デザイナー小林敬介さんインタビュー vol. 3「普通のまま普通じゃなくする」
デザイナー小林敬介さんインタビュー vol. 3「普通のまま普通じゃなくする」
内装・建築のデザイナーとして30年以上のキャリアを持ち、古木を使った内装デザインでも数々の名店を手がけてきた小林敬介さん。インタビュー連載、最終回となる3回目は、「無作為の作為」こと、一見普通のデザインなのに、普通じゃない、そんな空間づくりのお話です。
目次
第3回「普通のまま普通じゃなくする」
小林さんがデザインした、静岡県焼津市にある小林さんの実家。
小林 敬介(こばやし けいすけ)内装・建築デザイナー。 1963年、静岡県焼津市生まれ。 東京のデザイン専門学校に進み、人生を知るためにと葬儀屋や汚物処理など人が嫌がるバイトを数々体験。卒業後は店舗に住宅、内装・建築と、デザイナーとして今日まで30年以上のキャリアを持つ。古木を使った内装デザインも多数手がけている。 |
小林さんのコレクション
小林
内装とかデザインとかやってますけど、僕が今、いちばん興味あるのは料理なんですよ。
いわた
料理を作る?
小林
作れないですけど。
いわた
食べるほう?
小林
食べるほうというより、僕、器のコレクションをしてるんです。
いわた
焼き物ですか?
小林
焼き物もそうですし、料理道具もそうですし。
いわた
へえ。
小林
包丁とかも、こういうね、ダマスカス鋼っていって、この波模様がカッコよくてね。眺めてて、いいなあとか、きれいだなあとか思ってて。
いわた
いいですね。
小林
あと、こういうアフリカのお面と、インドの100年前に使われてたテーブルとか。
実家をデザインする
小林
こういう食器とかを何で僕、買うようになったかというと、焼津の自宅を作って、
いわた
生まれは焼津ですか?
小林
焼津なんですよ。
で、こういうふうに花を活けたり。
親が花をやってるわけではないんですが、僕がこういう家に住んで欲しいなと思う気持ちで作ったっていう。
いわた
いいなあ。
小林
親からこういうふうに作れって言われたわけではなくて、ただ和風でって言われたんで、和風で作ったんですけど。
普通の家を作ろうと、サザエさんの間取りで作ったんです。
でも普通を、いかに普通でなくすかっていう方法論をいろいろ考えて。
いわた
ええ。
小林
だから床板も普通の昔の松の板だったり、壁も聚楽だったりするんだけど。
でもそれを全体的に構成すると、普通でなくなる方法論っていうのをどうやったらできるかっていうのを考えて、デザインを施してったんですよ。
いわた
どこをチェンジするんです?
小林
幅木ってあるじゃないですか。普通、幅木をつけるんですよ。でもそれをつけない、とか。
あと普通は長押がついてるけど、つけない、とか。
日本の在来のものは長押があって幅木があって、そういう決まりのものがあるんだけど、まあ西洋の考えだと、例えばコルビジェが日本に来て「日本建築は線が多すぎる」という、そういう発想があるんですね。
いわた
へえ。
小林
その線を取ったらどうかっていうことで、線を極力なくした伝統的なかたちってどうなのか、とかね。そういうのをちょっとやってみた。
ほかにも扉の枠も枠の薄さによって建具の表情が変わるんですよ。今までコストの面でとかそんな面倒なことやりたくないとか、いろんな問題でやれなかったことを、家で実験したんですよ。
いわた
この家、すごくいいなあ。
古木でデザインする・JRの枕木はヤバかった話
いわた
そういえばすっかり古木の話を聞くの忘れてました。
小林さん、古木は…
小林
古木については、僕はまず枕木を使ったお店を作ったんですよ。
いわた
枕木っていうのは、鉄道の?
小林
それが当時、タダだったんですよ。私鉄の枕木は表面にしか防腐剤塗ってないので、すごくいい状態だったんですよ。
いわた
てことは、JRは違うんですか?
小林
JRは管理が厳しくて、防腐剤が中までぜんぶ注入してあるんですごく臭かったんですよ。
いわた
そうなんだ。
小林
そのころはタダだったんで、車で持っていってくれればいくらでもあげるよっていう時代だったので、それをもらいに行って。でもすぐに枕木も広まっちゃって、タダじゃなくなったんですよ。
で、私鉄の枕木がなくなっちゃったんですよ。
そしたらJRから安く買えるっていうんで、JRの枕木を買ったわけですよ。
でもそれを切ったら、切ってくれた人がみんな倒れちゃった。
いわた
え?
小林
中に注入してある防腐剤が気化して。
いわた
そんなにひどいの?
小林
ひどいんですよ。毒性が強いみたいですね。だから建物の内部で使っちゃいけないんですよ、JRの枕木は。
いわた
へえ。
小林
そのころは僕ら、知らないから。それで切ってくれる人がどこにもいなくなって。
いわた
すごい話ですね。
古木でデザインする・今日までの話
小林
あと古木でいうと、アメリカから輸入されているバーンウッド。納屋で使われている古い板を使ってお店づくりをしてたんですね。それが25年くらい前かな。
今ほど海外の古材が出回ってないころでしたけど、そういうのを扱ってデザインとかしてましたね。
いわた
そうなんだ。
小林
だから古材はずいぶん前からやってたんですけど、またそれが、補助金が出るとかで、国内の古材を使いましょう、ということになってきて。長野近辺の、雪深いところの古材のほうが立派だからということで、それで古材を扱うようになったんですね。僕がちょうど前の会社を辞めたときくらいから古材を使ったお店づくりという方向に転換したんです。
じゃあ、古材を使ってどういったお店づくりができるの、と。
全部古材を使うとそれは古民家になっちゃってコストも高くなるし、現代的にはマッチしない部分があった。あまりにくどくなってくるんで。
だから現代的な表現になっていったんですよ。そういうのが逆にいいってなって、依頼が増えていくんですけど。だからか最初はイタリアンとかが多かったですね。
いわた
なるほどね。
料理を食べるシーンで総合アートをやる?
いわた
ベタになっちゃいますけど、最後の質問で、小林さんのこれからを聞かせてくれませんか。
小林
仕事を辞めたいですね(笑)
いわた
なんと(笑)
小林
これからは料理をやりたい。
僕はだから、料理を食べるシーンが総合アートだと思ってるんで。
いわた
料理を食べるシーン?
小林
最終的には。
例えばここに空間を作って、そこに花を活けて、着物を着て、そこに器をおいて、ぜんぶトータルで空間を作るっていうことを自分でやる。で、料理を作って出す。そしてお客さんに食べてもらう。
この一連をやるとしたら、総合的にやらないといけない。これがすごく楽しい。
いわた
料理を作るのもやりたい?
小林
作るのもやりたい。イメージはたぶん負けないと思うんですよ。
いろんなお店へ行って食べて、「ああこんなもんか」とか、「こんな盛り付けね」とか、
いわた
上から目線だ(笑)
小林
デザイナーだからビジュアルとしてはイメージとかアイデアはいっぱいあるんだけど。ただ、実際問題、美味しいのかどうかっていうのはあるけど(笑)
そういうのを実験的に、
いわた
本当にいつかやるんですか?
小林
やりたいと思ってるけど。
とりあえずここでパーティーとかやって、ふるまうところから。
いわた
それは、ぜひやってほしいなあ。
これで小林さんとのお話はおしまいです。
お読みいただきありがとうございました。