丸山珈琲 コーヒーでサスティナブルとイノベーションを【後編】

インタビュー
公開
1368 Views

丸山珈琲が世界で見つけたものは?

前半から引きつづき、設立と創業時の想いをお話しいただいています。
コーヒーの世界では「セカンドウエーブ」から「サードウエーブ」へ移行し、新しい時代が始まる中で、実際の取引現場や農場に赴き様々な刺激を吸収し、
心から美味しいと思えるものを探し出す丸山珈琲。
生産者とのコミュニケーションを大切にし、家族同様のお付き合いをするからこそ、信頼が生まれ、良い豆を買い付けることができます。
人とのつながりの中からイノベーションを作り出し、消費者にもさまざまな新しい発見を提供してくれます。

カップオブエクセレンスの始まりとスペシャルティーコーヒーとの出会い

山上:軽井沢で喫茶店を始めて、コーヒー豆を現地に買い付けに行くまでの経緯を教えてください。
丸山:91年からコーヒー屋を初めて、すぐに問屋から仕入れて自分で焙煎をしていました。当時は自分では簡単に産地にいけませんでした。コーヒー会社でティスターの方でも一生に1回産地に行けたら幸せといわれていた時代で今とは全然感覚が違う。
コーヒーの産地の本を作ろうと思ったとして、産地のカラー写真を手に入れようとしてもない。現地の駐在員に頼んでも送ってこない。ちょっと想像つかないですよね。
コミュニケーションだってテレックスとかファックスでしたからね。今はメールで全部やりますけど。そんな中で産地に行くなんてあり得ないことだったんですね。
僕が焙煎にこだわり始めて10年くらい経った2000年頃は焙煎すればなんでも美味くなると思っていたけど、やっぱり素材が大切だということに当然ながら気が付くわけですよ。焙煎でありとあらゆることをやったけど、結局ここまでの材料だったらこれ以上はいかないという当たり前のことに気が付いて材料に興味を抱き始めました。
その時に、ちょうど世界的な動きの中で良いコーヒーを品評会で選ぶ流れができてきていたんですね。
それが1999年から始まったカップオブエクセレンス(以下COE)という品評会です。
COEの面白いところは、
いろんな国でその国のトップ10やトップ30を決めるんですけど、品評会を実施した後にそれをオークションにかけるんですね。そこで世界中のコーヒー会社が落札する流れができて。ちょうど僕が悩んでいた頃なんです。「そうか、本当に美味しいコーヒーを手に入れたかったら、品評会やオークションがあるんだ」と。そこで買えばいいことに気が付いて。ただ、今は9店舗ありますけどあの当時は1店舗しかないですし、売り上げも年商1000万円いってなかったんじゃないかな?
もう本当に「店」でしたから。
だから全国の情報交換していた小規模のコーヒー屋さんと仲間になって、
共同買付けをしようというところから始まって。どうも、スペシャルティコーヒーという面白い素材の話が出てきているらしいということがインターネットを見るとわかるし、そういう協会がアメリカにも、ヨーロッパにもあると分って。アメリカで年に1度行われる展示会が
世界で一番大きいスペシャルティコーヒーの展示会だということを聞いたので行ったんです。その仲間内で英語ができたのが僕だけで、未開のところに行く度胸だけはあったので。その時も仲間と夜な夜なメーリングリストでやり取りしていたんですけど、いろんな議論の時に、「じゃあ今回は様子見にアメリカに最初一人で行ってみます」って書いたら、ちょっと待ったみたいな話になって。
健ちゃんだけ一人で行かせるわけにはいかないということで、10数人で行くことになってみんな英語ができないから、僕が飛行機の予約から展示会、セミナーの予約まで全部やりました(笑)

カップオブエクセレンス、スペシャルティーコーヒーとは

〇カップオブエクセレンスとは国際的なコーヒーの品評会です。 「COE」とも呼ばれています。高品質な豆を見出し、生産者の経済自立を促進するための国際プロジェクトです。 〇スペシャルティーコーヒーとは 高品質なコーヒーで「国・地域・協同組合・農園・マイクロロット」まで明快なトレーサビリティで扱われるコーヒーです。 〇シングルオリジンとは 生産者、農場、豆の種類などがわかる単一銘柄のコーヒー。トレーサビリティに優れています。 〇ストレートコーヒー 原産国のある地域ごとに分けてあるコーヒーです。

