トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その1

トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その1

南イタリアでオリーブの古代種を無農薬で育て、エクストラバージンオイルとして日本に届けているトレリさん。彼ら親子が語るオーガニックの考えは、美味しいものを食べたいという「人間的な欲望」より手前に、自然や土地への敬意、「人間を超えたものへの感覚」があります。 オーガニック先進国といわれながらなお課題を残すイタリア農業の現状。一人の人間が故郷を愛する心。僕たちは何を失ってきたのか? そして何を取り戻そうとしているのか? 農業を切り口に、人のルーツに触れるインタビューです。


カタルド・トレリ(Cataldo Torelli:写真右)
株式会社トレリ代表取締役。
1957年、イタリアのコラート市にて、皮革販売業を営む家に生まれる。85年、後に妻となる恵子さんを訪ね日本に移住。同年、株式会社トレリを設立、イタリア皮革製品の輸入販売業を始める。2003年、故郷イタリアに74ヘクタールの農地を買い、オリーブの無農薬栽培とオリーブオイルの生産に着手。09年には古代種アーモンドの栽培もスタートさせる。生産から輸入販売まで行い、自然と折り合う農業のあり方を実践している。
トレリ・ルカ 佑樹(Luca Yuki Torelli:写真左)
株式会社トレリ取締役。父は同社代表のカタルド・トレリ。
1990年、福岡市生まれ。中学卒業まで日本で育つ。英国マンチェスター大学経済学部卒業後、ロンドン経済大学修士を経て、日本航空ロンドン支店に2年勤務。2017年、日本に戻り、株式会社トレリに入社。同社では主に営業と販売を担当し、イタリアの皮革服飾文化と食品の魅力を伝えている。

農家のスピリット

岩田 和憲(以下、岩田)
もともとトレリ家っていうのは代々の農家さんなんですか?

カタルド・トレリ(以下、カタルド)
そういうわけでもなくて、南イタリアはだいたいどこの家庭も本業がありながら農業をやっていて、ワインとかオリーブ、果物、そういうのを作ってるんですね。
母方のおじいちゃん、おばあちゃんは農業が本業でしたけど、トレリ家は皮鞣しの工場をやっていて。私はその三男なんです。
幼いころ、農家だった母方のおばあちゃんによく畑に連れて行ってもらいました。「種はどうやって埋めるのか?」「夏になったらどうブドウを剪定するのか?」、そういうことを教えてもらったんですね。
幼い私にはそれが遊びだったんです。それで、そういうことが自然と好きになっていったんです。

岩田
素敵な話ですね。

カタルド
だから今でも農業を仕事として考えてないんです。日本でいえば、ゴルフを好きでやってる人みたいな(笑)。
農業は、私が愛情とこだわりをもってやってることなんです。木が元気で幸せなのを見るのが、一番の喜びですね。
南イタリアの夏は乾いてるので、うちの場合、地下にパイプを通して80㎝おきに少しずつ水が出るようにしているんです。そうすると次の日に新しい若葉が出る。花が咲く。そんなふうに木がレスポンスするのを見るのが、とても楽しいんです。
私にとって農業というのは、そういうスピリットなんです。

農地を買う

トレリ・ルカ 佑樹(以下、ルカ)
今管理してる農園っていうのは、今の代から始めた農園なんです。
もともとトレリ家で持っていた農園はあったんですけど、家から遠くて、しかも1ヘクタールくらいの小さな土地で。でもおじいちゃんには本業もあったし、遠いのでなかなか行けなくて管理もできない状態だったんです。
そこを売り払って、ちゃんと管理できるところに土地を、

岩田
国立公園ですよね?

カタルド
そうですね。

岩田
国立公園の中に土地を買えるんですか?

ルカ
正確には隣接地ですね。

カタルド
国立公園の中でも買えることは買えるんですが、耕すことができないんですね。
そこにオリーブがあればそのオリーブのとおりでやるしかない。変えることができない。剪定もできないんです。

ルカ
国立公園の場合、所有と収穫はできますけど、その環境を変えるっていうことができないんです。ぎりぎりその境界線のところにあるのが、私たちの土地ですね。

岩田
つまり環境としては国立公園と一緒なんですね?

