掃除屋 名畑雄司さんに訊く「食いっぱぐれない生き方」後篇「ゴミ屋敷の清掃」

掃除屋 名畑雄司さんに訊く「食いっぱぐれない生き方」後篇「ゴミ屋敷の清掃」

古木を使った数々の店舗で掃除を担当してきた、名畑雄司さんのお話。後篇は、数々の清掃現場でもちょっと強烈だったゴミ屋敷の話など。


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後篇「ゴミ屋敷の清掃」

名畑 雄司(なばた ゆうじ)
CLEAN FIGHT SERVICE 代表。1972年東京都生まれ。
20歳で清掃会社に掃除のバイトで入る。その数ヶ月後には同社専属の清掃下請けを始める。23歳で独立。ハウスクリーニングならハウスクリーニングと細分専門化しがちな清掃業の世界で、店舗から施設、住宅、マンション共有部まで、幅広い分野の清掃を手がけている。

「やるかやらないか」だけ


岩田
清掃業って、今はどんな状況なんですか?

名畑
人の生活の一部だから変わらなくあるんですよね。人間が動いてる以上、何してても汚れるじゃないですか。
だから、なくならない商売っていうのと、あと今、ハウスクリーニングっていうのが当たり前になってきましたよね。昔は、家がお掃除を外に頼むって特殊なことだったじゃないですか。富裕層だけのものだったのが、そうでもない感じになってきてるんで。
だからしばらくはいいんじゃないですか。
ただ、いろんな大手もいっぱい参入してきてるから、その奪い合いというか。

岩田
なるほど。

名畑
でも結局は、その人がちゃんとやるかどうかだからね。
大手に頼んでも担当者が毎回ころころ変わって、あんまりよくない、とかっていうのもあるし。
あるお店が、大手の清掃会社に床掃除を頼んだらあんまりよくなくて。で、何回かやり直しをさせたけど、あまり。
「なんとかならないですかね?」って、俺のところに連絡が来て。
で、やったら喜んでくれて。

岩田
それって何が違うんですか?

名畑
あのね、別に何も違わないんですよ。
たぶん、途中でやめちゃうんですよね。

岩田
途中でやめちゃうんだ。

名畑
こんなもんだろうっていう逃げがあるっていうか。
「いやあ、もうこれ以上は無理ですねえ」とか、ごまかしちゃうっていうか。
そこ、最後、あとちょっと頑張れば綺麗になるのに、そこまでやってなかったりとか。
突き詰めてなかったりとかするんですよ。

岩田
ふんふん。

名畑
そうすると何だか中途半端な仕上がりになって、「これじゃあなあ」っていうふうになっちゃうんです。
そこをやるのとやらないのとでは、ぜんぜん違うから。
だから、「やるかやらないか」だけなんですよ。

岩田
時間はかかりますよね。

名畑
時間と手間はかかるけど。
でも、手間かけないと綺麗に仕上がらないので。

岩田
それは名畑さんの中で納得いかない、みたいな?

名畑
いや…まあ、それもあるけど、お客さんが綺麗にしたいと思ってるんだから、そりゃあ綺麗に。
めいいっぱいここまでやらないと綺麗にならない、っていうところまでやらないと意味がないので。

岩田
うん。

名畑
ただ、その求めるものがお客さんによって違うので。
「そこそこの値段で全体的にふわーっとやっといてくれればいいよ」「一日で仕上がる程度にやっといてくれればいいよ」っていうのもあれば、「ここ、とにかく真っさらにしたい」って言われれば、とことんやりますし。

岩田
どっちの仕事が好きですか?

名畑
どっちもどっちじゃないですか。

岩田
デザインも似てるところがあって。「そんなに高いお金は払えないから、ちゃちゃっと作ってくれればいいよ」みたいな。
そうは言われても、わりにやってしまう、

名畑
そこなんですよ。「そうはいってもこれこのままじゃあダメだろう、もうちょっとこの一手間やっておこうかな」とか、

岩田
なっちゃうんですよね。

名畑
自分の中での、そういうのはありますよね。
結局、大手だからっていうこともないんだろうな。その作業を担当した人がそういう判断をしたというだけですよね。「いや、もうこのへんでいいよ。もうあとは、ここまでです、って言うよ」「お客さんに説明すりゃ大丈夫だよ」とかって逃げたっていうだけのことで。
そこを大きい現場でも小さい現場でも、ある程度やってれば、また呼んでもらえるし。
だからそのお店もね、気に入ってくれて。「ほかの場所、厨房やエアコンなんかもお願いしますね」ってなって続けさせてもらってるんで。

ゴミ屋敷 その1


岩田
機材にどんどんお金かかるようになってきたりはしてないんですか?
だんだんいろんな技術が発達してるじゃないですか。

名畑
あのね、基本、そんな難しいことはないんですよ。
薬がちょっと特殊なものがあると高かったりしますが。
機械っていっても、そんなに凝ったものはないですね。
そうですね、よっぽど特殊な高級絨毯の染抜きがどうとか、そうなってくるとちょっと凝った道具が必要だったり。
大理石を磨くってなると、大理石を磨く用の機械があるんですよ。一台100万、200万する。

岩田
ああ。それは特殊事例で?

