箱根の家 気仙大工の建てた古民家を岩手から箱根へ移築再生 柴山夫妻に聞く(後編)
箱根の家 気仙大工の建てた古民家を岩手から箱根へ移築再生 柴山夫妻に聞く(後編)
実際におこなった古民家の移築や再生について詳しくお話を伺いました。
この古民家は気仙大工が幕末から明治につくった貴重な家屋の一つです。
夫妻は1998年後半から古民家を探す旅をはじめました。
気仙大工の作った180年前後の貴重な古民家を発見し、芦ノ湖を見下ろす斜面に
現代の建築と古木の融合する新しいスタイルで移築します。
まさに「ハイテク古民家」です。
ご夫妻は「ZEKKEI」というコンセプトで 新しいライフスタイルの提案をしています。
目次
ハイテク古民家に訪れたお客様の反応は?
柴山千枝(以下 千枝):「すごい!すごい!」っていうだけ みんな。
柴山信廣(以下 信廣):子供を連れてきたいなぁと。
梁だとか、その組み合わせ?これが日本の昔からの伝統の一つの方法なんて
話すと、日本人て素晴らしいねと言ってくれたりします。
山上浩明(以下 山上)昔はそれこそ、石の基礎でその上に柱をのせていたんですよね。
千枝:ほんとファジーな感じだってね。
山上:来た方がすごいっていう一つとしては、ただ単純に移築をしたっていうことではなく、今回ハイテクとか古民家のそういうコンセプトの融合を図ったっていうことに対する尊敬があるのではないかと思うのですけど、その辺はどうですか?
千枝:普通の古民家だとそんなに興味持たなくて、こういう組み合わせもあるんだなっていうことでね、それを思ってる人たちは結構いらっしゃったね。
マレーシアに住んでいる友達も、彼がフランス人のね、写真見せたら
リタイアしたら絶対こっちに来たいって言うのね。
それでこういう家を探してくれっていうんですよ。
山上:ここはやはり山翠舎で(笑)
千枝:外務省に行っていて、ZEKKEIコンセプトは外国の人のほうがわかりやすいっていうのね。このスケール感を感じてくれたのよね。
※「箱根の家」のスケール感についての補足
この建築物のすごさは、気仙大工が作った伝統的な建物を平地に建てられていた姿ほぼそのままに箱根の急な斜面(すべて30度ちかい)に建てている技術的なことや、建物自体が持つ空間の広さ(生活空間は約200平米あり、天井裏で高さ7mなど)、伝統的な農家の生活を感じさせる建物の構造、独特な材木を組み上げている気仙大工の圧倒的な技術力など、さまざまな注目すべき点がある。 箱根の厳しい気候条件のなかで、気仙大工の古民家と箱根の美しい自然のどちらの良さも損なうことなく、これだけの壮大な建物が箱根の風景に違和感なく美しく溶け込んで移築できていることは、驚きも感じる。
山上:今現在 空家の古民家が20万戸を超えておりまして、そのほとんどが解体されている現状のなかでですね、本当に壊さずに、壊すぐらいだったら
海外の方にぜひ使ってもらいたいなと考えています。
2000年当時の古民家移築の大変さ
信廣:山翠舎のすごいところってのはね、工務店の機能と実際のデザインを
セットで 一括でやっているところがすごいなぁと。
山上:ありがとうございます(笑)
信廣:2000年はないから。もう あっちこっちあっちこっち。
千枝:古民家だったら古民家の大工さんだとか、そういう 仲間しかないでしょ。
古民家をずっと設計してる人がいるじゃない。その方にちょっと声かけてみたけど、私たちが依頼したいのはそうじゃなかったので…
山上:そうですよね。
千枝:そういうところも今だったら、ホームページ見ればその設計の人が
どういうものを作っているかわかるけど20年前だと全然わからなかった。
山上:そうですね、インターネットが、ちょうど出始めたころですからね2000年は。
千枝:出している人もいなかったから、本だとかそれから誰かの紹介だとか。 そんな感じだったのですごく大変だったんです。けど、最近は割とね、 そういうところが楽になったし。
山上:おっしゃるとおりで 設計やってる方が、どこまで古民家をわかってるかいう視点とその工事をやる方がどこまで恰好よくできるかと言うとこと、
材料 古民家を見つけてくるところが分断されていて、(1部が)できる方はいらっしゃるんですけど…すごく苦労するところなんですよね。
苦労されているからわかると思うんですけど、皆さんわからない方がほとんどなんで。
信廣:運ぶのもね 僕のところは友達がいたからよかったけど。
山上:トラック何回来ましたかって感じですよね。
千枝:大変でしたよね。
信廣:新幹線運ぶような感じですよね。
山上:運ぶといっても周りの道がまた細かったりして
大変なわけですからね。それまでどこに置いておくかなど、話題にされないところが結構大変だったりするんですよね。
信廣:古民家を建てた人がやるべきだね。(笑)
※山翠舎のパンフレットの施工例を見ながら
信廣:これは古民家を直したの?