2000年ごろのコーヒーの生産者の状況ととサスティナビリティ

山上:(笑)
丸山:その時にアメリカの協会のカンファレンスに参加しようと、アメリカで有名なピーツコーヒー&ティ社という会社があって、そこの工場に行くとか、全部自分がプランニングしてメールのやり取りもしました。当時はアメリカンコーヒーってみんなが馬鹿にしていた時代なんですね。行ったら、日本は何にも知らないんだとびっくりしました。素晴らしくて。2000年ですよ、2000年の時のカンファレンスのテーマがサスティナビリティですよ。
山上:おー
丸山:びっくりしました。あの当時サスティナビリティって言っても、「持続可能な」としかでてこないんですよ。意味がよくわからない。後でそのカンファレンスの立案者とかにいろいろ聞いたら、いやいや、僕たちもわからなかったと。だけどこの方向性で合っているというのは直観で感じたからサスティナビリティにしたんだといわれたんです。これには背景がありまして、ちょうど99年・2000年・2001年頃ってコーヒーの価格は石油みたいに国際相場があって、すごく暴落したんですよ。生産者がいくら作っても赤字という本当にひどい時代だったんです。農家がコーヒーを栽培するのをあきらめることが続発するような時代だったので、サスティナビリティ。どうやったら生産者もコーヒー関係者も、ロースターもうまくいく仕組みが作れるかということを真剣に話していたんです。
その時に僕たちはおのぼりさんで行って。僕なんて軽井沢の片田舎で焙煎の腕だけ良くって、日本で一番コーヒーが美味しいんだって思いこんでいるときに、生産者の現状を分科会で議論しているわけですよ。その時に僕は32歳ですけど明らかに僕より若い、おそらく20代のアメリカのお兄ちゃんが、こんなに価格が暴落して消費国側は喜んでいるけど、これ、サスティナブルじゃないだろうって。生産者、作る意欲をなくしているじゃないかって議論しているわけですよ。僕は本当に井の中の蛙だなって、ショックを受けました。

ショックを受けて帰りの飛行機で事業計画書を練り直す

丸山:そうは言っても材料を探しに行ったので良いコーヒーを扱いたいわけです。その時にどうしたら良いか、生産者にいろいろ聞きました。その時にブラジルのトップの生産者が集まるパーティーがあったんですよ。マイアミの海できちんとした客船を借り切って、上得意を乗せて遊覧してパーティーをやるわけですよ。それには有名なコーヒー会社の人が集まるんですけど、僕に関して言うと、メジャーリーガーの集まりにいきなり高校野球の人が行ったみたいな感じでした。「え?あの人はスターバックスの買い付け担当者、この人はillyの社長、この人はブラジルの有名な…」といった感じで。僕は紹介してくださった人がいて入れたんですが、当時スーツなんかちゃんと持ってなかったから、長野県佐久市の駅前にあるAOKIに行って、「マイアミの船上パーティーに出るんで、それに合った服をこさえてください」って。「そうですか!」って見立ててもらって行きました(笑)
 ブラジルにイパネマ農園という有名な大農園があるんです。そこのオーナーの農園ゲストハウスに泊まらせてもらいました。太陽は農園の中から上がり、農園の中へ沈んで、見渡す限りコーヒーというところなんですけど、その方に会って感動して。実はイパネマ農園のコーヒー豆を問屋さんから買って自分の店で使っていたんです。どのくらい使っていたかというと、月に一俵。なので、オーナーさんに「買っています!」って話したら「おー、そうか!どれぐらい買ってくれているんだ?」って。「12ぐらいですかね」と伝えて。要するに向こうは商社から買ってくれていると思っていて、「12コンテナか!」「いえ、12バッグです」って。そうしたらもう、坊やーみたいな感じで70歳くらいのおじいちゃんが「それはね、買っているという言い方はちがうかな」って(笑)
山上:(笑)
丸山:あと、ある有名なフランスとアメリカのコーヒー会社の人がいて、アメリカ人がエスプレッソに使う豆を悩んでいたんですよ。「なかなか良いエスプレッソ用のブラジルが見つからないんだ」って言ったら、「それだったらウチが使っているところを紹介してあげるよ」って僕の目の前でそのやりとりがあって。とても有名な農園主を連れてきて、「ジョージがさ、エスプレッソ用のブラジルを探しているんだって」って。それで「ウチは絶対いいものありますから、じゃあ今度サンプル送りますよ」って、即決で決まるんですよ。トップ同士で話し合うから‥‥要するに社交界ですよね。
「この仲間に入って、このクラスの人達に仲間と思ってもらわないといいものが手に入らないんだな」ということが分かったのと、「量を買わないと買っていると思ってもらえないんだな」とショックを受けまして。帰りの飛行機の中で仲間たちが、寝ている中で一生懸命事業計画を書きました。量を捌かなきゃいけないし、どう売るかということと、どうやってあの人たちの仲間として見なしてもらえるかをひたすら考えました。

