スターバックスが取り組むローカルレレバントの今 後編「続けるということ」

スターバックスが取り組むローカルレレバントの今 後編「続けるということ」

スターバックスが考える、グローバルとローカル。両視点はどうリンクし、今後どこへ向かうのか。後編は、サードプレイスという概念について、そして今後どこへ向かうのか、などのお話です。


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後編「続けるということ」

山内 朗史(やまうち あきふみ)
デザイナー。スターバックス コーヒー ジャパン株式会社 店舗設計部リージョンデザイングループマネージャー。
1976年、大阪府茨木市生まれ。職業能力開発総合大学校インテリア科を卒業後、デザイン事務所、スポーツブランドなど数社を経て、2012年スターバックス コーヒー ジャパンに入社。

サードプレイス


岩田
ローカルレレバントっていう取り組みは、単に店舗内装に限った話になるんですか?
つまり地元行政との関わりとか地元の雇用とか、そういう意味もローカルレレバントという概念に含ませているんですか?

山内
その地域に出店させていただくことによって地域の人を雇用してそこで活躍していただくところも大きな意味はあると思います。
なのでパートナーの面もある意味ローカルレレバントの1つになっています。

岩田
あとサードプレイスっていう言葉ですが、あれはもともとある言葉なんですか? それともスターバックスさん独自の言葉なんですか?

山内
サードプレイスはもともと社会学者が提唱していた概念で、スターバックスはその概念を店舗コンセプトとして取り入れました。

岩田
サードプレイスも、さきほどのロマンスコストっていう言葉も、非常にうまいなあと思うんですけど、例えば図書館で本を読むのが好きな人だったら、その人にとっては図書館がサードプレイスになりますよね。
でもそこにサードプレイスというネーミングを与えて伝わるものにしたのはスターバックスさんで、そういう巧さを僕は感じるんですね。
だから、そこに戦略も感じるわけです。

山内
おそらく一過性のことであれば、他ブランドでもあるのかもしれない。ただ我々の強みとしては、それを信じてやり続けてきたことだと考えています。
先ほども申し上げたように、95%が通常のコアストアといわれている店舗です。
このコアをしっかりと考えることで、旗艦店だけではなくて、ひとつひとつのお店が特別なものになる。
「スターバックスならどの店舗でもいい」ではなくて、「このお店がわたしは好きなんです」って言っていただく作りかたっていうのは、やはり一過性の考え方では成しえなかったと思います。

バーの重要性


岩田
サードプレイスになるための「居心地のいい空間ってこうだよね」みたいなノウハウもだいぶ積み重なっていると思いますが、

山内
はい、そうですね。

岩田
その、居心地がいいためには、どんなポイントがあるんですか?

山内
なかでも、われわれがバー(*)と呼んでいるところ。
そのバーを空間のどこに配置するとお客様との一体感を感じることができるのかといったレイアウトを重要視しています。

*バー … バリスタステーションのこと。

すべてにおいてバーをどうセレブレイトして皆様をお出迎えするのか。このお出迎え、おもてなしの心を、どうブランドとして体現していくかといったところですね。
また機能面、オペレーションのしやすさという面も無視できないところで、この2つをどう融合させるかというところでデザイナーが重要な役割を果たしています。

岩田
一般論として、バーはどういうところに置くといいんですか?

山内
外を歩いている人にもパートナーがアイコンタクト出来るようなお店づくりを重要視しています。
やはり区画の特性上、すべて壁に囲まれた空間もありますので、そういう空間に関しては、今日もいつも話してくれるパートナーがいる、みたいなことを中から醸し出すことを重要視しています。
どちらにしても、デザインを達成するためにバーが隠れてしまうというようなことはあってはならないと考えています。

山上
恵比寿の駅前の店が改装になって、バーの位置が反対になりましたよね。

山内
恵比寿ユニオンビル店ですね。
我々にはリモデルというプログラムがありまして、オープンから5年、6年すると改装をしています。
地域の導線の流れなどをリサーチした結果、バーは最初の場所だったんですが、あれから5年、6年経ちどうあるべきかっていうことをもう一度見直した結果、お客様が楽しんでアプローチしていただくためにも思い切って反対側にもっていくことになりました。

山上
工事のしやすさから反対に持ってきたのかとも思ったのですが、

山内
逆ですね。工事のしやすさからするとそもそも、

山上
そうですよね、水まわり、防水工事を、

山内
ぜんぶやり直すことになりますので。

パートナーとは? ジャーニーとは?