名畑
そういうのは、そういうのに特化してる会社があるんですよ。
僕はそういう難しいのは請けてなくて、わりとシンプルに。

岩田
この現場は強烈だったなっていうのはあります?

名畑
ありますよ。ゴミ屋敷とかね。

岩田
お家の人から頼まれたんですか?

名畑
そうですね。ハウスクリーニングで普段からゴミだらけにしてるお家で。

岩田
どういうこと?

名畑
住んでいるお家のお掃除、2ヶ月に1回とか行くような。
汚しっぱなし、散らかしっぱなしの人なんですよ。

岩田
掃除はハウスクリーニングに頼むっていう前提で、散らかしっぱなしの生活をしてる人がいるっていうことですか?

名畑
そう。
すごいんですよ。
ジップロックの中に、ひき肉だったかな。見たらもう半分ぐらい液体になってるんですよね。

岩田
ああ…。

名畑
中にコバエがいっぱい飛んでて。

岩田
ジップロックの中にコバエが飛んでるんですか…?

名畑
どこから入ったんだろうね。
賞味期限のシールを見たら1年ぐらい経ってて。
そういうの平気で床にボンって置いてあったりとか。
いろいろな臭いが、強烈なんですよ。

岩田
でも家主はそこで生活してるんですよね?

名畑
そうなんですよ。お年寄りの方で。

岩田
ふう…

ゴミ屋敷 その2


名畑
あと誰もいなくなって、四畳半のアパートにゴミが山積みになってるところの片付けをしたりとか。
部屋中ゴミ袋で、天井から50㎝くらいの高さまでザーッと積まれてるんです。

岩田
ああー…そこには生活してる人は?

名畑
もうアパートを出てって、その人は。

岩田
(笑)

名畑
で、その人は出ていったあとに亡くなったかで、それで片付けなきゃいけないってなって。
2トントラックで3回往復したかな。
大工さんたちと3人がかりでゴミ出しして。

岩田
へえ…

名畑
山積みになってるゴミのいちばん上に布団が敷いてあって。

岩田
あっ、てっぺんに布団が敷いてあるんだ(笑)

名畑
で、だんだん片付けていくうちに、1、2時間くらいしたら、また途中の層で布団が出てきて。

岩田
また出てきたんだ(笑)

名畑
ミルフィーユみたいに(笑)

岩田
ええー…
ゴミのために布団はその都度買い直してるんだ…

名畑
そう。結局布団がね、3層ぐらい出てきた。

岩田
(笑)

名畑
和室なんですけど、最後そのゴミを全部どかしたら畳が5㎝くらい下がってた。

岩田
へえ…

名畑
ゴミの重みで。
途中でネズミは出てくるし、

岩田
ああ…

名畑
いやあ、すごかったですよ。

岩田
すごいですね。

名畑
すごい現場はいっぱいありますよ。

だから、「やるかやらないか」だけ。


岩田
「なんでそうなるのかな」って考えたことあります?

名畑
あんまりね、考えてもしょうがないんですよ、そこは。
いろんな現場に行って、お店とかもね、なんでこんなになっちゃうのかなって。
すごいんですよ。ほんとに。厨房の中とか。ドロドロなんですよ。
こんなんでよく営業してたね、って。
今日の店なんてまだぜんぜん綺麗なほうで。

名畑さんと2人でインタビュー前に立ち寄った「今日の店」、クリーニング前の状態。

これでも「まだぜんぜん綺麗な方」だと…

そしてクリーニング後はこんな感じに。

岩田
結局、廃業してってことなのかな、だいたいは。

名畑
そうです、だいたいはね。
「こんなんだから潰れちゃうんだよ」とか、みんなね、よく言うけど。
でもね、別にそんなんでも潰れない店はあるし、やってるとこはやってるじゃないですか。だからそういうことでもないし。
結局、どうしてこうなるのかなとか、あんまり考えてもしょうがないっていうか。
掃除屋としては「やるかやらないか」だけなんですよ。

岩田
うんうん。

名畑
僕、よく訊かれるのは、「ウチでもお掃除されるんですか? 綺麗にしてるんでしょ」とか。
でも違うんですよ。
いっさい違うんですよ。

岩田
(笑)

名畑
ひどいんですよ。

岩田
そうなんだ。

名畑
だらしないんですよ。
車の中もぐちゃぐちゃだし。

岩田
(笑)

名畑
だからねえ、綺麗好きな人がお掃除屋さんになるわけじゃないんですよ。
「やるかやらないか」だけなんですよね。

岩田
だから「やるかやらないか」だけなんですね。

名畑
やらなきゃいけないんですけどね。
ある程度きれいに整えておかないとね、風水的にも(笑)

岩田
これからはどういうふうにやっていこうとか、そんなこと思われてます?

名畑
食いっぱぐれないようにやるだけですね(笑)
まあでも、こんなこと言ってますけど、「それで誰かのお役に立てれば」とはいつも思って仕事してますので。目標も特技も何もないんですけど、そんな自分にも出番があるのはありがたいし、誰かが喜んでくれて、役に立てればなと。

岩田
今日はありがとうございました。


これで名畑さんとのお話はおしまいです。
お読みいただきありがとうございました。

取材・構成・写真:岩田 和憲

この記事のライター

新聞記者からカメラマンになって、フリーのデザイナーに。
なぜかこのサイトの編集長も。

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