画的に拠点をしっかり整備していった中で、今回は沿線最深部における活性化を目指す中での南町田の拠点化のプロジェクトになります。

行政と取り組み住みやすい街を目指して


山上:今回南町田の社会的な問題解決の中で、行政の方と東急さんで目的が合致したからあるという風に認識してよいでしょうか?他の地域に関しても同様なのですか?
小川:必ずしも大きな取り組みがすべてということではないと思うんですね。その場所その場所に応じた課題の解決のあり方があると考えています。
たまプラーザ、二子玉川、南町田では大規模な開発を行いましたが、必ずしもハードを整備することが解決の方法の全てではないと考えています。ソフトの部分も含め行政と共に連携して取り組むことによって、より住みやすい環境を整えていくことができるのではないかと考えています。
山上:なるほど。二子玉川の昔は何もないところだった時代から、1980年代急速に発展して、そしてさらに、新しい時代になり、今後、行政の力も加わることで、どのように発展していくのかとても楽しみにしております。
今後、移住を考えている若い世代のご家族や、もともと戸建てに住んでいる高齢の方に向けた住宅のプロジェクトはあるのでしょうか?
久家:東急の特に田園都市線沿線は、おっしゃっていただいたように宅地開発と沿線の敷設を一緒に進めてきました。このエリアも1970年代の土地区画整理事業によって、郊外の戸建住宅地として開発された街となります。
このような郊外の戸建て住宅地は、住まわれてる方の年代も割と似通っていることもあり、今後ちょっと駅から歩いたり距離が遠い郊外の戸建住宅をどうしていくかという課題もありました。
今回、南町田グランベリーパークと呼んでいるまちには、大きく商業施設と公園、その間に位置するパークライフ・サイトというエリアがあるのですが、駅前にこれから住宅を創るという計画はすでに公表もされているんですね。
計画している住宅は、まさに駅直結のマンションタイプです。当社の狙いとしては、たまプラーザでも次世代郊外街づくりとして取り組んでいるのですが、今まで戸建住宅に住まわれていた方に駅近のマンションに住み替えていただくことも想定しています。
駅近くで、便利ですので、例えば子育ても終わって高齢の夫婦お二人だけのご家族が引っ越したり、逆にその空いた戸建住宅の方をちょっと駅からは遠いかもしれないですけれども子育てをこれからする世帯に、どんどん住み渡していくというようなサイクルを南町田エリアだけではなく、沿線でやっているので、そのような流れがこの街で生まれるといいのかなというような考えはあります。必ずしもご高齢のご夫婦の転居に縛るということではなく、やはり駅近の利便性が良いところですし、これだけ公園も近いので、幅広い世代の方に住んで頂けるような住宅の計画を今進めている段階ではあります。

(提供元:東急)                        © Peanuts Worldwide LLC
(提供元:東急)                        © Peanuts Worldwide LLC

公園と一体化することのメリット・デメリット

山上:公園と街の一体化のメリット・デメリット、公園管理の大変さなどについてはいかがですか?
小川:公園と街の一体化は商業施設も含めてということになると思いますが、分かりやすいメリットとしては、いままで商業施設はお買い物をする場、公園はどちらかというと地元の方がいつもの時間を過ごす場というイメージがあったと思いますが、一体になることによって、双方の楽しみ方が広かったという点が大きなメリットだと思います。
地元の方が利用しやすい公園というのも公園の機能としては素晴らしく、大事なことだと思いますが、南町田グランベリーパークでは、商業施設に出店しているアウトドア等のお店と連携して公園でイベントも行っていて、そのイベントでの体験を通じて、いつもの公園では気付くことができない公園の楽しみ方、公園の使い方に触れることができます。また公園での体験が商業施設でお買い物をするきっかけにもなっています。公園、商業施設を含めて、街全体の楽しみ方がより広がったというところを一体化したことのメリットとして日々感じています。

