「オーガニック食品は高いか?」ナプレ中村雅彦さんに訊く その1「食育にすべてがある」

「オーガニック食品は高いか?」ナプレ中村雅彦さんに訊く その1「食育にすべてがある」

ピッツェリアの「ナプレ」をはじめ、東京・青山を中心に6店舗のイタリアンを経営する中村さん。日本でいちはやくオーガニックの考えを取り入れ、食文化の再考と実践をしている。そんな中村さんと話す、食の今。第1回は、家族で紡ぐ食育の話です。


その1「食育にすべてがある」

中村 雅彦(なかむら まさひこ)
1957年、東京都生まれ。株式会社ベラヴィータ代表。
80年、成城大学経済学部卒業。87年、スキーの指導法を学ぶためイタリアへ。帰国後、イタリア語教室「ベリタリア」を創立する。95年、イタリアンの飲食事業をスタート。2013年、いちはやくオーガニック食材への移行を開始し、15年、「ピッツェリア・トラットリア ナプレ」が日本初のオーガニックレストラン認証を獲得。化学で管理される食文化に警鐘を鳴らし、自然本来の食文化を発信している。

実はイタリアも木の国?


岩田 和憲(以下、岩田)
イタリア建築っていうと一般的に石のイメージがあると思うんですけど、今回このイタリア料理店(ピッツェリア・トラットリア ナプレ 南青山店)を改装するにあたって木、それも日本の古民家の古木を使いたいと思われたのには、どんな理由があるんですか?

中村 雅彦(以下、中村)
まず、僕にはイタリアに石のイメージがないんです。
どちらかというと、イタリアは木のイメージなんです。

岩田
どういうことですか?

中村
イタリアの家は確かに壁は石で造ってます。でもそんな石造りの家でも屋根は石だけでは作れない。そこにはやっぱり無垢の木の梁があって。
石だけで造ると、例えばアルベロベッロみたいにドーム状の屋根にしていかないとできないんですよ。
なのでイタリアの古くからの建物っていうのはね、木がたくさん使われてるんです。どこの家へ行っても屋根を見れば、必ずこういうふうに木が使われているんです。

岩田
まさにこんな感じなんですか?

中村
こんな感じなんです。
今は場所を変えて移築してますけど、1996年につくったレストラン、「リヴァ デリ エトゥルスキ」、その初代は、けっこう昔に建てられた古民家を借りてそれをレストランにしたんです。

岩田
ああ、そうなんですね。

中村
残念ながらそのレストランは今は残ってないんですけど、その古民家で一軒家のレストランを作ろうと天井を剥がして綺麗にしていったら、まさにこういった古木で作られた梁が出てきた。
それで僕、すぐに作戦変更して「これ、絶対に壊さないで、変えないで」って言って。

岩田
どこにあったお店ですか?

中村
南青山です。
今の「リヴァ デリ エトゥルスキ」の隣です。

岩田
南青山に古民家があったんですか?

中村
古民家があったんです。

岩田
いいですね。

中村
ここもそうですけど、レストランっていうのはやっぱり一軒家なんですよ。
一軒家のレストランっていうのがいちばん素敵なんですよ。

家族で食事をすることの大切さ


岩田
「イタリアの食卓には幸せになるヒント、哲学みたいなものがある」って、中村さんがおっしゃってるのを記事で読んだんですけど、

中村
はいはい。

岩田
今の話もそうですけど、家というか、食卓を作りたいというイメージが中村さんにはあるんですか?

中村
何ていうのかな、ほんと人間って1日3回、1年で1000回くらいの食事があって、食事をしないでは生きていけない。人間は食べたものによって作られてるわけですから。
で、食育という言葉があって、昔の日本はそうだし、今でもイタリアにはあるんですがね、やっぱり食事の場って、まず家族のコミュニケーションの場じゃないですか?

岩田
そうですね。

中村
だから僕が子どものころは、夕食は絶対に家族全員が揃って食べてたし。

岩田
それはお父さんが中心になって?

中村
そうですね。
で、「今日、おまえは何があったの?」っていろんなこと訊きながら。
まあ、あの時代は親とあんまり気軽に話もできなかったですけど、必ず家族で食事はする。
あと月に何回かは、おじいちゃん、おばあちゃん、親戚一同集まってとかね。そこでいろんな話を聞いたり。たぶん田舎のほうはまだそういうのがある。
そこで出てくる料理っていうのは必ず家族の誰かがつくった料理で。

岩田
そうですね。

中村
ケータリングなんかしないですし。
そこで「お米はお百姓さんが作ってくれたから残しちゃダメよ」とか「料理はお母さんが作ってくれた、だから残しちゃダメよ」っていうことを学ぶ。
これだけでも食育ですよ。

岩田
食材とか人とか、いろいろな縁があるっていうことですね。

中村
そう。
どこかのブログで見たけどね、母親と子どもが食事中に食事を残す残さないで喧嘩になった。
「せっかくわたしが作ったものを食べれないんだったら、出て行きなさい」って母親が言ったらね、「問題ねえよ、コンビニがあるもん」って子どもが言ったっていうね(笑)。
だから今はそういうようなことがあるんですけど、食卓っていうのは食育の場で、それが家庭の中からなくなってきてる。
家族が食事をする時間、家族の誰かが作った食事を食べる時間。それがなくなってきた。

岩田
そうですね。

中村
イタリアの場合は、そこがまだ、

岩田
あるんですね?

