良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その2

インタビュー
公開
3203 Views

良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その2

千葉県の棚田保全「鴨川里山トラスト」など、地域創生の活動を展開する良品計画。地方創生事業に、企業は何を見るのか? 同社ソーシャルグッド事業部の高橋さんにお話を伺いました。第二回は「無駄にしない」というコンセプト、そこから始まろうとしているあらたな動きなどについてのお話です。

地域創生プロジェクトの意味。その2

高橋 哲(たかはし てつ)株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部課長代行。
1973年生まれ、埼玉県川越市で育つ。大学卒業後の96年、株式会社良品計画に入社。店舗社員に始まり、店長、家具商品開発、ファニチャーのカテゴリーマネージャーなどを経験。2018年現在、千葉県鴨川市において棚田保全活動や直売所の再生プロジェクトなどを担当し、地域創生のサポートをしている。

中山間地で生きる


岩田 和憲(以下、岩田)
棚田って、今の農業からいうと、これで実際に生活していくのは無理ですよね。

高橋 哲(以下、高橋)
なかなか難しいと思います。

岩田
実際生活が無理だってなると、じゃあどういうかたちで維持していくのか。そういう課題が出てくるかなと思うんですが。

高橋
無理なんですけど維持していかないと、っていう考えですね。
こういう棚田のあるところって山でもない平地でもない、いわゆる中山間地って呼ばれてる場所なんですね。希少価値の高い動植物が残ってたり。
で、実はいちばん人口が多いのはこの中山間地と呼ばれる場所なんです。

岩田
ああ、そうなんですね。

高橋
日本ってほとんど山って言われてるじゃないですか。でもみなさんが住んでいらっしゃるのは、こういう平地と山の中間のところなんです。
なので、ビジネスにはならないかもしれないけど、守らなかったらどんどん耕作放棄地が増えて、自然の循環が消えちゃうわけですよ。
だから今は半農半Xって、農業とほかの職業を組み合わせる、と言われてる。
確かに実験的な部分もあると思うんですね。なんだけれども、「どういうかたちになればみなさんが生活していけるか? 移住なりに繋がるか?」っていうのを会社として考える、っていうのはあるんです。

岩田
実際に移住してきてこの棚田に関わられている方もおられるんですか?

高橋
数人いますね。少しずつです。

岩田
その方たちっていうのは収入を得るための仕事は別にして、ここで自分たちのコメを作るっていうかたちで生活を築かれてるんですか?

高橋
例えば、ある方は林業をやりながらトラストの活動も手伝ってくれてる、そういう感じですかね。

岩田
震災以降、こうした動きがひろがってきてますよね。

高橋
極端な話をすれば、「都市に本当にこんな多くの人が住んでいいのだろうか?」とか。そういった流れの中で「もっと地域に目を向けていく必要があるんじゃないか」とか。じゃあ僕らは何をやればいいのか。お客様に言われたわけではないんです。必然性のようなものじゃないかと思います。

人気の社内ボランティア


岩田
ちなみその最初の社内ボランティアっていうのは、会社から声がかかったんですか?
「こんなことがあるけど参加する人、いませんか?」みたいな感じで。

高橋
そうですね。社内の各人に連絡をするシステムがあって、そこに「社内ボランティア募集」という連絡があるんですよ。

岩田
下世話な話になるんですけど、交通費とかは自腹ですか?

高橋
いやいや(笑)。その日は仕事扱いになるので。

岩田
無償ではないんですね?

高橋
言い方が誤解を招いたかもしれないです。完全なボランティアというよりは、

岩田
土日がなくなるけど、少し楽しめて働ける、みたいな。

高橋
そうです、

山上 浩明(以下、山上)
その募集は人気があったんですか?

高橋
ええ、人気ありますね。
ボランティアっていう言い方は適切じゃないかもしれないですけど、お客様にこの棚田に来てもらうっていうのが大前提で、それを助けるのためのスタッフという位置付けですね。

岩田
高橋さんはいちばん最初の時から参加されてたんですか?

高橋
僕は2年目からですね。

岩田
実際こちらに来られて、いろんな発見ありましたか?

高橋
そうですね。
ここに住む前にも、単発で来たり、いろんな話も聞いてたので「ああ、そういうこともあるな」ってことはわかってる。でもそれって、実体験じゃない。今はここに毎日住んでいるので、それが実感になるというか。
今日もカエルがすごい鳴いてますけど、こんなにカエルが鳴くところなんだ、からはじまって、夜ってこんなに暗いんだ、月ってこんなに明るいんだ。

そういった自然的なこととか、ほんとうにおじいさん、おばあさんばかりだなあ、とか。
駅に出ようと思ってもぜんぜん車がないと生きていけないな、とか。東京からそんなに遠くないと思ってたけど、実際、そういうことを感じると遠いなあ、とかですね。
ちょうど今年の3月で丸2年経ったんですけど、日々感じることは今もありますよ。

「無駄にしない」というコンセプト


山上
良品計画さんが来ることによってこの地域も変わっていってますよね。

高橋
うーん…、まだまだかなと思ってますけど。

山上
直売所の指定管理者になったり、

高橋
そういうことでいえばそうかもしれないですね。

山上
思うんですけど、わたしが知ってる事例でも、個人や小規模の会社が「道の駅のような直売所をやりたいな」って思っても、なかなかそこまで地域を巻き込んで変えられないなっていうのがあるんです。それをやれる良品計画さんっていうのは、やっぱりすごいなって思います。

高橋
「里のMUJIみんなみの里」では、従来の野菜の直売や物産品の販売はこれまで通り引き継がせてもらうんですけど、今回はそこに、少し小さめの無印良品と「Café & Meal」を出店するんです。これは僕らにとってもチャレンジングな出店なんですね。
あといちばん大きいのが、地元の農業を変えていくような取り組み。例えばここの地域ではミカンとか、収穫しきれなかったものがぼこぼこと落ちてるんですよ。

僕ら無印良品のコンセプトとして「無駄にしない」っていうのもあるんです。
そういった地域資源を使ってジャムを作りましょう。それをビジネスにしたり、地域の生業に少しでもなればいいっていう思いがあって、加工場もそこに併設されるんですよ。
そこでジャムはできるようになる。ちょっとしたお土産ものができるようになる。すごい売れるんだったら、工場を作ったっていいわけだし。
そういったことを次はやろうとしているんですよね。
なので、僕らも単にものを売るとか商品を開発するっていうところから、地元の方と一緒に何かを開発する、地域と繋がってものを開発する、そういう流れに変わってきてる部分があるんですよね。



次回(最終回)へ続きます。

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/