【Taste the Time~ 古木、古民家がつなぐストーリー ~】第四話 「庄原の古民家×グランピング」のお話

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むかし、むかしあるところに・・・・・・

という語りが入りそうな風景。

広島県庄原市にある築100年ほどの古民家を活用した宿「こざこ森」だ。
四季の表情が豊かな里山。どの季節の写真も絵画やポストカードのように美しい。

この写真の家、実は!

グランピング仕様なのだ!

おもしろい古民家があるんだよ、と写真を見せると、みなさん「え?これ、どうなってるの?」という第一声。

この宿をつくった株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションのシニアマネージャーである阪本さんに詳しく聞いてみることにした。

「ここはリビングで、もともと畳敷き4部屋だったものを壁を取り払い、全面ガラス貼りにしました。屋外の風景と一体になったような空間で、ファイヤーピットを囲んで団欒のひとときをお過ごしいただけます。暖かい季節は外でBBQもお楽しみいただけますし、キッチンもありますのでお客様ご自身で食材を持ち込んで調理いただくことも可能です。自然の中でリフレッシュしていただきたいですね。」(阪本さん)

こんな古民家宿に泊まったら、もう解体しようと思っていた我が家もリノベーションしてみようか?と思う人も増えるかもしれない。

瀬戸内ブランドコーポレーションが手がけた庄原の古民家宿は3軒。阪本さんは宿のオペレーションやマネジメントを担当している。そんな阪本さん、古民家マニアなのかと思いきや、古民家に住んだことも縁側で過ごしたこともなかったそうだ。

「若い人や都会にいる人は、親世代も都会育ちで、そもそも田舎のおじいちゃんおばあちゃんの家を知らない。非日常の世界としか見えていない様子。」(阪本さん)

この宿の宿泊客層は、20~30代がほとんど。若いファミリーや友達グループでの利用が多いそうだ。

内装や水回りはきれいにリノベーションされている。天井、梁などが古民家らしいリビングと外観以外は新築と思えるほどメリハリがついている。

庄原商工会議所から空き家が増えているという相談があったことが宿づくりのはじまりだったという。
「こんな古民家に高いお金を払って泊まる人がいる訳がないと言われていた。しかし、実際に宿ができて、お客さんが来てこの考えは一気に変わった。これって価値があるものなのだ!という気づきを与えられたと思う。」(阪本さん)

「そうはいっても、住民に胸を張って価値が上がると言い切ったことはすごい。当初価値に気づいてもらえないなかで、リスクを承知で新しい宿を始めるのは勇気がいると思う。」(山上社長)

「時間が経てば経つほど建物の魅力が上がる。それが古民家。新しく建てて壊す(スクラップ&ビルド)の世界では、何も残らない。残るものがないので建てて壊しての無限ループに入るしかない。そうするとコモディティ化も進む。
時が経っても差別化できる要素(地域の歴史、文化、風土、人など)を大事にしないといけない。これらは時間という壁で守られているので誰がどうやっても模倣できない。
今ある建築は建てて償却して価値は下がっていくが、古民家は不動産の従来の考えに逆行する。
古民家は新しい価値の再発見。価値になるかどうかという見方は時代とともに変わっていく。」(阪本さん)

「古民家が不動産の従来の考えに逆行する理由は、部材である木の物理的な強さにもある。プラスチックなどの建材では年々強度が落ちていく。今の一般的な家や建物は100年残せない。」(山上社長)

価値が分からないと言われ、解体されていく古民家が多いなかで、頭で分かっていても活用に向けた行動に移せる人は少ないに違いない。さらにはそれが公共交通機関で辿り着けない庄原エリアならばもっと不安になるだろう。宿泊施設はアクセスが重要ポイントと言われ、シティホテルに比べれば立地優位性に縛られない古民家宿でもできるならばアクセスが良い方が望ましいという発想になりがちだ。

「庄原は自然景観、里山風景が売り。アクセスが良い所では滞在体験を提供しにくい。場所が奥地であるがゆえの良さがある。行きづらさも価値になる。ようやくたどり着いた所に素敵なものがあるというのも良いのではないか。」(阪本さん)