山上:で、こう店舗展開が始まったと
丸山:そうですね。そこからまず最初に考えたのは品評会の後のオークションで上位を落札することやって名前を売ろうと。COEが今まで60何回行われていますけど、一番1位を落札しているのはうちなんですよ。わかりやすく1位を落札したり、こういうところで出会った産地の生産者には必ず会いに行くようにして関係性を作っていく。まずオークションで落札することによってあちらも感動しますから。ぜひ来てくれという話になって。ただ、生産者からしてみれば、品評会に出すような豆は本当にトップの数パーセントのもので、十分おいしいスペシャルティコーヒーがその下にはいっぱいあるわけですよ。彼らとしては、それもぜひ買ってほしいという考えです。

山上:だけど、捌かなきゃいけないじゃないですか。
丸山:そうですね。マーケティングはすごく勉強しました。産地に行って何をしているかなんですが、よく農業指導をしているんですか?と訊かれるんですけど、そういう時期もありましたが、今はもう生産者はネットで情報交換しているわけですよ。農業的なプラクティスもプロ同士がfacebookにあげたりすると、昨日アフリカの片隅で実験されたことを翌週には中米の人がやっているんです。そこには、僕なんかが出る幕はなくて。彼らはどんどんイノベーションしていくので僕が何をしているかというと、必ず農園に行って一緒に彼らと農園を回って、一緒にご飯食べると。営業ですね。実は農園の品質が下がる理由は家族問題が多くて、今まで上手くいっていたお父さんと息子がお嫁さんがきてから仲悪くなったとか、あるんですよ。あと、跡継ぎが飲んべえだとか、旦那が逃げたとか、息子がぐれたとか。それで、大体おかしくなるんですよね。

山上:そこでマインドフルネスが生かされるわけですね。(笑)
丸山:そうです(笑)農業どころじゃなくなっちゃうんですよね。そういう問題がないかをみたり、彼らにこれからもずっと買っていくよ、ということを訪問してみせることによって、彼らは安心してコーヒー豆を作れるんですね。僕のバイヤーとしての仕事はモチベーション屋。
山上:社員との関係にも応用できますね。
丸山:そうですね。
山上:ひと昔前、SNSがなかった時代は何を教えていたんですか?
丸山:教えていたというか、そうは言っても彼らはプロだから当然現地にはそういう技術的な専門の会社や肥料や検査会社もあるし、そういうプラクティスそのものはもちろん彼らの方が上でしたけど、他の国のことは知らないわけですよ。アフリカではこうやっているよとか、南米では、中米でのやり方を話したり。あとはいろんな実験をしてもらって、それに対するフィードバックをすることで、彼らがPDCAを回せるようにしていくと、品質向上できるようにさせるというのが、当時のバイヤーの仕事ですね。
山上:ひと昔前の呉服屋さんの動きに似てるかもしれませんね。
昔呉服屋さんて、その家に入り込める貴重な方なんですよね。
着物を仕立てる人との情報を聞いてその情報を誰かに伝えるって役割してたらしいです。そこにしかない情報ってありますよね。SNSには絶対流れないような情報を得ることができるポジションなのかな?と思いました。

