創る和紙職人、ハタノワタルさんを訪ねて。その3

創る和紙職人、ハタノワタルさんを訪ねて。その3

京都、800年の歴史を持つ黒谷和紙。苦境にある伝統工芸の世界で、忘れられた手漉き和紙のポテンシャルをハタノさんは空間づくりへと拡げています。最終回となる今回は、売れ始めるようになるまでの苦労と、空間づくりへと展開していく今の仕事のお話です。


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ハタノワタルさんを訪ねて。その3

ハタノワタル
和紙職人、和紙作家。
1971年、兵庫県西淡町(現・南あわじ市)生まれ。本名、畑野渡。
95年、多摩美術大学絵画科を卒業。北海道での農業生活を経て97年に黒谷和紙の世界へ、手漉き和紙の職人となる。表現者として個展など多数開催。和紙の特性を生かし、小物や什器から壁材、床材、果ては空間全体までをプロデュースし、見失われてきた和紙の可能性を「これから」の文脈で繋ぐ活動をしている。

資本経済に片足半分


岩田 和憲(以下、岩田)
そもそもなんで伝統工芸の職人さんってそんなにお金が入らない状況なのかなあ。
昔は物価が安くて、その収入でもなんとかなっていたということなのかもしれないけど…。

ハタノワタル(以下、ハタノ)
昔の値段のままっていうのもそうですが、まあでも、生活スタイルの話で。
例えば、今でも月10万円ぐらいで生活してる人いるんですよ、農業をやりながら。

岩田
自給自足みたいな?

ハタノ
そう。そういう世界やから。

岩田
そうかあ。つまり資本経済に片足しか入れてない、っていう、

ハタノ
そうなんですよ。
紙漉きの人間国宝のおじいさんがいるんですけど、見学しに行ったら、マジで使ってる感じの石臼が置いてあって。
「おお、石臼あるんですね」って、「なんか和紙に使うんですか?」って聞いたら、「いや、これで粉を引いてきなこをつくってる」って言って(笑)
極めてるっていうか、生活の一部にそういう暮らしの道具があって、自給体制。
で、ちょこっと和紙を漉いて、それが現金収入、みたいな。
まあ、そういう考え方やないですか。それで生活しようと思ってない。
ここ黒谷もそうだけど、奥さんがだいたい紙漉きをやってて、旦那は外に働きに行く。そんな感じなんです。
だから副業です。内職。お蚕さんを昔は飼ってた。そんな感覚なんです。

売れ始めるまでの苦労


山上 浩明(以下、山上)
やっぱり、もがく世界っていいなって思いますね。ハタノさんご本人の気持ちと行動力っていうところで掴んでいってる。成功者だなっていうふうに思います。

ハタノ
成功してるかどうかわかんないけど、こうしないと辞めるしかなかったんですよね。

岩田
そうとう悩まれてた時期があったんですか?

ハタノ
そうとう悩んでました。
何をやってもうまくいかなくて、先の見えない状況が長く続いてました。

岩田
そうなんですね。

山上
どれぐらい前の話ですか?

ハタノ
10年ぐらい前ですね。

山上
さっきのクラフトフェアとか行ってたころですか?

ハタノ
そうですね。なんぼやっても売れないんですよ。
行っても行っても、求めるところまで売れないんですよ。
このままでは絶対無理や、と。

岩田
どこでブレークスルーされたんですか?

ハタノ
いや、してないですよ(笑)
徐々にですよ。

珍しいことやってたからっていうので取材も受けるんだけど。
某有名誌に12ページ特集で載ったんですけど、そのとき注文来たの、封筒一個ですよ。

岩田
ええ…

ハタノ
もう最近は慣れたんですけど、取材を受けると「絶対売れるわ」って思うやないですか。
テレビとか出て、「よしこれで」って。
でもまったく反応がない、っていう。
そんな世界なんです。
結局メディアに出て一発でってことはなくて、仕事って、こうして親しい仲の人たちが徐々に増えていくなかで繋がっていくっていうか。
でも雑誌に載ったことがゼロかっていうと、たぶんそうじゃなくて、10年後とかに「あのときあの雑誌で見てて」みたいなことが。

山上
あると思います。

ハタノ
食べ物だったらね、雑誌を見て買いたいと思ったら、ネットでも注文できるし、ポンとすぐ買えるんですけど、家とか空間とか、そういうもんじゃないのかなって。

山上
長いですよね、そこ。

ハタノ
長いんですよ。
だから大事なんですよね、そういう一個一個が。

山上
だから生きてないといけないんですよ。存続してないと。そのときのために。

ハタノ
そういうことを思うと、やっぱり今までやってきてよかったなって思ってるし。
どっかでちょこちょこ繋がってきてる。

空間づくりのチーム


山上
ものって、建築でいうなら設計施工。構想があって、図面に落とし込んで施工、そういった段階にわかれると思うんですが、ハタノさんはぜんぶやられている、

ハタノ
はい、今、ぜんぶやってます。

山上
紙も、設計施工する人によっては良さを活かせる人と残念な結果になる人もあると思うんですが、これから仕事が大きくなっていくなかで、ぜんぶ自分でやるには限りも出てくると思いまして、その辺はどういうお考えなんですか?

ハタノ
結局、僕が何をやりたいかっていうと、空間を作りたいんですね。人が心地よいと思える空間を作りたくて。
まあ言うてもこういう仕事を始めて10年ぐらいなんで、そこまで内装施工の仕事に自信を持ってやれてるわけではなかったんやけど、今はある程度自信も出てきたし、和紙がどうなっていくかもある程度読めるようになってきたんで、最近は自分から提案するようになってきたんですよ。
今までは、「こういう建物があって、ここの面に和紙を貼ってくれ」っていう話だったのが、今は「和紙を使えるからどうする?」ってなことを聞かれるような立場になってきて、僕にはそれが楽しいんですね。

山上
それはいいことですね。

ハタノ
実際、そういうことまでやるようになったことで十分に和紙を生かした空間ができていることも自分で感じれるようになってきてて。
僕はたぶん、空間に対して作品という意識が強いかもしれないですね。
結局仕事は人付き合いで、付き合っていくうちに感覚が分かり合える設計士さんに出会って、それから感覚が分かり合える左官屋さん、大工さんに出会って、今はそういうことの集合体みたいになってます。
前はハタノっていう和紙職人1人がいて、そこに注文がきて、そこだけ貼りに行くっていう感じだったけど、今はチームの誰かにオーダーがくれば仕事がまわるっていう手応えを感じてますよね。
「僕らのチームに任せてくれればめっちゃええもんできる」って。

岩田
うん。とてもいい話を聞かせてもらいました。今日はありがとうございました。



これでハタノワタルさんとのお話はお終いです。
お読みいただきありがとうございました。


取材:岩田 和憲、山上 浩明
構成:岩田 和憲
写真:岩田 和憲、酒井 香菜子

この記事のライター

新聞記者からカメラマンになって、フリーのデザイナーに。
なぜかこのサイトの編集長も。

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