良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その3

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良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その3

千葉県の棚田保全「鴨川里山トラスト」など、地域創生の“役に立つ活動”を展開する良品計画。地域創生事業に企業は何を見るのか? 同社ソーシャルグッド事業部の高橋さんにお話を伺いました。第3回は地域を動かしていくための具体的な方法、理念の大切さなどについてのお話です。

地域創生プロジェクトの意味。その3

高橋 哲(たかはし てつ)株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部課長代行。
1973年生まれ、埼玉県川越市で育つ。大学卒業後の96年、株式会社良品計画に入社。店舗社員に始まり、店長、家具商品開発、ファニチャーのカテゴリーマネージャーなどを経験。2018年現在、千葉県鴨川市において棚田保全活動や直売所の再生プロジェクトなどを担当し、地域創生のサポートをしている。

生活の技術をもった限界集落の人たち


岩田 和憲(以下、岩田)
高橋さん、生まれはどこなんですか?

高橋 哲(以下、高橋)
僕は埼玉です。ただ親の実家がけっこう田舎の方で。文化的にはあんまりここと変わらないので、僕的にはそんなに違和感があるわけでもなく、すぐここの生活に馴染んでしまったんですけど。
でもここから30分くらい車で走るとほんとに山奥で、限界集落とかがあるんですね。
そういうところへ行くと興味深いのは、その昔、橋が壊れました、水道管が破裂しましたってなると、地域で直していたらしいんです。
近くにお店はないし、役所に頼んでる間はないと。
だからみなさんそういう能力や意識を持たれていて、今でも自分たちで何とかするといった考えが残っている。
その集落で古民家リノベーションがあって、「じゃあどんな内装にしましょうか、どういうふうに変えましょうか」と。リノベーションの案だとか、そういったところのお手伝いをさせてもらったんです。
そのときに「あんまり費用がないのでどうしましょう」と。
「いや、実は俺たちそこそこできるんだ」って言うんです。
じゃあってことで、設計だけ知り合いの設計士さんに描いてもらって、一緒にやったんですね。
そしたら4ヶ月ぐらいでできちゃった。

岩田
へえ。

山上 浩明(以下、山上)
どこまでやられたんですか?

高橋
基本的には内装までなんですけど、中に人が集まれるようになったんですね。土間を残しながら。
そういう感じで地域の人が集まる場所みたいなのも作ったり。
けっこう田舎暮らしはこういうことがあるから面白いなあと思ったり。都会とは違うコミュニティですよね。

多様な人を巻き込み変えていく


山上
千葉の大多喜で、知り合いの方が古民家を改装したんですけど、けっこう地元に受け入れるまでにいろいろあったみたいです。 やっぱり「誰この人? 」ってなるんでしょうね。
良品計画さんは有名な法人なので、もしかしたらやりやすさでは違うのかもしれないですね。

高橋
いやあ、ここでは無印良品の店もないですから、誰もうちのこと知らないですよ(笑)。若い人は知ってるかもしれないですけど、おじいさん、おばあさんはまず知らないですよ。
そこはやっぱり一緒に農作業やるとか、そういうのがないとなかなか難しい思うんですよね。
そこのスタンスはいろいろあると思うんですけど、僕らは、もちろん住民の方ともお話するんですけど、同時に役所の人たちも巻き込んで一緒に話すようにしてるんです。
いろいろな方がいると思うんです。協力的な方、非協力的な方。でも何かをやろうと思ったらそういう方たちも巻き込んで一緒に変えていかないと無理なんです。

山上
例えばどういうふうにして巻き込んでいくんですか? 全員同じ会の場所に呼ぶってことですか?

高橋
それはいろいろですね。
実際鴨川市の場合は、こっちへ移住してきたその数日後には鴨川市役所に行って、お話しをさせてくださいと。
「いろいろこういうことをやりたいんですけど、どうでしょう?」って言って。
そこからスタートしてるんです。
やっぱりだから、意見なりビジョンなりをちゃんと伝えて、「やりたいんです。一緒にやりませんか?」っていうところから始めてく。何がやりたいのか、どうやりたいのか、どう変えたいのか。
理念的なものも含めて話していったことで、結果的にうまくいってるのかなぁって。

山上
結果どうなったっていうことですか?

高橋
直売所にかんしては、費用もかかるのですぐに動けるわけではないんですけど、そこから半年ぐらい話してるうちに、いろんなタイミングが合わさってできるようになったんです。
たぶん、最初に理念を伝えさせてもらったことで、どこかでみなさんの頭の片隅に入っていて、タイミングが訪れたときに「あー、あの話があったな」ってなって、うまく繋がったのかなって思うんです。

横展開は可能か?


山上
横展開は考えられているんですか?

高橋
もちろん、横展開っていうのも考えられますよね。
ただ、やっぱり思うのは、各地域課題感が似ているようで、その土地その土地で違うので、横展開しようにも一回、一回やり直しというか、そういう流れにはなるのかなと。
たまたまここ鴨川の場合は地域産品がたくさんありますけど、そういうところばかりではないと思うんですね。なので一個、一個、それぞれの地域で見つめ直してやっていくことになると思うんです。
でも僕らはあんまり業態を広げるっていうつもりはなくて。たぶん小売業の使命なんですよ、道の駅とかをやるのって。道の駅の7割は赤字なんです。正常に成り立っているところってほとんどないんですよ。
なので、それをなんとかするっていうのが我々のような小売業の使命なんですよね。僕らのノウハウを使ってそれができるかどうか、そういうチャレンジなんです。
こういうことにはビジネス的な側面もあるんですけど、単にビジネスだけでやってると、いずれ他の会社に追いつかれる。
そうでなくて、理念的なところも含め、なかなか流されない我々独自の世界をやらなくちゃっ、ていうところです。


岩田
今日はありがとうございました。

これで良品計画、高橋さんとのお話はお終いです。
お読みいただきありがとうございました。

取材:岩田 和憲、山上 浩明
構成:岩田 和憲
写真:岩田 和憲、酒井 香菜子

この記事のライター WRITER

岩田和憲

グラフィックデザイナー。言葉と写真もデザインも同じものとして扱っています。元新聞記者。元カメラマン。岐阜県出身。 https://www.iwata-design.com/