コーヒー豆の生産者、農園、味の特徴、販売期間がわかる。さらに詳しい情報はWEBでも紹介しているので、コーヒー生産者が身近に感じられるのが嬉しい。

SNSには乗らない情報で戦略を立てる

丸山:あと、なんでそんなに買い付けに行くのかという話ですが、リサーチ活動でもあるんですよ。競合の情報が入るんです。
山上:なるほど。
丸山:農園行くと、どこの人が今度東京に店を出すらしいよ、どこの会社がパリに出すらしいよとか。どこの会社はどうも会社を売りたがっているとか、全部農家のところに情報が転がっているんですよ。農園の人が秘密を教えようとしているのではなく、ご飯を食べているときの話から急に「そういえばね」って話です。情報はゲットできますね。
山上:ちなみに情報をゲットした中で何か生かせた事例でしゃべられる範囲でお聞きできますか?
丸山:例えば西麻布店は、実は急いで作ったんです。なぜかというと、本当は尾山台店を作った後に、イメージでは世田谷に少しずつ店を増やしていくイメージだったんです。ところが産地に行って聞いたのは有名なアメリカの企業が都心に店舗を出すという情報を聞いたんですよ。
山上:清澄白河?でしたよね?
丸山:そうです。ただ、あの当時は清澄白河かどうかも決まってなくて、とにかく東京に店舗を出すつもりだという情報をおそらくどこよりも早く聞いてしまったんですよ。その時に、当然そのアメリカの企業が東京に来たら注目されるのがわかっていたので、丸山珈琲が都心に出すタイミングによっては、「それって外資のスタイルでしょ?丸山珈琲はそれを真似しているんだよね」と言われちゃうと思ったので、予定を変えて都心に出そうと思いました。
山上:すごいですね。
丸山:それで本当は麻布十番に店舗を出すつもりだったんですよ。ところが麻布十番の家賃が高くて。それでその当時不動産屋に連れて来られたのが、西麻布なんです。今は高くなっちゃいましたけど、当時は、尾山台より坪単価が安かったんです。悩んだんですけど、冷静に考えると外苑西通り車も止められるし、豆の販売で言えば周りに高級マンションがいっぱいあるし、いいかなと考えました。麻布十番が軽井沢だとすると、こっちは中軽井沢かなと思って(笑)それで、決めたのがここなんです。
山上:アメリカのあの企業、あの時の、そうだったんだ。と思うとすごいなんか…やはり世の中情報ですね。言われてみれば全然イメージ違いますよね。
丸山:日本人はやっぱり同じことをやったら外資の方が上だと思うんで。外国のブランド大好きじゃないですか。 
だから、ちょっと先にやるとか、上じゃないとまず、同じに見てもらえないんですよ。
山上:なるほど、勉強になります。

国内のコーヒー関連企業とのつながりは?