山上:そうです。中は囲炉裏があったり 梁や柱があったりですね、
新潟県にあった重要文化財が解体する運命になってしまって
それを特別に入手して移築したという事例です。
洋風にもできますし、こういうふうなギャラリーにもできます。
千枝:私たちの時は本当に情報がなかったから、鈴廣っていうかまぼこ屋さんがありますよね?
あそこも古民家を1棟移築しているところがあって、(移築の参考として)実際に生活するっていうところじゃないところを見てたわけよね。
実際に生活するのを移築したというところって本当になかったと思うのよね。当時は。
山上:移築についての現在の固定観念としては、すごいこだわって先生にお願いして、すごい高くてみたいな大変なイメージだからそこはを払拭したいなと思ってはいます。
千枝:山翠舎は一貫してその辺を理解していただけるというところは
すごくいいのじゃないかしらね。
山上:実際山翠舎の方ではこうやって仮組というのをするんですね。
実際ここはそういう仮組はせずにいきなりここに持ってここで大工さんがやったってことですよね?大体同じ形で移築したんですか?
信廣:まったく同じ まったく同じなんですよ。外見は。柱の使い方もこれを持ってくるときに設計図あったの。
※柴山氏、WEBサイトの情報を見せながら
山上:かなりプロセスがしっかり書かれていてこれからZEKKEIを目指される方にはかなりいいガイドになってますね 。素晴らしいですね。
信廣:家の前にこの建築許可の申請を取るのが大変だった。ここ国立公園じゃない?それが一番大変だったなぁ。
山上:新しいこのセレクトショップが古民家の蔵の移築なんですよ。確認を通すところにノウハウが必要でしたね。
信廣:屋根が真っ平で古材だから古木がうねって それの吸収が大変だったね。
山上:どちらかというと大工さん?
信廣:大工さんも大変だったんじゃない?
山上:大工さんと設計との調整が大変そうですね。
千枝:でも、大工さんは面白かったといってたよ。こんな大変なの今までやったことなかったって。
山上:嬉しいですね。大変面白かったったとはいってました。
さっきの道の駅もですねすごく遣り甲斐があったって大工さんが言ってくださったんですけど、普通の古民家の移築って、もとのばらしてそのまま組み立てるってなると、その大工さんのなかではそれはその昔のね、150年前 200年前の大工がやったことを自分がやるだけかというところになると。
もうちょっと上の事をしたいと思うんですよね。
今回道の駅のやぐらを組んだと思うんですけどそれはうちの5000本の在庫の中から、いろいろな形に持ってきてつくったので普通だとそこまでできないのでそれは面白かったそうです。
千枝:醍醐味よね 大工さんのね。
山上:大工さんはそういうことが面白くて、今まででそこが一番大変だったよっていってまして、作っている最中も寝れないぐらいだったとおっしゃってました。そういうやりがいのあることがそもそも好きな方だったんですね。
千枝:うちはそこまでではないけれども、そういう気持ちではいたのね。
資金について
千枝:資金繰りがさっき言っていたんだけど、現金がねボンボコ出ていくからね 。本当に。
山上:人がね それだけ動くと…
千枝:予想をしていた以上に何かいろんなものが出て。
山上:請負契約だったんですよね?
千枝:請負だけど 次から次へと。こんなものなのかしらって…普通たとえば新しく家を建てる時に大体決まっているでしょ?だからその範囲の中でそんなに え?ってならないでしょ?
山上:その金額がすべてですよ。
千枝:ここもある枠があるから、そんなに狂う訳はないだろうって思っていたんだけど、全然違いましたね(笑)
山上:全然ですか?