中村
あるんです。
僕はイタリア人と家族をもった時代がありますから、イタリアの家、つまり前の女房の家ですけどね、必ずお父さんがきてから食事する。で、料理は家族の誰かが作ったもの。
もうこれが、ルールというより常識ですね。
なので、そういう話と、古木のような古いものを大切にするっていう話はつながってる。

岩田
そうなりますね。

中村
古木を大切にするっていうことは自然を大切にするっていうことですから。
木材が必要であっても、古木を使えば新しい木を伐採しなくて済むじゃないですか。

岩田
ええ。

中村
これはすごく大事なことなんですよ。

岩田
おそらく昔の人は、ずっと長く使うつもりで伐採したわけでしょうね。

中村
そうでしょうね。
江戸時代の素晴らしさはね、関所の中でいろんなことがコントロールされてた。もちろん異分子が入ってこないようにするという目的があるけど、それ以外の目的に、樹齢の若い木が持ち運ばれそうになるとそれを取り締まってた。

岩田
へえ。

中村
江戸時代は樹齢の若い木を切ってはいけなかった。でもその時代の家屋はほとんど木でしょ。だから木材は必要だったわけですよ。でも、きちっと育てて年輪を重ねた木を使いなさいっていう指導があったんですよ。
それはもしかしたら、古木も使いなさいっていう意味もあったのかもしれない。

岩田
なるほど。

中村
だから、「この木はどういう木なんですか?」って言ったら、そこには歳月がある。しかも古木は昔の林業や大工さんによる、手間ひまの象徴ですよね。そういう手間ひまをかけたものは世界で一つしかないですよ。本当は野菜もそうですよ。模造やコピーはできないですよ。
だからそこに独特の自然、あたたかさや面白さ、喜びを感じる。
だけどそれは、「そういうことを感じられる人間が感じられる」ということなんですよ。

岩田
うん。

中村
それを感じられる人間になるには、小さな子どものころからの食育、親との接し方なんですよ。
それはテーブルの中にすごくある。
だからぜんぶ、さっきの話と繋がるんですよ。

失われていく食育


岩田
イタリア料理、飲食という仕事をされてますけど、自身の仕事をそういうメッセージとしてやられている部分があるってことですか?

中村
もちろんですよ。
食事っていうのはすごく大事。僕らは食べないと生きていけない。これは当たり前の話で。
ということは、食べ物によって人間の考え方も変わるんですよ。体型も変わるし健康状態も変わるし。食べ物ってものすごく大事なんですよ。
もう一つは、食べ方って大事なんですよ。

岩田
うん。食べ方。

中村
いちばん大事なことって、「残さない」ってことじゃないですか?
今残したとしても、明日食べる。持って帰ってあとで食べる。
「捨てない」っていうことがすごく大事じゃないですか。

岩田
すごくわかります。

中村
だから、食育なんですよ。
食というもののなかに、人間を正しく成長させる教育要素がたくさんある。子どもが大人になるまで学んでいくことって、食事中に学ぶことがたくさんあるんですよ。
姿勢を正して座りなさい。そこはお父さんの席。そこはお母さんの席。君はそこに座っちゃダメだよ。人間としてのいろいろなマナーを学ぶでしょ。肘をついちゃダメですよ、

岩田
ああ…それは僕、さんざん母親に言われました。

中村
そうでしょ。
イタリアだったら、ナイフ、フォークはこう使いなさい。パスタを食べるときに音を立てない。それで人間社会のマナーとルール、どんどん食事中に学んでいけるんですよ。
それに食事っていうのは家族だけでするものじゃないから。
「食事の仕方が汚いやつはだいたい育ちがわかる」ってよくいうじゃないですか。
変な言い方だけど、でも、これは当たり前の話なんです。

岩田
そういうのは、ありますね。

中村
人間っていちばん大事なのは感じることなんですよ。
感じることと、感じようとすることなんですよね。
子どものころからのいろんなことによって、感じようとする人間、感じられる人間になれるかなれないか。これがいちばん大事なんですよ。そういうものが食卓にある。

岩田
うん。


次回へ続きます。

> その2「食文化の汚染」

この記事のライター

新聞記者からカメラマンになって、フリーのデザイナーに。
なぜかこのサイトの編集長も。

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