【Taste the Time~ 古木、古民家がつなぐストーリー ~】

インタビュー
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プロローグ

初めて山翠舎の古木を使ったお店を訪れた3月。

早稲田駅から大学の横の大通りを歩き、一本裏の道に入ると、パリのビストロのようなかわいいフレンチレストランが。

そこは、初めて訪れる人もリラックスできる、おいしい香りと古木の温かみに包まれた幸せな空間だった。

「これは恵比寿柱と呼んでいる大黒柱と対になるもの。縁起の良い木ですよ。」

「もともとはスナックだった店舗を改修してレストランにしています。」

和風の古民家のパーツがフレンチレストランで活きているというおもしろさ。

まだ寒い時期に身も心も温まる手の込んだお料理が嬉しい。
デザートの甘酸っぱい林檎のタルトタタンとバニラアイスクリームが絶妙でとてもおいしかった。

その後、世の中は目に見えないウイルスにより、一時期は家にこもり、先が見えない状況になってしまった。

「今は振り切っている空間が強いように思う。

古材を使った飲食店の経営者はオーナーシェフであることも多く、提供するサービスにも店舗づくりにもこだわりがある。

お金儲けよりも、これを提供したいという信念のあるサービスが根本にある。

経営者の思いが共感を呼び、ファンが付く。

そして古木がその思いを店舗の空間を通して引き立てる。

人間関係のあるお店や共感経済(heart to heart)はキーワードになるのではないか。」

という山翠舎の山上社長の言葉から、

働き方も暮らし方も変化の時期にある今、企業や地域の持続的な経営のヒント、SDGs、コロナ禍における人々の価値観の変容などを模索してみたいという気持ちになった。

(写真:西早稲田「モンテ」にて)

第一話 「竹林庵みずの」のお話

今や宿や飲食店を選ぶ際には、立地する場所(繁華街を通らずに行ける)、換気の良さ(テラス席や大きな窓がある)、感染症対策(席間隔の確保、消毒)なども気になるところ。今後、人々は何を求めて、どのような気持ちで旅をするようになるのか。

静岡県南熱海・網代温泉「竹林庵みずの」は、海を一望できる、全14室、源泉掛け流しの露天風呂が付いた宿である。

「コロナはチャンス、他の会社が一服している時だから。」

「ビジネスの成功の秘訣は、真面目に一生懸命やること。お客さんが来ることだけでなく、従業員のやりがいも大事。」

様々な事業を手掛けた実業家であり、70歳になってから旅館業を始めたオーナーの渥美さんの言葉にはコロナ禍に負けないパワーがある。

「竹林庵みずの」には、既存の旅館を買い取り、内装に山翠舎の古木を使って改修した本館と、新潟と長野から古民家を移築し、新設した別邸がある。

「宿をつくる際に、渥美さんは現場に陣頭指揮に近い形で入っていた。

移築する古民家を探しに20回現地に足を運んだ。1回4軒見て、100軒弱を見た。

渥美さんは本質を追求する気持ちが強い。細部まで気持ちが込められている。
宿に魂が入った結果、客単価も上がった。」(山上社長)

一般的に移築費用は新築の家が一棟ぐらいの金額と言われている。

「安く仕入れて高く売る」がシンプルな儲けの出し方だが、事業の継続と企業経営は時代のニーズの変化や地域との共存など様々な要素に左右される。

数々の事業に関わってきた渥美さんには、安く仕上げるだけの経済論理ではない考えがあったのだろう。

「これは「竹林庵みずの」が、日本民家再生協会の奨励賞を受賞した時のプレート。

国立新美術館で開催された「カルティエ、時の結晶」という展覧会では、カルティエのジュエリーを展示する台も一流のものに揃え、古木の上にジュエリーを展示していた。

古木がジュエリーの格を上げ、引き立てる。

これは宿でも同じ。客間が脇役となって主役である宿泊者を引き立てる。」
(山上社長)

古木や古民家を活用することが資源の循環となったり、訪れたいと思う人を増やしたり、また、安らぎを与えるような効果があることは知っていたが、それだけではない何かおもしろいものがありそうだ。

通常は古くなれば経年劣化、老朽化、陳腐化となるが、時の積み重ねが生み出すものや空間は時にはお金に代えがたい価値がある。


簡単に創り出せない、かつ一点ものである古木や古民家に魅力を見出した人のストーリーを引き続き追ってみたい。

※今回はオンラインで取材させていただきました。

竹林庵みずの HP
https://mizunoryokan.co.jp/

この記事のライター WRITER

山野井友紀

歴史的な建物やまちなみ好き。大学時代は東洋美術史学を専攻。2008年に株式会社日本政策投資銀行(DBJ)に入社し、現在は地域企画部にて地域活性化やまちづくりなどの調査、研究を行っている。