千枝:全然違いましたね。
信廣:いくらかかったのかって最終的にはわからなくなってしまった…
千枝:最初の見積もりからまったく違っちゃったから。
山上:お金かかるなと思ったのは 斜面でやって、杭もでてましたけれども
その辺結構お金かかりそうですね。
千枝:基礎はかかりましたよ 一回の基礎じゃなくて、2回もかかったから だから
見積もりの倍かかっているわよね。
山上:そうですよね。
暖房設備など
山上:設備とかも結構寒いところだと、暖房的なことで
お金かかったりするんですけど、そっちのほうはそれほどでもないですか
設備費?
千枝:今ここは床暖でしょ 、ガス ストーブでしょ、みたいな。
あと、こたつ。そうすればなんとかね。
2階はストーブ炊いてるから、上に行くから。
東京から比べれば寒いって感じだからね。
信廣:スカイツリーが634でしょ。
山上:はい。
信廣:それより高いんですよ、 ここ。
山上:なるほど なるほど 634ね なるほど
信廣:だから 700mちょっとぐらいあるから、北海道まではいかないけれど
青森から東京までの間を全部、1か所でシュミレーションできるというね。
東京は暑い?
瀬下:37度ぐらいですね
信廣:37度 暑いねぇ。
千枝:ここ来たら22度だった。
山上:快適ですね。
千枝:夏はいいね 。今年の夏は異常にね、東京も暑いしここも暑いの。
普段はそんなに暑くない。
千枝:設計の先生の設計の意図と、こちら住むほうのと乖離するとこがあるでしょ?通年住んでみないとわからない。
山上:発注者のほうも知識が要求されるので知らなくて当然ですよというのもそれまた違うのですね。
千枝:知らないとだめなのよね やってみてね…発注者も素人じゃだめっていうことなのね。
山上:そういうことで難易度が高いんですよね。
発注者も勉強しよう
信廣:昔、家は3件作るということがあったじゃない?
そんなもんだと思ってたけど、でもね…こんなの3軒も作れない。(笑)
山上:もうこれが3軒目って感じですよね。(笑)
信廣:3軒も作れないね…
山上:パワーかかりますよね 。時間も1軒でまともにやらなければいけないとしたら。多分、家を作る人は相当勉強しなくてはいけないですよね。
だから3軒つくればいいというのも、ある意味そんなに3軒もつくらせちゃいけないっていうか、そうならないようなプログラムがあってもいいのかもしれないですね。
信廣:そうだよね。
山上:どうやったら家が良くつくれるのか、ぜひそこで語っていただきたいですね。
千枝:私よりも彼は設計図を見て、もうすごく分かっちゃったわけよね。
排水だとかそういうの。
建築家の人でもそういうところが苦手な人っているじゃない?
そう細かい 水回りだとか。そういうところがものすごく大事なわけじゃない?私たちはすごく勉強しちゃったからそこは助けてあげたいって 彼はいつも言ってる。
信廣:ここは断崖絶壁じゃない?山肌なんだよね 。そうすると結露が落ちるじゃない。それはねあるノウハウがないとだめなの。
結露を下におろすそういう部材があるんだよね。
それプラスそこにU字溝がないとだめ。家の中にU字溝って信じられないかもしれないけど、家の中にU字溝が必要なんだよね。
山上:それは後からわかって?そうじゃなかったってことなんですか?
千枝:やっぱり そこは甘い部分があったよね。機能していればもっと快適だったっていう。主人が発見したんだよね。
信廣:地下に流れている排水だけはそっからそこまでじゃない?
どこにやるのかが大事じゃない。台所のこっち側とトイレのこっち側とちょうど2本…
千枝:うまく機能してなかったんでしょ?
