サンクゼールの久世さんに聞く、ブランドの育て方。その1

サンクゼールの久世さんに聞く、ブランドの育て方。その1

食品製造小売会社サンクゼール(本社長野県飯綱町)。久世福商店などで全国に知られる会社ですが、ルーツは40年ほど前、お母さんが作ったジャムをお父さんが売り歩く姿でした。会社として大きくなりながら、その精神は当時のままです。その歴史とブランド構築について、代表取締役専務の久世良太さんにお話を聞いてきました。


ブランドの育て方。その1

久世 良太(くぜ りょうた)
株式会社サンクゼール代表取締役専務。父は同社社長の久世良三。 1977年、長野市生まれ。2002年、電気通信大学大学院卒業。セイコーエプソン勤務を経て05年、株式会社斑尾高原農場(現・株式会社サンクゼール)に入社。12年、代表取締役専務に就任。

始まりはお母さんの作った、素材を活かしたジャム。


岩田 和憲(以下、岩田)
もともとお母さんのジャム作りから、

久世 良太(以下、久世)
そうです。わたしは41歳なんですけど、わたしの父は東京の大塚の生まれで、42年前にスキーが好きで信州にやってきて、1人で斑尾高原、ここから30分くらい行ったところで「久世ペンション」っていうのをやったんですね。
そこの2日目のお客さんがうちの母だったんですよ。

岩田
あっ、そうなんですか。

久世
そうなんです。
で、わたしの母は横浜の出身で、友達と遊びに来た。
それですぐわたしの父が結婚を申し込んで、わたしが生まれたっていう。

岩田
良太さんは信州生まれなんですね。

久世
はい。
当時ペンションが忙しくて、繁盛したんですけど、母はその、忙しい生活じゃなくて、もっと家庭らしい生活をしたいっていうことがあって、そんなことでわたしを連れて横浜へ帰っちゃったんですね。「このままいったらわたし離婚します」って。

岩田
ええ。

久世
それで父が「ペンションをやめるから、経済的な基盤をつくるそれまでのあいだ、もうちょっと待ってほしい」って。それで母に戻って来てもらって。

岩田
なかなかすごい話ですね。

久世
ちょうどそのときぐらいにわたしの母が、ここはりんごの産地ですから、農家さんから美味しいんだけど傷がついてしまっている。そういったリンゴを安く買わせてもらって、グラニュー糖だけ入れてリンゴジャムにして。
それを朝食にお出ししてたんですね。

岩田
ペンションで?

久世
そうです。
そうしたところお客さんから「ぜひこれ欲しいから」って言われたんですね。それでビニール袋に入れて輪ゴムで縛ってプレゼントしてたんです。

岩田
最初は無料だったんですね。

久世
そこから「買いたい」っていう人も出てきたので、瓶詰めにしてフロントに置いておいたら、すぐなくなっちゃう。飛ぶように売れて。

岩田
へえ。

久世
父はそれを見たときに、「じゃあちょっとこれ、売ってみたらいいんじゃないかな」と。
ジープにジャムを詰め込んで、朝から晩までスキー場のペンションを回ってオーナーの方に「ちょっとフロントに置かせてください」って。
そしたら、けっこう売れたんですよね。
それが創業の原点ですね。

岩田
面白いですね。

久世
お母さんが皆の健康を考えて甘さ控えめでシンプルにつくったジャムがおいしかった。当時はJAS規格で糖度65%以上でないといけなくて、ジャムは甘いものばかりだったんですね。

「田舎の豊かさ、心地よさ」というコンセプト


山上 浩明(以下、山上)
サンクゼールさんの「田舎の豊かさ、心地よさ」っていうコピー、これはどういうふうにして生まれたんですか?

久世
これはわたしの父が、もともとペンションやってたところからジャム屋になって「今後どうしていこうかな」っていうときに、フランスのノルマンディー地方に行って。
リンゴが有名なところで、シードルとかカルバドスとかも有名で、見に行ったら、農家さんが自立してるわけですよね。

岩田
ええ。

久世
リンゴをただ売ってるだけじゃなくて、絞ってお酒にして付加価値を高くするなかで、それを観光客の方たちが買って行く。そういうことを何世代にもわたって継承している。自立した姿ですね。その姿に感銘を受けたんです。
あと、フランスの田舎町に行くと必ず小さいレストランがあって、老夫婦のお客様が2時間、3時間お喋りしながらお食事を楽しまれてる。そういう食卓の姿を見たんです。
「すごい成熟した文化だな」って両親は感動したんです。
「じゃあ自分たちもそれを具現化しよう。そういう世界っていうのを長野県に作りたいな」って思って、ここの世界* を作ったんですね。

