~先義後利~中小企業にとって大切な、SDGsの本質とは

インタビュー
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「環境印刷で刷ろうぜ」

何のキャッチフレーズか、お分かりですか? 中にはピンときた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このフレーズは、2018年にジャパンSDGsアワードを受賞された株式会社大川印刷さんのWebサイトに掲載されている言葉です。大川印刷さんはいち早くノンVCインキ(環境に正しいインキ)を全印刷工程に取り入れたほか、印刷事業により排出される年間の温室効果ガス(CO2)を算定し、その全量をカーボン・オフセット(打ち消し活動)する「CO₂ゼロ印刷」に取り組んでいます。
今回は大川印刷さんの代表取締役社長である、大川哲郎さんにご対談いただきました。

大川 哲郎
株式会社大川印刷 代表取締役社長。
大学卒業後3年間、東京の印刷会社で修行後、大川印刷へ入社。
横浜青年会議所で、2002年に社会起業家の調査研究、2004年に企業の社会貢献・CSRの調査研究を行い、2005年には本業を通じて社会課題解決を行う「ソーシャルプリンティングカンパニー®」というビジョンを掲げ、現在に至る。

~大川印刷にとってのSDGsとは~

SDGsに取り組む企業なら誰もが知っている大川印刷さんですが、SDGsの概念が採択される前から社会課題解決に関わる活動や環境保護活動に取り組んできました。

しかし当初は従業員に納得させることが中々難しかった時もあり、大川社長は「人を変えることなんて出来ない。だからいかに相手と真剣に向き合うかが重要です」と述べています。

それぞれ経験も違うから感覚も違う、だからこそ個々の経験にともなう課題や希望をしっかり把握することが大事。特にシニア世代には、お子さんだけでなく孫の世代まで巻き込んで話をすることが重要です。お孫さんの未来も見据え、今よりもっと良い世の中に。そんな想いから、大川印刷さんでは孫のために休暇を取る「孫休」という制度を取り入れたりしています。

このような考えは大川印刷さんの営業にも表れています。

「営業は売り込みではなく提案」という概念のもと、相手のお困りごとを解決するのが営業であると大川社長は断言します。

 もし営業が「売り込み」というスタイルであるとすれば、いずれ無くなるのも事実。お客様が困っていないときにも自社の商品やサービスを紹介する「売り込み」は、場合によってはただの迷惑にしかならないからです。だからこそ「売り込み」ではなく、お客様に対して「提案」することを心がける必要があります。

~SDGsを推進するために必要なもの~

それでも、多くのSDGs企業が「SDGsを推進し、事業として成り立たせる」ことの難しさに直面しています。本業を通じたSDGsの推進を達成するために必要なものは何か。その解決策の一つとして、大川印刷さんでは「デジタルネイティブであるZ世代の若者たちに加わってもらい、事業に活かす」ことを積極的に行っています。

例えばZ世代の若者は、アプリで簡単に動画を作ってしまうような世代です。これらZ世代も巻き込みながら「社会のためになること」をどんどん展開する、そして「ギブアンドテイク」ではなく「ギブアンドギブアンドギブ」と徹底する、それが本業を通じたSDGsの推進で最も重要であると大川社長は考えます。

また自社だけで頑張るのではなく、価値観の合う様々な企業とパートナーシップを組んで事業を展開する。これもSDGsの取り組みとして重要であるといえます。

~社長がいなくても会社が回る仕組みを作る~

ジャパンSDGsアワードを受賞される前から、大川社長は日本全国で講演を実施してきました。そこで一つの疑問が浮かび上がります。「社長がいなくても会社はちゃんと回るの?」と。

この点において、大川印刷さんでは徹底的な情報共有を行っていました。例えばオンラインも含めた朝礼・中礼・夕礼を実施するだけでなく、講演内容や感想などの共有を行ったりしています。そして社長だけでなく従業員にもスポットが当たるよう、講演などに積極的に関われるような仕組みも構築しています。