信廣:図面見ればわかるよね。
山上:施工レべルって、やっぱ究極やってみなければわからないっていうところもあるわけで、もしだめだったらそこはやっぱやり直してその機能が満たすようなことを試行錯誤してやるべきかなといは思いますよね。
私も逆の立場で 知らない土地で古民家組むのは得意だとしても、そういう湿気とか、うちの方は軽井沢よくやるのでそこら辺のノウハウはもってますけども、
これから全国からご依頼が来てすべてのエリアで完璧にできるかというとなかなかそれは難しいかもしれないです。
うまく地元の方を巻き込んでいかなくてはいけないなとおもいますね。
気仙大工の古民家が繋ぐ人
千枝:気仙大工の建物が津波で3.11でほとんど消滅してしまったのよね。
残ってるのはたまたま岩手の箱根山っていうのがあるんですって。
箱根山に津波が起きる前に気仙大工がたてた資料館があるということなのよね。
それは私たちは全然知らなかったんですけど、何かのきっかけでそれがあるという事がわかったのね。
信廣:去年だね、わかっのたのは。
山上:去年ですか?
千枝:たまたま主人が向こうの資料館の方に連絡をしたら、向こうの方もびっくりしているわけですよね。
こっちは箱根に気仙大工の建物がそのままあるというので。
山上:びっくりしますね。
千枝:お互い今は交流しながら。
山上:それはすごいですね
千枝:ちょうど行こうと思ったら コロナがあって、
お互い行き来ができなくなってしまったということなんですよ。
本当にすごいんですよね、気仙大工のこの建物がみんなを結びつけているというところなのね。
信廣:気仙大工は日本3大名工といわれていた藤原氏がずっと追われて東北の方へ行くときに全部連れてきたらしいんですよ。
山上:なるほど。神社仏閣を藤原氏のために、気仙大工が宮大工系の血があるんですかね?
千枝:うちは欄間とかあったんですけど、そういうのあったんですけどそれ
でもね、ちょっとどっかにみんなやられてしまったたから…ほんとはそれも入れようと思っていたんですけどね(笑)
欄間も気仙大工の人達が作るんですよ。それもなくなっちゃったんだよね…
山上:歴史的なものですよね。自然災害などもあるなかでここに来れたということは価値がありますよね。
千枝:コロナが収束するかわからないけれども、落ち着いたらね岩手の人たちがここに来たりとか、私たちが向こうに行ったりとかいうのでね
そういうことの大きな交流の場になればいいなと、そういう気持ちではいますね。
山上:そのきっかけとなるWEB、そのきっかけとなる動画や古木通信ということで。
千枝:古木を愛する人ってさっきも言ったように日本だけでなく、いろんな国の人が大事にしているしね。
山上:そうですね。
山上:山翠舎は住宅がそんなに多くないんですよ。今、住宅の問い合わせも増えてきているんです。もしよろしかったら古民家の先輩を紹介しに連れてまいりますので見ていただいてね、知っておくべきことや 配管注意などアドバイスいただければと考えております。
信廣:日本の30%は平地なんだけど、優位に住もうと思ったら斜面は狙いどころだよね。
熱海はいいところなんだけれども、そのほかに自分で斜面に穴をあけて
杭をさして穴をあけて建てるという方法もあるとおおもうんだよね。
それは割と僕たちがためしたかもしれない。
山上:そういうのはまたほかの方へ普及させていただきたいです。
ZEKKEIを目指す人へ
山上:最後メッセージをお願いいたします。
これから古民家 ZEKKEIを目指す方々に対してメッセージをお2人からいただければ。
信廣:好きなところに好きなように住んでくださいだよね。(笑)
それって奥が深いんだよ。
山上:好きなところをまず探すっていうことですよね。
どこが好きなんだろうって。
信廣:好きなところに好きなように住んでくださいということだよね…
千枝:別に都市に集中しなくたっていいってことになってるもんね。
山上:確かに、確かに。
千枝:楽よね気持ち的にはね。
山上:選択肢が増えてるってことですかね。好きなようにところに関しては
古民家が好きな人が見たり聞いたりしていると思いますので、古民家をどういう形にということですね?移築という一番大変なやり方もあれば、数本だけでもいいかもしれないですよね。
千枝:私そういうのでもいいと思う。浜美枝さんという方は古民家の先駆者なんでしょ?
山上:見たことあります。
千枝:あの方がいろんなところから古材をあつめて、一つの家を建てる、そういう形を作ったわけだから普通のモダンなところに梁だとか柱だとかとかの古木を入れて、空間を楽しむためには必要かもしれないね。
山上:なるほど
千枝:癒されるわよね。
山上:本当にそうですよね。素晴らしいです。
箱根の家/風景写真提供:柴山信廣氏