「古木でつくる新しい経済」山翠舎 山上浩明さんに聞く その3

「古木でつくる新しい経済」山翠舎 山上浩明さんに聞く その3

古木をフックに利益をつくり、人の繋がりをつくり、経済圏を生み、一つの世界観、価値観を投げかける。そんな新しい挑戦をつづける山上さんのインタビュー。最終回となる第3回は、古材ではなく「古木」と定義した理由とその戦略、そのビジョンなどのお話です。


< はじめから読む(山上さんのプロフィールはこちら)

古材ではなく、古木。

山上
少しずつ山翠舎もやれる範囲が広くなってきてますけど、キーワードとしては、なんだかんだいって、古木で商標をとれたのが大きい。
「山翠舎」という名前より「古木」という名前。

とにかく「古木を使っていい世界をつくっていきたいな」と思っているんですけど、「じゃあ、いい世界って何?」っていう話になる。
「古木を使っていいことしてます」と言ってても、それは偽善というか…

岩田
ええ。

山上
じゃあなんなの?
リアルなところで言ったら、「関係者の仕事が増える」っていうことになるじゃないですか。
いくらいいことしても、それでお金が発生しないなら食べれないじゃないですか。
そこに一役買う存在にならないといけないなと。
だから古材じゃなくて古木*っていう定義にして、付加価値をあげる。

*古材じゃなくて古木 … 山翠舎では、あくまで材料としてのニュアンスが強い「古材」という言葉に対し、往時の職人の痕跡や生活文化を記憶したストーリー性のある文化的財産として「古木」という言葉を定義している。

山上
既存の古材を売ってる業界って、このあたりどうなのかっていうと、ワンプライスっていうわけですよ。要するに「これは一本3万5,000円です」と。
直取引でワンプライスをやってると、間に誰も入れないわけですよ。
そこを「1本5万円です」と。
でも山翠舎は3万5,000円でいいんですよ。
間に入ってもらった人に1万5,000円、儲けてくださいと。
そうすると、間に入った人もハッピー。
お客様は5万円で高くなるけど、そのぶん利益をエンドユーザーさんからたくさんもらいましょう。そういう発想で、5万円は安くはないけど高くはない。
古木でそういう世界観をつくろうと今してるんです。

岩田
山翠舎で買うと高くなるんですか?

山上
山翠舎から直接買うのは安いんですよ。
でも直には売らずに、関係者、周りの人が儲かる仕組みにした方がビジネスは広がるっていう逆転の発想をしてるんです。

岩田
なるほど。

山上
だから「高いか安いかっていうのは、何なのか?」っていう話になるんですよ。
例えば今日見てきたお店の古木、8mありました。あの古木を、わかりやすく100万円だとしましょう。
そうすると「高いですよ、100万円もするんですか?」と言われます。
でもなぜかというと、「古木です。千曲のしかじかの歴史を持つ家から入手してきた古木です」と。
入手地もストーリーもわかっている古木です。
しかも、世の中、長さが8mでこんな太い古木は世の中にそうそうありません。
それで100万円というわけですよ。
施工業者さんの視点では、「新材で8万円ぐらいで買えるのに」っていうわけです。
でも物の値段って、高いか安いかっていうのは感覚的なものなんです。
一般の人が見たら「これ、100万円ですよ」「なるほど」みたいな。

岩田
ええ。

山翠舎が施工した旅館「竹林庵みずの」

山上
「確かにこれ、いいですよね」っていう話なんです。
そうなると100万円になるわけですよ。
これがチープでひょろひょろなものだったらダメですよ。
確かに立派なものだったら認められる、という話で。
その世界観で古木をやっていけばいいと思ってるんです。
そこで「高い、安い」の疑問を生み出さない。
そういう世界観を作っているところです。
「それでも安いのがいいですよね」って言う人には、古木ではなく古材でいいんだと思うんです。
入手地もわからない。もしかしたら自殺した人の古民家から来たものかもしれない。
結局、こういうやり方をやっていくとみんながハッピーになるんですよ。
値段が高いか安いかで苦労していると、全員はハッピーにはならないです。
ここで頑張って売れば、関わる人たち、古民家の持ち主さんも、みんなハッピーになれるわけです。

古木のトレーサビリティ

岩田
実際、材木に出自を記録して物語をつけているのは、

山上
うちだけです。

岩田
そうなんですね。

山上
うちだけだし、2006年当時、古木の新規事業を始めた時にそこを大切にしようというコンセプトはもうできてたんです。そこは他とは違ってたんです。
ただ単純に「古い木がありました」ではなく、「近くの小学校から来たものです」っていう。
そうしたら「なんでここにこのテーブルを使うんですか? なんでこれは、この木なんですか? そうした意味をどれだけ加えられるかが建材選びにとって大切である」っていう考えを展開しているある大手飲食店さんから、問い合わせがきたんです。古木のトレーサビリティをやっていた山翠舎がヒットしたわけです。

岩田
そういうのは発信していたんですか?