これらの取り組みにより「やらされ感」で仕事をするのではなく、何事も自発的に参加できるような意識づくりを浸透させることで、たとえ社長が講演でいなくても会社が回る仕組みが出来上がっているのです。

「うるさい人がいないほうが仕事しやすいのでは?(笑)」と大川社長。そんな言葉が自然と発せられるのも、従業員に向けた信頼が大きい表れなのかもしれません。

そして大川社長が講演を続けておられる大きな理由が「外部からの視点」です。自社でいくらSDGsを推進しようとしても、必ず限界というものはやってきます。しかし自社の外から意見や感想をいただくことで、自分たちが取り組んできたことの意義や方向性が再確認できます。これがSDGsを推進していく上でとても重要な役割を果たします。

~「先義後利」を徹底することの大切さ~

大川社長の好きな言葉は「先義後利」です。これは「道義を優先し、利益を後回しにすること」を意味します。SDGsに関しても同じで、「それは儲かりますよ」と考えるよりも、「それは道義にかなうことだから、必ず利益に結びつきますよ」を考えることが大事です。

「中小企業の経営者にとっては“祈り”のようなものですね」と大川社長。困っている人がいた場合、いくらなら手を差し伸べるか…それは道義に反していることです。果たしてどこまで出来るか分からないけど、自分に出来ることなら精一杯やる。そしてそれが結果的に良い方向へ向かっていく。そんな“祈り”を持ち続けることが重要だと述べました。

大川印刷さんでは学生から「再生エネルギー100%・CO₂ゼロの印刷で絵本を作りたい」という相談があったそうです。

大川社長は面白い取り組みだと考えましたが、利益につなげることができるかどうかは非常に難しいところでした。下手をしたら大きな赤字になるかもしれません。しかしわざわざ自社に相談に来た学生のやりたいことを叶えてあげたい、そんな想いからクラウドファンディングなどを活用し、結果的に300万円を集めたことで絵本を作ることが出来ました。これも「儲け」が先にあったら成し得なかったことでした。

~SDGsで「正しく稼ぐ」ために~

SDGsでもゴールの一つとして設定されている「パートナーシップ」。このパートナーシップは、SDGsの取り組みを進める上でとても重要であることは先にも述べたとおりです。大川社長はこの「パートナーシップ」を組む相手について、こう話します。

「パートナーシップで連携する場合、はじめから利益の話をする相手とは上手くいかないことが多い」と。

山翠舎のSDGsに資する取り組みの多くも、利益が先行するのではなく「何が出来るか」をもとに取り組んでいます。確かに「利益」を先に追求してしまうのは、多くの面で間違った取り組みだと言えるでしょう。

大切なのはSDGsで「正しく稼ぐ」という概念。それは自社の価値を理解してくれるお客様やパートナーを見つけることであったり、お客様のお困りごとを解決する手助けをすることであったり。だからこそ「利益が出ない」と悩むのではなく、「先義後利」を徹底し続けることが大事なのでしょう。

 「先義後利」を徹底し続けることが企業の信頼となり、そこで働く全ての人の信頼となる。その「信頼」こそが、今後の中小企業にとって最大の「資産」となるのです。

~山翠舎の「17.パートナーシップで目標を達成しよう」:SDGs交流スペース~

山翠舎でもパートナーシップの取り組みが動き始めています。古木で作られた、日本で唯一の「SDGs交流スペース」です。

SDGs交流スペースでは月に一度、SDGsの達成に向けたさまざまなイベントが行われています。SDGsの専門家を招いたディスカッションや山翠舎のSDGs古木バッジ制作体験など、その取り組みは非常にユニークで面白いものです。

次回は12月14日の午後1時から山翠舎本社にて開催されます。人数制限がありますので、ご興味を持たれた方はお早めにご連絡ください。

執筆責任者:岡本 洋平(中小企業診断士)

主な執筆実績:SDGs時代の働きがい改革 中小企業のSDGs経営推進マニュアル

この記事のライター WRITER

岡本洋平

SMEビジネスコンサルティング合同会社 代表社員 株式会社戦略デザインラボ 代表取締役 中小企業診断士 岡本 洋平