山上:もう少しお尋ねしたいのですが、公園とこういうショッピングモールが一体化された場所はそんなにないですよね?とても画期的ですよね。私も2歳半の子供がいて週末公園にいきますが、公園に行っても、近くのコンビニでジュースを買うとか、大きいところならピクニックでお弁当を用意していくので、有料の公園は別として、通常の公園はお金を落とすところがほとんど付いていないですよね。人があれだけいても売り上げが上がっていないところが、もったいないなと思っていました。人が動くイコールお金を使うということになるので、この取り組みは素晴らしいなと思っております。やはりそういう観点でも考えていらっしゃるのでしょうか?
小川:相乗効果は非常に大きいと思います。人の動きが大きい場は、それだけ事業の機会も増えると考えています。分かりやすいところでは公園では自動販売機が設置されていますが、人が多く動けばそれだけ利用頂く機会も増えます。人が集まる場があれば、そこに魅力を感じ商業施設に出店したいと考えるお店は増えますし、人が集まる公園となれば、鶴間公園でこういったプロモーションをしてみたいと考える企業等も出てくるのではないかと思います。人が動く環境を創出することでそういった循環が生まれてくるのではないかと思っております。
山上:そういった意味でも画期的ですね。蔦屋の代官山のお話を思い出しました。代官山蔦屋も、公式駐車場と周辺の少し安い駐車場と、色々な利用者、金額体系を考えてあそこを考えたって話を聞いたことがありまして、その大きいバージョンのようなイメージですね。
小川:代官山T-SITEは世代を限っていないと思うんですよね。どのような方にとっても居心地の良い場所を目指しているという意味では非常に参考になる施設だと思いました。
山上:お金のある方はスターバックスの高級な席で、普通の人はスターバックス、お金のない人はファミリーマートの飲み物をベンチで飲めばいいという設計になっているというのを聞いたときになるほどな、と思いました。
小川:そうですね。グランベリーパークも地元の方が楽しめる場所、お子様が楽しめる場所、家族連れの方が楽しめる場所、高齢者の方も楽しめる場所等、あらゆる世代の方が楽しむことができる場所を施設の中に計画していきましたので、まさに同じような考え方だと思います。

シームレスにつながる街と施設について

山上:元々あった道路を廃して、公園と商業施設をシームレスな空間にしたとのことですが、遊歩道などでとても自然につなげてありますね。また、駅とのつながりもスムーズにできていますが、工夫した点などについてお話をいただけますでしょうか?
久家:そうですね。まさに今回の整備で最も重きを置いたのが、物理的に公園と商業をつなぐことによるまちの回遊性です。それは公園と商業施設の間だけではなく、周辺の住宅地に向かっても駅から安全でバリアフリーな導線をつなげていくということをすごく重視して元々計画をしていたので、そこを体感して頂けたのはうれしい限りです。
公園と商業施設をハード的につなげることに対しては、反対意見も結構ありました。公園は公園としてそっとしておいて欲しいという意見もあったのですが、やはり繋げることによってそのままの流れで公園まで安全に行けるところと、視覚的にもつながっているので、そういったところが一体となったところの魅力として皆さんに感じていただける部分なのかなとは思っていますね。
駅から周辺住宅地までつながっていく導線の整備にあたって、異なる所有者の敷地に跨るのですが、それを整理するための共同事業体をつくったわけではなく、町田市と当社(東急株式会社)、ならびに当社鉄道部門(東急電鉄株式会社)各々が属地の中で、「商業施設は駅に向かってこういう導線が繋がるようにつくるので、駅側はその導線がシームレスに繋がるような計画にしましょう」みたいな所をすごく細やかに全部調整していたので、無事に繋がったのでよかったと思いますね。
山上:私は思いつかないんですけど、差支えない範囲でお尋ねしたいのですが、先ほどの反対意見とはどんな事がありましたか?
久家:そうですね、もともと公園と商業施設で土地の高低差が結構あり、そこを繋げるとなるとある程度の盛土や切土といった土木の工事が発生するのですが、それによって何が起こるかというと公園の樹木をどうしても一部、伐採しなければならないというところが一番大きな反対な理由としてはありましたね。
鶴間公園の里山林は地元の方がとても大切に育ててきたものだったので。
山上:移動するなどは?
久家:植替えも検討しましたが、どうしても切らなければいけないものもありました。40年経っており、樹種によっては安全面でも切ったほうがいい場合ももちろんあったんですけれども、木を切る=公園の方にも開発を広げてくるイメージを当初はもたれている方もいらっしゃいました。
山上:なるほど、そういう感情の部分でのことだったんですね。先ほど公園側も見てきましたが、明るくて開けているので、夜道でも安心して歩けるなという印象がありました。大きい公園は木がうっそうとしているイメージがあったので…
久家:まさにもともとはすごくうっそうとしてましたね。怖いくらい。
小川:やはり、久家からお話がありましたが、昔からこの場所に住んでいる方にとっては、本当に子供の頃から遊んでいる場所になりますので、自然のうっそうとした木々であってもその一つ一つの姿が一つの思い出や愛着のある風景なんですね。ただ、最近では周辺にマンションもでき始めて、若いファミリーの方々も住むようになって、若い方からすると、それが逆に怖いと感じることもあるようでした。そういう思いを地域の中で共有しながら、開業するまで約4年間、地域の方々、そして町田市さんとワークショップを重ね、鶴間公園を新たな魅力ある場所として整備していくための意見交換を進めてきました。