カタルド
そうです。大きな道路とか工場とかは周囲にはないですね。

国立公園の隣接地にあるトレリさんの農園 ©Torelli Co.,Ltd

ルカ
ほかの農家さんも周囲にいないですからね。
小さな土地でほかの農家さんに囲まれているところだと、こういった丘の続く坂の多い土地柄なので、いくらうちが有機でやってても農薬が水で流れ込んできたり、そういうことが考えられたり、

岩田
なるほど。

ルカ
あと、水源が地下水ですから、近くの農地で農薬を使っていると、自分たちが使っている水源にもまぎれこむことも考えられますし。
そういうリスクをできるだけ排除した場所ではあると思います。

岩田
完全無農薬っていうのはいつごろから始められたんですか?

カタルド
土地を買ってからだから、2003年からですね。
私に言わせれば、イタリア人はお母さんが大好きな民族なんです。母が子どもに食べさせるものには、ケミカルなもの、変なものはつけない。そういう愛情があるから、私にとって無農薬は当たり前だという考えなんです。
今の土地を自分で購入したのは、完全に無農薬でやろうと思ったからなんです。
でもやはり、5年はかかりますね。

実はイタリア人も知らない、エクストラバージンオリーブオイルの味。

岩田
なぜ土地を買ってまで無農薬をやりたいなって思われたんですか?

カタルド
私の本業はアパレルですが、作る側ではなくてディストリビューターなんです。ブランドづくりをして、販売する。
イタリアのアパレルも古い伝統を持っていて、本当にいいものがあるんですね。
初めて日本に来たとき、イタリア人として、日本にそういうものを紹介したいと思ったんです。
それでうちが販売先になって、いくつかのブランドを日本に持って来て、いくつかは売れるようになったんです。でも、イタリアのメーカーが作れなくなったりとか、私たち以外のところでいろんな問題が起きて続けられなくなるときがあるんです。
だったら、作るところから100%責任を取れるようにして、日本のお客さんに紹介したいなと思ったんです。
私は農業が趣味なので、土の力で作物をつくり日本に届けるまで、すべてにこだわりをもってやれば安定性のある商売になるはずだと思ったんですね。
流行に乗って一度に売るというやり方ではなくて、いいものを作って、お客さんに信頼してもらって、定期的に買おうと思ってもらえる。そいうふうにしていけたらと思ったんですね。

トレリさんの農園に実るオリーブ ©Torelli Co.,Ltd

ルカ
そう言いますけど、そもそも農業を始めたころは商売は考えてなかったですよね。
日本で生まれた私にとっては南イタリアは異国の地ですけど、代表にとっては生まれ育った故郷。故郷を離れて外国に長い間いるなかで、自分がいちばん好きな丘の上の農場地帯、自然がそのまま残ってるところに戻りたいと思うのは普通のことなのかなあと思います。
最初に代表から「農場をやりたい」って聞いた時は、違和感はなかったですね。
初めは商売ではなくて、自分たちの消費量をつくるっていうだけで。
その当時、いいオリーブオイル、本物のエクストラバージンで信用がおける品質のものって、日本にはなかったんです。

カタルド
それが、日本だけの話でもなくて。
このあいだ新聞に載ってたんですが、イタリア国内やヨーロッパ国内の調査をした結果、一般のイタリア人にエクストラバージンのオリーブオイルを食べてもらっても、それが何かわからないと。
一般的に、オリーブオイルはオイルだから、味がないと思われてる。でも、本物のオリーブオイルはオリーブの味がするんですね。オレンジを潰した絞り汁にはオレンジの味がするのと同じなんです。
ちょっと外は辛くて実は苦くて、食べたあとは口がさっぱりするんですね。
大量生産で精製してしまうと味が失われるんですね。イタリアでもそれがマジョリティーにとってはオリーブの味になってしまってるんですね。

栽培から瓶詰めまで自社で一貫して手がける理由

ルカ
私たちは今ビジネスモデルとして、農場、土の管理、木の管理から、収穫、搾油、ボトリング、輸入、販売まで、すべて自分たちでやっているんです。だから生産過程の透明性っていうのには非常に自信があるんです。
ほかを見るとそういうモデルはほとんどないんです。