山上:日本でのコーヒー業界の繋がりなどあれば差支えない範囲でお聞かせください。
丸山:コーヒーの生の原料を有名なコーヒー店や、いろんな会社様にも卸させていただいています。カフェとか豆を売っている焙煎業者だけと考えたら皆さん競合するんですけど、逆に言うとうちの場合は材料を使っていただいているから、競合だけど、栄えていただくとHappyなんですよ。
山上:素晴らしい。だからここがそういい場所ですよね。
丸山:そうです。表に立ってブイブイ言わせるよりも、まぁマフィアになると(笑)
山上:(笑)ゴットファーザー好きですか?
丸山:(笑)上になるには差別化である程度まで行くと思うんですけど、うちがぶつかった壁というのは差別化するところまで行っちゃっていて。あともう一つはマーケットが、本当のトップの世界って、伸びるのが時間かかるんですよね。
山上:伸びる?
丸山:つまり、良いコーヒーを1杯¥1500で出したときにそれが本当にわかる人ってすごく少ないんです。
これは堀江貴文さんが発言されていたんですけど、東京にもいろんなフーディーがいるじゃないですか、レストランで食べて気に入ったらすぐ毎月予約入れちゃって行けなかったら、友達送るみたいな。毎日平均で5-6万使える人ってどのくらいいるだろうって。
多分、東京に2000人じゃないかと。なんとなくそれは分かる感じがして。
山上:2000人。
丸山:2000人。絶妙な数字だなぁと思って。意外と大きな会社の社長とかって自由にお金を使えなかったりするので。でも、個人的にやっている弁護士さんやお医者さんとか、それぐらいなのかなぁって。じゃあ一杯¥1,000以上のコーヒーの品種や作り方などを分かって、何を自分たちが飲んでいるか付加価値をきちんと理解して、それにお金を払う人ってコーヒーだと多分100人から200人だと思うんです。
山上:2000からさらに一割…
丸山:すごく少ないです。それをきちんと意識したのは表参道店でした。もう閉めてしまいましたけど。表参道店でシングルオリジンやったときに、やっぱり伸びました。伸びましたが、ゆっくりです。これはもう完全にワインと同じで、ワインの本当のトップの世界でも伸びるのに20年30年かけてここまで来ていますから。
僕の世代はバブル社員の最後の世代ですけど、散々ワインを飲まされた世代なんですよね。大学生の時に。だけど、あの時にみんなが言っていたのは、「丸山、赤ワインって知っているか?苦いんだぜ」って。あの当時、僕はお酒を飲まなかったんですが、「苦い…なんだそれ???」って。
山上:(笑)タンニンのね。
丸山:そうそうそう。「苦いんだぁーワインって…」と。
山上:ビールも苦いみたいな感じですよね。
丸山:だから、赤玉ポートワインしか知らなかったので、それが20年ぐらい経って、今は、例えば近くのスーパー行ったら普通にシャルドネがあってカベルネフランがあって、ソーヴィニヨンがあって、若い夫婦が今日はお魚だからこっちにしようかとか、そういう会話が聞けるわけじゃないですか。それで、本当にそのつもりで買って行くわけですよ。そこまでなるのに20年30年かかっているので、コーヒーはまだこれからなんですよね。だから、僕は最先端をみちゃうから興奮しちゃって、5年も10年も先のことをやっちゃっているから、そこはちょっと反省してるところです。ただ、そこは一度問題提起というか提案はできたと思うので。でもおそらくこのコロナが終わって、数年のうちにまた違う形で、もう一度違う切り口でやれることになるだろうなぁと思っています。
山上:なるほど。なるほど。私の方は古い木の可能性というのをこれから切り開こうとしていて、やっていることは14年前からまったく変わらないんですけど
世の中が、先ほどの賞を取ったりとか、追いついてきているなかですね、ワインで何十万ていうワインがあるように、そういう商品をどう作っていくか、市場をどうつくっていくかというような事を考えていて、丸山珈琲がどうなっていくかとか、マーケットを作っていくのかなどすごく興味がありますね。

コーヒーは日用飲料か?嗜好品か?

丸山:コーヒーのややこしいところは、嗜好品なのか?日用飲料なのか?ということがあって、いつも悩むんですよ。だからスタッフに伝えるメッセージも嗜好品寄りでいうこともあれば、日用飲料として話すこともあって、矛盾しているんですけど、ただ今回コロナ禍で、僕がすごく認識したのは、やっぱり大事な日常飲料だということですね。なんか日々の生活のアクセントになる。自分も非常事態宣言のときに家にいて、やっぱり楽しみはパンとチーズだったんですね(笑) 近所にある大好きなパン屋へ行ってパンを買ってくるのと、大好きなチーズ屋に行って買ってきて。コーヒー好きな人も多分同じだったと思うんですね。しかも、会議が一日に何本もある中でアクセントをつけるのがコーヒーの役割。次の会議まで10分しかないとかって言うときにササッとコーヒーを淹れたり、日常飲料としての役割がすごくわかるので、そんなに時間がないときでもやっぱりペットボトルでもコーヒー飲みたいし、あぁ、こういう気持ちなんだなというのもよくわかったので。それはちょっと分かれていくとは思うんです。
山上:なるほどね…
丸山:アッパーの方はアッパーな方でゆっくりと時間をかけていて、皆さん美味しいって言ってくださっているので。少しずつ広がってくかなって。ただ広がっていくときにコーヒーファンの人達に広がるというよりは違うクラスターの人たちが共感してくれると助かるんですよね。
山上:これはすごく共感することだと思います。
丸山:実はいろいろな方とコラボとかやっているのも、なるべくいろいろな人たちとのグループ、クラスターと化学変化が起きないかなと思ってやっているというのもありますね。
山上:なるほど。私の表現でいうと…芸術品なのか必要品なのかと同じだなって思います。
丸山:そう。そこを間違えちゃうとコーヒービジネスは結構ややこしい事になっちゃう。難しいですね。