なんと奥地に希望がある!
サイクリング、バーベキュー、焚き火、ハンモックでお昼寝、花火、虫取り、野菜収穫体験(※コロナ禍で今は中止)、五右衛門風呂など里山の奥地でこそ楽しめること。

「マンションなど閉塞感があるからだろうか、今年8月は9割の宿泊客がバーベキューを希望していた。例え住んでいる家が一軒家であっても、まちなかの住宅街ではバーベキュー禁止というところもある。マンションであればなおさらバーベキューは難しい。」(阪本さん)

確かに、コロナ禍のステイホームでは、つらい思いをされた方も多かったのではなかろうか。

「宿の価値をつくるために地域を活かすという発想ではない。それとは逆。地域のブランド化のための宿。地域の価値を活かせる宿をどうやるべきか、という思考からスタートしている。エリアの強みをどう際立たせるかを考えている。
目的地としてどの地域に行きたいかと考え、そこに泊まるという循環をしていくうちに、その地域が遺産のように特別になっていく。

同じ庄原市内につくった「長者屋」という築250年ほどの古民家宿は、建物内の牛舎をギャラリーにしている。昔の写真を飾った展示パネルがある。地域で守られてきた建物の歴史を活かしたい。」(阪本さん)

「宿の人気はコロナ禍で加速した。これにより、地域に受け入れてもらえるという雰囲気が高まり、住民のモチベーションが高くなった。

宿の成功理由には、地域の中で一緒に宿をつくろう、盛り上げようとしてくれる人を最初に見つけられたことが大きい。地域と瀬戸内ブランドコーポレーション、民間事業者とで協議会をつくった。その中で瀬戸内ブランドコーポレーションが動き、宿づくりが進んでいった。
ビジネス面での条件も必要だが、まずは地域で一緒に活動できる仲間が見つかるかどうかが大事。地域に異文化を受け入れる素地があり、プロジェクトのスタート時に1人でもそのような人がいれば広がっていくもの。あとは、本当に地域を良くしたいという熱量・モチベーションがプロジェクトを達成まで導く。」(阪本さん)

これは古民家活用に限らず、企業の新規事業や起業など、新しい物事を始める時に共通するワードかもしれない。そして、こんな古民家宿では新しいビジネスの発想も沢山出てきそうだ。古民家ワーケーションや古民家テレワーク合宿などは今後流行るのだろうか。

「ワーケーションやテレワークは一定程度進むと思っているが、企業の制度上の問題がネックになっていると思う。今は地域のワーケーション受入側の環境に焦点が当てられているが、制度の問題をクリアしないと、マーケットは成長しない。
有給休暇の消化制度と組み合わせたら良いと思っている。日本は有給休暇の取得率が低く、高めないといけないと言われているなかで、有給休暇を使う目的や意味を持たせないといけないと思っている。
WORKに重点を置かせて、研修などの要素も入れて、有給休暇を使って地方へ行ってきても良いというような感じだろうか。
勤務時間としての出張研修+その前後に有給休暇を取得するというように組み合わせるとワーケーションになるかもしれない。100か0かではなく、組み合わせで考えると良さそう。」(阪本さん)

今や人生100年時代。時には休んで、里山でのんびりしながらエネルギーチャージをして、また働いて、時々休んで。

無理しなくて良いんだよ。ずっと頑張らなくても大丈夫。あなたの人生を楽しみなさい。
古民家という生まれて100年の先輩がそう言っているように私には聞こえる。

宿のHP:https://shobara-info.com/contents/2182
写真の出所:株式会社瀬戸内ブランドコーポレーション

この記事のライター WRITER

山野井友紀

歴史的な建物やまちなみ好き。大学時代は東洋美術史学を専攻。2008年に株式会社日本政策投資銀行(DBJ)に入社し、現在は地域企画部にて地域活性化やまちづくりなどの調査、研究を行っている。