ワークショップでつながる世代や想い

そのワークショップには若い世代の方から、昔から住んでいる世代の方まで幅広い世代の方に参加いただいていたのですが、その中では、やはり自分達はこう思っていたけど、若い世代はこう思っていたのかと、違った世代でそれぞれの認識が共有されていく中で、いままで大切にしてきた木は全て残すという結論ではなく、いいものは残しながらもやっぱり新しい世代の方のことも考えて、ここで変えて行く必要があるんだよねという共通認識に変わっていったのはそういった、木を軸として話し合いができたり、さまざまなワークショップで共通の体験をしたことが大きいのではないかと思っています。
山上:ワークショップは合計何回ぐらいされたんでしょうか?
久家:1年のワークショップが4・5回とかなので、それを5年とかなんで、20回とかですよね。
山上:どんな内容があったんでしょうか?
久家:フェーズを分けていて、最初はまずはその公園を知るところから始めて、講師の方に来ていただいて、講演をしていただきました。
その後、夜の公園がどれくらい暗いのか、みんなで照明を持って歩いてみたり、その当時の公園を知るところから始めて、次の年は‟公園にこういうものがあったらいいな“というアイデアを出したりしました。その翌年から公園が変わったらこういうことをやりたいというアイデアを出して、
11月に市民の方に自分で企画したものを実行していただきました。例えば、「紙芝居をやりたい」や「音楽の演奏したい」といったアイデアを実現する会ですね。「がっこう祭」と呼んでるんですけど、そういう「がっこう祭」というのを公園でやって、次の年は、それを「まちのがっこう祭」という形で開催しました。
実際は公園でやることが多いのですが、必ずしも公園に限らずに“まちが生まれ変わった後に自分だったらこう関わりたい”ということを企画して、準備期間としてワークショップで計画を詰めて、1年間のワークショップの集大成としてがっこう祭でそれを実現します。
ちょうど一昨日、まちびらき後のがっこう祭がありました。今までは町田市が中心になって企画していたのですが、が今年は公園の指定管理者が中心となって開催しました。市民の方々が「これやりたい」ということを集めて実行し、
マルシェをやったり歌を歌ってくださったり、ダンスを踊ってくださったりだとか本当に色々でした。
山上:ワークショップ自体の設計も肝じゃないですか?
久家・小川:そうですよね。
小川:かなり議論してやっていましたよね。
久家:最初は要望ばかりが来てしまって。そうではなく、自分たちのモチベーション次第で変わることや、意見や要望を自分たちの行動で実現することをどのようにすれば、実感としてもっていただけるかを考えました。今年出展された方は、去年も出てた方がほとんどで、そういうところが育って、つながっているのは、まさに目指してたところです。よくまちづくりって事業者側が一方的にやるイメージもあるんですけど、やっぱり育てていくのは市民の方だったりこの街にこれから関わってくる方々が中心なので。
そういう風土づくりとしてはすごくいい方法だったと思います。
そう考えると…ワークショップの設計はすごい良かったんだなって今になって思っております。
小川・久家:(笑)

後編につづく

「住みたい、訪れたい、活動したい街の実現ー新たな郊外の魅力発信」 この基本方針・目標により多世代がいきいきと暮らし、魅力あふれる持続可能なまちを次世代へとつなげていきます。 ※南町田拠点創出まちづくりプロジェクトホームページより ■古民家や古木も同様で、ただ住んでいるだけでは長く利用することも持続することもできません。 住む人が大切に管理し、手をかけることで、次の世代へ受け継ぐことができます。大きな街でも住む人達の想いがなければ、次世代へ継ぐことができないのだなと、感じました。 様々な年代の住んでいる人やこれから住む人、企業や行政が一緒に賑わいの街を作っていく取り組みはとても素敵だなと思いました。

取り組みは様々な賞も受賞されています。 とても居心地の良い空間なので、ぜひ一度、お立ち寄りいただければと思います! 様々な年代が楽しめる空間です。 ■都市景観大賞 「都市空間部門」にて対象にあたる国土交通大臣賞・受賞 ・既存のまちの構造を全面的に見直し、官民一体となって創り上げたシームレスなまち ・商業施設と都市公園の間に設けたコミュニティ拠点「パークライフ・サイト」 ・巧みな駐車場配棟計画により、回遊型オープンモールとした商業施設 ■国際的な環境認証制度、「LEED ND(まちづくり部門)」にて下記取り組みがゴールド認証を取得しているそうです。 ・歩行者ネットワークの整備による、自然と賑わいを感じながら回遊できるウオーカブルなまちづくり ・グリーンインフラを生かしたランドスケープ ※南町田拠点創出まちづくりプロジェクトホームページより

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