コラボ企画はどうやって決めていますか?

山上:さきほどのお話の流れで、コラボ企画やコラボ企業は、どのように決めていらっしゃるのでしょうか?
丸山:これまでは単純に知的好奇心を引くようなことを積極的に行ってきました。それは自分たちのスタッフ向けでもあるんですよ。
気をつけないとコーヒー屋って本当に単純なルーティーンの仕事なんですよね。焙煎のような難しいことをしてなければ出勤して掃除してコーヒー抽出してお客さんに出して掃除してだけなんですよ。単純にやっても非常に儲かる商売で、今から30年ぐらい前は喫茶店がすごく儲かっていた時代があったんです。要するに水商売ですから、本当に原価がすごく安くて、あの当時は今でも、安い商売といわれていますが、その時にそこにいい人が集まるためにはやっぱりイノベーティブな部分はなきゃいけないんだけど、普通にコーヒー屋をやっているだけではイノベーションは全然ないわけで。無理にでもイノベーションを感じさせないといけない。異業種との絡みとかペアリングの無茶ぶりもいくらでもありましたし。山梨県の名物のモツ煮とコーヒーを合わせろと言われた時は無茶ぶりだなーと思ったけど、山梨のモツ煮は汁が甘かったのでその甘みのちょっとカラメルっぽい感じと合わせたりとか。結局それで勉強も自分でするし。
あと、コーヒーと音楽も親和性が高いです。最初のクラッシック音楽とのコラボ企画は5-6年前ショパンのアニバーサリーだったんですよね。その時にコーヒーを作ってくれないかって軽井沢の音楽祭で言われて。僕はクラシック好きだから、「じゃあ作ります!」って、ショパンのワルツをイメージして作ったんです。それはとても喜んでいただいて。あと、世界的に有名な女性ピアニストの方へもブレンドを作ったんですよ。

山上:!そんな有名な方に!?(笑)すごいですね。
丸山:その方のために2つブレンドを作っているんですよ。別府音楽祭の時だけ売っています。
山上:へー
丸山:それは彼女のパッション、すごく激しい部分と繊細な所の二つをブレンドしているんですけど、それを味で表現したりとか。僕、そういうのが好きなので。色んな人から面白がっていただいて。

あと教育分野にもすごく興味がありまして。去年から実践女子大学と連携授業も実施しています。実践女子大ですごく有名な企業のマーケティング出身の教授がいて、その方と何か一緒にできないかという話になったときに、昨年はうちのお店が渋谷スクランブルスクエアにできたばかりだったので、コーヒーを飲む若い女性は少ないからどうやったらお店に来てもらえるかのPRプランを学生にワークショップで考えていただきました。