*ここの世界 … 今日の取材地、長野県飯綱町、サンクゼールが運営する「サンクゼールの丘」のこと。丘陵地に広がるワイナリーで、ワインの醸造所にレストラン、ショップ、チャペルなどの施設が立ち並ぶ。

山上
すごいですね。

久世
で、ブランドのコンセプトとしては、「田舎の豊かさ、心地よさ」っていうのを提供する。それを Country Comfort っていうネームにして出させてもらってるんです。

久世福商店は第二の創業だった


岩田
形や色が悪かったり傷がついたりしてしまった果物を無駄にしないっていうところから始まってるのも素敵ですね。
このあいだ取材した無印良品さんもそういう傷ついた果物で加工品を作ろうとしてて、今、いろんな企業が生活の足元を大切にするようなことをやろうとしてますけど。今になって先端のテーマですよね。
ただ、そういう「本質的なこと」をやっても、そこでブランディングを成功させられる会社ってごくわずかじゃないですか。

久世
はい、はい。

岩田
それこそジャム一個から始まってここまで押し上げていけた力というのは、何だったんですか?

久世
そうですね。なんて言ったらいいかな、

岩田
これだけブランディングを成功させるのに、どこがポイントになってくるのかなと思って、

久世
どうなんですかね、教えてもらいたいぐらいですけど(笑)

岩田
そんな(笑)

久世
わたしたちのブランドで久世福商店っていうのがあるんですけど、ちょうど5年前にプロジェクトを始めて、4年前に1号店をつくったんです。

あのときって会社としても第二の創業みたいなところがあって。
時代としても震災が起きているじゃないですか?

岩田
ええ。

久世
震災以降、無駄なものにはお金を使わない時代になって、自分にとって本当に大事な家族であったり友人であったり、そういうクローズドな輪みたいなところへの意識が強くなったようにわたし自身は思っていて。

岩田
そうですね。

久世
そのなかで、実質を求める価値感が出てきましたよね。
ただのブランドではなくて、ほんとに共感できるような実質を伴った何か。そこに日本人みんなが気づき始めた。
そんななかで「自分たちのルーツってなんだろうな」っていうところを考えてつくったのが、久世福商店っていうブランドなんです。

岩田
そういう背景があったんですね。

久世
もしかしたら、古くて新しく、新しくて古いような、ルーツを土台にしたブランドを掲げたらそれで商いができるかもしれない。わたしたちサンクゼールみたいに、地方でこだわったものをつくってるメーカーや職人さんたちは全国にもいるんじゃないかな、っていうようなことを思って。

久世福商店のブランド構築


久世
で、まだブランドのロゴも決まってなかったころ、骨子としてブランドの三箇条を決めたんですね、

岩田
それを最初の最初に設定してる、ってことですね?

久世
そうなんです。

その三箇条がこちらです。
一、当代随一
 こだわりの作り手を万国に訪ね歩き、比類なき一品のみを集めるべし
一、唯一無二
 今まで世に無かった、久世福ならではの食材を創るべし
一、三位一体
 価格、味、品質、全てにおいて優れた商品のみを揃えるべし
 お客様、仕入先様、世間様、三方ともに満足しうる商いをすべし

山上
ちなみに和の商店にしようっていうのは、どういうところから生まれたんですか? 三箇条より前のいちばん最初のコンセプトはそれですよね?

久世
そうですね。
きっかけは、サンクゼールがちょうどアジアのほうに進出しようって動き始めたときで。
中国にも会社を作ったり、シンガポールでも販促をして商品を並べてたりとか。あと、香港とか台湾でマーケティングをやったりしてたんですよ。
で、アジアでジャムとかワインとかを販売し始めたら、「日本人だったらお味噌とか持ってきてよ」みたいなことをけっこう言われまして(笑)

岩田
フランスのメーカーだと勘違いされたっていう話ですよね?

久世
そうそう。
そのときにハッとしまして。
自分たちの差別化できる要素、特に海外に行くときに差別化できる要素ってなんだろうなって思ったときに、やっぱりそれは和食なんだろうなって。
ルーツに根ざした食文化があって、それを提供するのがシンプルで一番いい。それを海外のお客様に出したとき、唯一無二のサービスになるんじゃないかなと思ったんですね。

岩田
久世福商店っていうのは海外市場を前提にして作られてるんですね?

久世
そうなんです。
それをみんなでディスカッションしたら「それってもしかしたら海外だけじゃなくて、日本でもニーズ高いんじゃないかな」っていう話になって。

岩田
ちょうど震災以後、ルーツを見直す感覚も出てきてっていうところですよね。

久世
そうなんですよ。



次回につづきます。

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なぜかこのサイトの編集長も。

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