岩田
ええ。

ルカ
通常、オリーブオイルができるまでっていうのは、まずオリーブの農家さんがいます。
南イタリアのオリーブ農家さんで、すごく広い土地を持っている方って少ないんですよ。ファミリーごとに小さな土地を持ってる。
彼らは自分たちでぜんぶやるとものすごいコストがかかってしまうので、オリーブの実を買い上げる業者さんが別でいるんですね。その人がオリーブの実をまとめます。
そのまとめたものをさらに精油屋さん、いわゆる実を潰す人が、いろんなところからオリーブを買ってきて精油します。
その精油したものをボトリング屋さんがいろんなところから買ってきて、まとめて、ミックスしてボトリングするんですね。
そのなかでもいろんな分別があります。エクストラバージンのみを集めてきたもの、コラティーナ州の特定の品種のみを集めてきたもの。
ただ、オリーブの実ってすごいデリケートなものなんですよ。ほとんどの商品が暗いボトルに入っているのは、直射日光がダメだからで、酸化もダメなんです。それは実の状態でも、油になった状態でも同じなんです。
私たちの場合、収穫したほとんどの実をその日の午前中のうちに潰しちゃうんですけど、なぜかっていうと、実の状態で放っておくとどんどん酸度が上がるんです。
酸度が上がっていくと、酸っぱくなって不味くなる。

岩田
多くのオリーブオイルはそれなんですね。

カタルド
そうなんです。

ルカ
置いておいたほうが穫れる油の量が増えるんですよ。
熱を加えたり、置いて熟成させたほうが油の量は多くなるんです。

カタルド
極端な言い方をすれば、腐ったものがたくさん売られてるわけですよ(笑)

ルカ
そういう背景があるんです。
そのなかでもちろん、「エクストラバージンだけをやりましょう」っていうところもたくさんあると思います。
ただ、そうなるとコントロールが大変。
実の段階から何社も業者を通している状況なので、広域コントロールするっていうのは非常に難しいですし、そのためにうちみたいに一本でやろうとするとコストがかかる。
それでもエクストラバージン、オーガニックでできたものがほんの一握り、マーケット内にございます。
それ以外のほとんどのオリーブオイルは、こう言っちゃなんですけど、わけのわからない有象無象のオイル。中には、搾油機の隣で一週間くらい放ったらかしにされてたものとか、そういう、出自の知れないものがいっぱいあるんですね。

> 次へ

この記事のライター

新聞記者からカメラマンになって、フリーのデザイナーに。
なぜかこのサイトの編集長も。

関連する投稿


トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その3

トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その3

南イタリアでオリーブの古代種を無農薬で育て、エクストラバージンオイルとして日本に届けているトレリさん。彼ら親子が語るオーガニックの考えは、美味しいものを食べたいという「人間的な欲望」より手前に、自然や土地への敬意、「人間を超えたものへの感覚」があります。農業を切り口に、人間のルーツに触れるインタビュー、最終回となる第3回、古代種を育てる理由、無農薬栽培への思いなどが語られます。


トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その2

トレリさんに聞く「南イタリア、オリーブ無農薬栽培の話」その2

南イタリアでオリーブの古代種を無農薬で育て、エクストラバージンオイルとして日本に届けているトレリさん。彼ら親子が語るオーガニックの考えは、美味しいものを食べたいという「人間的な欲望」より手前に、自然や土地への敬意、「人間を超えたものへの感覚」があります。農業を切り口に、人間のルーツに触れるインタビュー、第2回はオーガニック先進国といわれるイタリアの農業の現状などのお話です。


良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その3

良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その3

千葉県の棚田保全「鴨川里山トラスト」など、地域創生の“役に立つ活動”を展開する良品計画。地域創生事業に企業は何を見るのか? 同社ソーシャルグッド事業部の高橋さんにお話を伺いました。第3回は地域を動かしていくための具体的な方法、理念の大切さなどについてのお話です。


良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その2

良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その2

千葉県の棚田保全「鴨川里山トラスト」など、地域創生の活動を展開する良品計画。地方創生事業に、企業は何を見るのか? 同社ソーシャルグッド事業部の高橋さんにお話を伺いました。第二回は「無駄にしない」というコンセプト、そこから始まろうとしているあらたな動きなどについてのお話です。