グループごとにプレゼンをしていただいて、賞をあげたりしています。
山上:1回だけでなく、何回かに亘ってやる授業なんですか?
丸山:発表は2回ですけど、全体で5コマの講義です。学生同士でディスカッションしてプランニングをするんですけど、そういったことも面白いですよね。実はコーヒーってもともとそういうイノベーティブなことを話したくなるものなんですね。というのは、最初のコーヒーハウス、つまり喫茶店の発祥はイギリス・ロンドンなんですよ。東インド株式会社から船が来る。あの当時は、来る途中で座礁したり何か月も止まってしまうこともあって、みんな、保険屋のところに集まって、船の様子がどうなっているか情報収集するんです。そこで、コーヒーが出される。コーヒーを飲むとみんなおしゃべりになって、そこで結局政治的な話をしたりして。コーヒーはイノベーティブなことを話したくなるものなんです。お茶は落ち着く作用があるんですけど、コーヒーってやっぱりポジティブになるので、エナジーを喚起する部分があるのでイノベーションとは相性がいいんですよ。
丸山:TEDってあるじゃないですか
山上:TED。はい。
丸山:アメリカなんかでも、TEDにコーヒー関係者が登壇したり、プレゼンが終わった後にコーヒーバーがあって、美味しいコーヒー飲めるようになっていたりとか。コーヒーが色んな意味でのわくわくを作ることによって、お客さんもそうだし、働いているスタッフからも、俺達なんかイノベーティブなことやっているんだぜっていう…これもモチベーションですよね。
山上:最近NTTデータ副社長が、サスティナベーションというサスティナブルとイノベーションというところで本を書かれていて、丸山珈琲さんはサスティナブルな活動と環境、経済を作り出す活動をまさに地で行くような感じでされているので、トップをひた走って欲しいなと思います。
丸山:(笑)頑張ります。

山上:先ほどのコラボレーション商品についてなんですが、音やイメージをコーヒーで再現することってできるんでしょうか?

丸山:出来ます!味で表現するって言うときに、例えばわかりやすいところで言うと、今クリスマスブレンドを販売しています。クリスマスブレンドは、赤と白の2種類があるんですよ。何故かというと赤ワインと白ワインにもじって作ったんです。赤ワインって、コクがあって重くって、クリスマスで言うと肉と一緒に飲む。白は軽やかで酸があって、華やかな感じで食前に飲む。それをコーヒーで再現すればいいわけですよ。そうすると、赤ワインのようなコーヒーというのは深煎りで、苦味中心でコクがあって、白はさっぱりしていて、きれいな酸があって、酸っぱいのではなく、何杯でも行けるという。今日のコーヒーはまさに白なんですよ。
山上:はい。なるほど分かります。
丸山:まさに共感覚というというか。先ほどのピアニストのパッションを味で言うと、アグレッシブというか結構飲んでいてワーッと自己主張してくるようなコーヒーとか。ベートーベン スペシャル・ブレンドは迫力。今回コラボした指揮者の水野蒼生さんがザルツブルク・モーツァルテウム大学を首席で卒業した方なんですよ。
山上:首席で!へー。すごい。
丸山:クラシカルDJもやられていて面白い方なんですけど。昨年水野さんと一緒にベートーベンブレンドを作りました。結果的にうちは3つ作ったんですけど、1つはみんながイメージする交響曲第五や第九の迫力。あと室内楽のイメージと器楽曲っぽいものをそれぞれ作ったんですよ。
山上:クラシックファンの人は喜びそうですね。
丸山:僕たち室内楽も好きだし、後期ソナタみたいなのもいいけど、一般の人には分かりづらいよねということで、じゃあやっぱり迫力のある、コーヒーで言うとマンデリンていうインドネシアの苦味とコクがあるコーヒーがあるんですけど、それを全面に、つまりコントラバスをドンと流しましょうと。そういった感じで(笑)味を作っていくんです。
山上:それは混ぜるという…?割合を決めたり?
丸山:ブレンドです。カクテルづくりと同じです。あなたの雰囲気に合わせて、今日のお召し物とか、今日はどういうのがご希望ですか?という感じでカクテルを作るじゃないですか?それと同じ感じです。
山上:なるほど。ぜひ、また、山翠舎ブレンドを(笑)本日はありがとうございました。
※本文中では敬称を省略させていただきました。

丸山オリジナルコーヒーカステラは「軽井沢トルタ」様とのコラボ商品で、人気です。

丸山さんのコーヒーを通じて体験した様々なお話をお聞きし、ただ消費してしまっていた珈琲の価値を見直すきっかけとなりました。 生産者やバイヤーさんがどんな思いで作っているか、改めて考えたいと思いました。 「コーヒーの真実」(2006年公開)という映画で、生産者が生活が大変で靴も買えず、子供も学校にいけないんだと映像で話していいましたが、当時と現在では、どんなふうに変わったのか?知りたいなと思いました。

この記事のライター WRITER