「子育て、仕事、人生」煮込みや まる。秋長喜実子さんに訊く。前篇「わたしにはこの店が人生」

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「子育て、仕事、人生」煮込みや まる。秋長喜実子さんに訊く。前篇「わたしにはこの店が人生」

子育てと仕事、両立することはできるのか? よくあるこの問いには、そもそも子育てと仕事を別物と切り分けている前提がある。果たしてそうなのか? 秋長さんの話を聞くと、子育てや仕事は人生という言葉でおさまる。人生。それは仕事であり子育てである。前編は、妊娠・出産と経験しながらお店をどう続けていったかのお話です。

前篇「わたしにはこの店が人生」

秋長 喜実子(あきなが きみこ)1985年、大阪府八尾市生まれ。
大学卒業後、飲食業の会社に入社。居酒屋を中心にホールからキッチン、店長などの職を経験。27歳で独立し2013年、東京荻窪にて煮込み料理をメインとした居酒屋「煮込みや まる。」をオープン。各誌にフォーカスされる。16年10月に長男・健太くんを出産。子育ても含め、お店が人生そのものとしての経営を続けている。
荻窪の居酒屋「煮込みや まる。」ほど、古い日本の民家、そのころのいろんな意味を込めての匂いを骨太に体現している空間には、今、なかなか出会えない気がします。
もともと古木への興味があったわけではないという店主の秋長さん。でも、「1人で切り盛りできる、見知った人が来るお店をやりたい」というコンセプトは古木で表現を得ました。
とても不思議で、同時に、とても普通のお店です。
こんなお店がかつて日本にはあり、そこに人の生活があり、そこに様々な人が行き来し会話した。それが人の営みの本来の何かだったのだろうと思わせる。そんな力を持ったお店です。
そんな秋長さんに訊く、「子どもを育てながらお店もやる」というお話。
1960年代あたりまでは日本の女性が当たり前にやっていただろうことを、今の社会の状況でやるということ。そんな話を、リアルにうかがってきました。

子育てしながらお店をやる


岩田 和憲(以下、岩田)
お子さんは今、1歳ですか?

秋長 喜実子(以下、秋長)
今、1歳になったところです。

岩田
育てながらお店をやるっていうのは大変じゃないですか?

秋長
そうですね。
最初の5ヶ月はわたしが赤ちゃんを見ながら、スタッフ1人とお店をやってたんですけど。
そのときはまだ、赤ちゃんはほぼ寝てたので。
たまに泣いておっぱい欲しがるとやりに行ってっていうのを繰り返しながらでしたね。

岩田
そうなんですね。

秋長
4月から、大阪から母が来てくれるようになったので、夜は2階で母に面倒をみてもらって。
それからは、まあ、母任せになっちゃってますけど。

岩田
旦那さんは旦那さんでまた、隣で焼き鳥屋を1人でやられてる。

秋長
そうです。

岩田
お店は別々だけど、隣同士で同時に始めたんですか?

秋長
いえ。わたしはもうここに店を持ってて。
隣は、40年ぐらい前からの古い焼き鳥屋さんだったんです。
でもそのおじいちゃんが倒れちゃって閉めてたんですね。
もう2年ぐらい閉めてたから、うちの旦那が焼き鳥を焼く仕事をしてたので、大家さんと前の方に「もしよかったらうちでやりましょうか」って言って、

岩田
へえ。

秋長
街としてもずっと閉めてるよりは開けたほうがいいので。
で、話して、旦那にも「やって」って言って、一階のところだけうちでやることになったんです。

山上 浩明(以下、山上)
それはかなりの偶然ですね。運命的な。

秋長
そうですね。

秋長さんのお店「煮込みや まる。」。隣は旦那さんが切り盛りする焼き鳥屋「二代目 鳥七」。

岩田
面白いのは、子育てとかそういうことも含めて「煮込みや まる。」というお店なんですよね。

秋長
はい。わたしには、この店が人生なので。
だから子どもも、この店としてのわたしの人生の中で、1つに加わっていくというか。
つまりその、妊娠、出産ということも、お店の1つのストーリーだと思ってます。

岩田
そういうの、いいですね。

核家族の弊害


岩田
秋長さん、住んでる場所もここですか?

秋長
ここに住んでますよ。
一回、引っ越したんですけど、子どもが生まれてからまたここに戻ってきて住んでます。

岩田
このお店の上、2階に?

秋長
そうです。
店で子どもを育てるっていう。

岩田
だいたいこの時間(ただ今お昼の4時です)ぐらいに保育園にお子さんを迎えに行って?

秋長
迎えに行って、そのあとは、今日は(この取材があるので)祖母にお風呂に入れてもらってますけど、いつもは自分で入れて。
で、4時半か5時のあいだにわたしは店へ帰ってきて、子どもは2階でおばあちゃんと過ごしてます。

秋長さんと健太くん

岩田
僕も7年前に子どもができて、そのころひしひしと感じたのは、おじいちゃんおばあちゃんがいないとすごく大変。

秋長
すごく大変ですよね、ほんとに。

岩田
核家族の弊害を感じましたね。

秋長
わたしも母が来てくれなかったらどうやってたなかなあって。
ずっとおぶって店に立ってたかっていうと…。
おぶってたでしょうけど、それでやっていくのはけっこう厳しい。

両立するしかない


岩田
そこから学んだり得たことってありますか?

秋長
まだ1年しか育ててないのでね…。1週間前に1歳になったばかりで。

岩田
じゃあ、まだ授乳はしないといけない?

秋長
もう終わりました。今、離乳食を食べてます。祖母と一緒にご飯食べてます。

岩田
そうなんですね。

店の柱に刻まれた、健太くん1歳の身長。

山上
女性の方で、曳舟のほうでカフェをやられている方があったんですけど、結婚されて子どもできたのでやめちゃいまして。

秋長
ああ…。
わたしの周りの女の人で店をやられてる方でも、結婚して子どもがいる人ってなかなかいないんですよね。

岩田
それでも秋長さんだけはやってる。

秋長
やっぱり自分の人生に妥協したくないので。
お店もやりたいけど子どもは今しか産めないし、ってなるともう、両立するしかないですよ。
どっちかを諦めるっていうことは絶対したくなかったので。
「店をやりながら子育てもできるにはどうしたらいいのか?」っていうのは、結構悩みましたね。
で、悩んで、どうしようかって言ってたところにスタッフが見つかったりとか。

岩田
サポートしてくれる人が現れるんですね。

秋長
そうですね。
なんか真剣に悩んでたり頑張ってたりしたら助けてくれる人はいるんだなと思って。



後篇へつづきます。

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/