良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その1

良品計画に聞く、地域創生プロジェクトの意味。その1

無印良品で知られる良品計画。千葉県の棚田保全「鴨川里山トラスト」など、地域創生の活動を展開するなか、今年2018年2月にはソーシャルグッド事業部が発足。収益が難しいとされる地方創生事業に、同社はどういった視点で乗り出しているのか? 企業の本質が浮き上がるかのようなインタビュー。同事業部の高橋さんにお話を伺いました。


最新の投稿


「築150年の土蔵を手放す」古民家解体の裏にある、持ち主海川さんの思い。

「築150年の土蔵を手放す」古民家解体の裏にある、持ち主海川さんの思い。

長野県大町市平の国道148線沿いに建つ、海川盛利さん所有の築150年という大きな土蔵。今回、JR信濃木崎駅に向かう歩道拡幅工事のために解体せざるを得ない状況になりました。この海川家に代々受け継がれてきた土蔵に使われていた古木を、山翠舎で買取させて頂くことになりました。そのままの状態で取り出すのは難しいと思われた長さ8mにも及ぶ巨大な棟木も、切ることなく運び出すことに成功。今、大町の倉庫で次なるステージの出番を静かに待っています。(取材・文:横澤冨美子)


「森林認証制度」のこれまでと今 -後編- 【FSC®ジャパン事務局長・前澤英士さんに聞く】

「森林認証制度」のこれまでと今 -後編- 【FSC®ジャパン事務局長・前澤英士さんに聞く】

企業のグローバル化が進むなか、人権やコンプライアンスの遵守、環境問題への配慮などを含めた社会貢献活動(CSR)が注目されています。とくに、環境問題への取り組みでは「FSC森林認証」を受けた材料やプロジェクトを企業が積極的に採用する動きが世界的に広がっています。この「森林認証制度」を日本国内で推進しているのがFSCジャパン。どんな活動を展開し、どのような将来展望を描いているのか、FSCジャパン事務局長の前澤英士さんにうかがいました。その後編です。


「森林認証制度」のこれまでと今 -前編- 【FSC®ジャパン事務局長・前澤英士さんに聞く】

「森林認証制度」のこれまでと今 -前編- 【FSC®ジャパン事務局長・前澤英士さんに聞く】

企業のグローバル化が進むなか、人権やコンプライアンスの遵守、環境問題への配慮などを含めた社会貢献活動(CSR)が注目されています。とくに、環境問題への取り組みでは「FSC森林認証」を受けた材料やプロジェクトを企業が積極的に採用する動きが世界的に広がっています。この「森林認証制度」を日本国内で推進しているのがFSCジャパン。どんな活動を展開し、どのような将来展望を描いているのか、FSCジャパン事務局長の前澤英士さんにうかがいました。まずは、前編です。


新時代の図書館を模索した「信州・学び創造ラボ」後編 【県立長野図書館長・平賀研也氏に聞く】

新時代の図書館を模索した「信州・学び創造ラボ」後編 【県立長野図書館長・平賀研也氏に聞く】

2019年4月、令和の時代を前に県立長野図書館内にオープンした「信州・学び創造ラボ」。県立長野図書館は、もともと長野市長門町にあったが、同市若里公園内の現在の場所に1979年に開館しました。今回の大規模リノベーションが行われたのは閲覧室や会議室のあった3階フロア。情報の多様化が進展する中で、人々が知見を得る拠点として、どういった図書館の形が望ましいのか、議論を重ねながら理想を追い求めたといいます。設計を担当した長野市の「宮本忠長建築設計事務所」の設計士と、図書館館長の平賀研也さんに話を伺いました。


新時代の図書館を模索した「信州・学び創造ラボ」前編  【宮本忠長建築設計事務所3人の設計士に聞く】

新時代の図書館を模索した「信州・学び創造ラボ」前編 【宮本忠長建築設計事務所3人の設計士に聞く】

2019年4月、令和の時代を前に県立長野図書館内にオープンした「信州・学び創造ラボ」。県立長野図書館は、もともと長野市長門町にあったが、同市若里公園内の現在の場所に1979年に開館しました。今回の大規模リノベーションが行われたのは閲覧室や会議室のあった3階フロア。情報の多様化が進展する中で、人々が知見を得る拠点として、どういった図書館の形が望ましいのか、議論を重ねながら理想を追い求めたといいます。設計を担当した長野市の「宮本忠長建築設計事務所」の設計士と、図書館館長の平賀研也さんに話を伺いました。


Ranking


>>総合人気ランキング