山上
Webサイトに書いておいたんです。
Webに書いておけば、見ている人は見ているんですね。

岩田
うーん、なるほど。

古木で皆が笑顔になる

岩田
今も古木がゴミとして棄てられていっているっていうのは、大多数の現状なわけですよね?

山上
そうですね。

岩田
それが、山翠舎さんの施工事例で、特に東京の方でおしゃれな内装みたいな感じで、すごく逆転してるわけじゃないですか。

例えばこんなお店(イタリア料理店「センプリチェ」)や

こんな和のお店(和食「旬・膳・燗 はせ川」)や

こんな個性的なバーにも(「BOOK&BAR 余白」)

岩田
ゴミとして捨てられてる古木が、こうやってかっこいいものになる。
古木の事業をはじめたとき、そのことに気づいていたわけですか?

山上
気づくという意味からすると、1990年に遡ります。

岩田
ああ…オクトパスアーミーを施工したときから。

山上
古材を使ってかっこいいお店を作ってましたから。
そのときにもうかっこよくなってる。
だからそんなね、理念的に「廃棄物を活かして社会にも自然にもいい」みたいな発想は、当時はなかったんです。
ただたんに「もったいないよね」っていう。

岩田
金銭的な意味での「もったいない」ですね。

山上
そこにあって、売れるのに、捨ててる。それはもったいないよね、と。
でも、こんな時代にもかかわらず、いまだに解体業者は廃棄してるんですよ。
面倒くさいから。私のいちばん嫌いな言葉が「面倒くさい」ですから。
重機でガチャっとやればすぐ壊せるのに、古木を傷つけないように壊すとなると、手間がかかる。5時に終わるはずだった作業が6時までかかることになる。
でもオペレーター(重機の操縦者)に一升瓶を持っていって、「丁寧に解体してくださいよ」みたいに言うと、「しょうがねえな」みたいな。

岩田
一升瓶でいけるんだ(笑)
すいぶん古いコミュニケーションが成立してるんですね。

山上
そうなんですよ。
解体業者さんって、解体が主たる事業じゃないですか。解体することに対してネガティブな要素がまったくなく、そこにそんなに感情がないんですよね。
こんないい家、もったいないじゃないですか、っていう発想がほぼゼロなんですよ。

岩田
解体コストはあがるわけですよね?
丁寧にやる必要があるから。

山上
古民家があります。これを解体するのに300万円で契約しました。
解体業者はどう考えるかといったら、人を何人現場に入れて、重機を何日使って、トラックは何台必要で。
これしかないんですよ。
それが古木を傷つけないように解体してもらおうとすると、人が増えます。重機も増えます。
でもトラックは減るんですよ。
なぜなら、私たちが買い取るから。

岩田
じゃあ解体費はそんなにかわらないっていうことですか。

山上
むしろ山翠舎でやる場合は250万円で、下がるんですよ。
今度松本で古民家を解体するんですけど、それは495万。最安値で受注しました。
というのも、その古木を使わせてもらうわけですから。
そうやって解体費を山翠舎が請け負うことで、古民家の所有者が今まで解体費をかけてマイナスになっていたところを、ゼロ円に、さらにはプラスにしていきたいんです。
そのためには、そうやって解体された古木を購入した事業者が、さらに儲かるモデルを作らないといけない。
事実、そういう事業者が増えてkoboku倶楽部に入会してくれているわけですよ。

岩田
はい。

山上
古木で皆が笑顔になる。
これが山翠舎のビジョンですから。
「皆」って誰のことですか? っていうと、社員、大工さん、職人さん、家族、プラス地球。
このビジョンをやるには、古木を使ったら商売がうまくいく、っていうのが大切ですよね。
でも商売がうまくいくかどうかは紙一重の世界ですから、単純に古木を使えば100%うまくいく、というわけではない。
「きれいに清掃されているお店はいいお店」と同じ理屈です。
つまり、古木を使いたいと思うその人の価値観や気持ちが大切なんですよ。
古民家を大切にすると商売もうまくいく可能性が高い。
そうだとしたら、それは古民家を使ってるから、ではなくて、古民家を大切にしてるからうまくいく、という理屈です。

岩田
ええ。

山上
稲盛和夫さんの、人生30年スパン説って知っていますか?
30年でしっかりと結果がでるという話なんですけど、逆に良くないことをしている人は、自分には返ってこなくても、子どもや孫に顕れてしまう。
そういうふうだから、古木を使ったお店のオーナーさんには商売がうまくいってほしいので、koboku倶楽部をつくったわけです。
koboku倶楽部でセミナーを開いたり、成功している人に話を聞いたりして、商売がうまくいくための価値観とか気持ち、ノウハウがみんなに共有されていく。
実際、新しい木よりも古い木の方が居心地がいいのはまず間違いないわけです。
居心地のいい空間をきっかけとして、どうやったら商売がさらにうまくいくようにできるか。
そこに古木が一役買っているわけです。

岩田
うん、いろいろ繋がりますね。
今日はありがとうございました。



これで山上さんとのお話はお終いです。
お読みいただきありがとうございました。

この記事のライター

新聞記者からカメラマンになって、フリーのデザイナーに。
なぜかこのサイトの編集長も。

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