山上
ちなみにパートナーっていう表現は、どういったところから出てきているんですか?

山内
従業員というと上と下の関係になるんですけど、我々はブランドで一緒に働く仲間であるという企業理念があるので、従業員という言葉ではなくパートナーと呼んでいます。
あと旅をする、ジャーニーっていう言葉も我々は大切にしていまして。
最近、ウェブマーケティングの中でもジャーニーっていう言葉が使われたりしてて、

山上
カスタマージャーニーって使われてますね。

山内
このジャーニーっていう言葉の背景には、店内においてお客様にどういう体験をしていただくか、という意味があります。
まず、リテールゾーンがあって、フードがあって、そしてパートナーとコネクトするバリスタステーションがあって、そしてお客様にコーヒーを楽しんでいただく客席へと。
この客席へと流れていくまでにさまざまなシーンが出てくることを我々はカスタマージャーニーとして捉えているんです。

山上
ちなみに 山内さんが入社されたのはどれくらい前ですか?

山内
わたしは5年前ぐらいですね。
そうですね、そのなかでまずブランドを理解するっていうことに非常に時間がかかりました。

山上
そうですよね、今までのお話を伺っていると。

山内
やはり哲学的な背景をもっているところなので、言葉ひとつとってもすべてに意味がある。それはミッション&バリューの中からみんながほんとに共感していかないと、インハウスでブランドを展開してくデザイナーとしてなかなか難しいんじゃないかと思います。
きっちりとブランドと向き合うっていうところが非常に重要ですね。
おそらくどこの企業も、自分たちのブランドらしさについて言葉やイメージを持たれていると思いますけど、それをしっかりとロジックを組んで理由づけしていくっていうのがスターバックスの特色なのだと思います。

終わりなき改装プログラムと変わらない理念。


山上
社長が変わって、大きく変わったところっていうのはあるんでしょうか?
例えば、「地域のランドマークにお店を出すことでより多くの人に知ってもらって、スターバックスが何を目指そうとしているのかをより感じてもらいたい、突き抜け感を出すことを意識してます」っていうふうに聞いていますが。
コアストア以外の店舗が5%から6%になるのかわかりませんが、そういう方向で進まれていくんですか?

山内
文化財地区や公園事業については今まで取り組んできたことが評価をいただき、お話をいただくことはあります。
ただ95%のコアストアをとても大事にしていますので、そこの考え方は変わらない。そうは言っても5%の部分もブランドを牽引していくところではありますので、あわせてバランスをとっていくっていうのが重要なのかと思います。
どちらかだけが立ってしまってはいけないですし。

奈良鴻ノ池運動公園店 ©︎スターバックス コーヒー ジャパン株式会社

山上
改装も一巡してますよね?

山内
そうですね。一巡はしてきましたね。

山上
そうなると、これ以上新しいものをどう出していくのか? というところが気になりますが。

山内
オープンした瞬間から店舗っていうのは劣化が始まってるわけで、そういうところに対してスパンをきめて改装のプログラムを組んでいく、そこには何巡させたからゴールというのはなくて。それを続ける企業かどうか、っていうところが非常に大きいと思います。
我々は店舗自体がブランドを発信していく場所だと位置付けていますので、常に今のブランドの考え方を落とし込んでいく。そしてそれを続けていく。

山上
今後展開していくなかで、ローカルレレバントやサードプレイスみたいな、新しくキーとなってくるワードっていうのはあるんでしょうか?

山内
もしかしたら何か新しいことがありそうに思われてしまうかもしれませんが、事業的なことではあったとしても、フィロソフィー的なところでは一貫してまして、基本的には変わらないですね。続けていくことが重要と考えています。
京都の二寧坂のようなお店を5年前に想像できていたかというと、決してそうではなく、ひとつひとつ丁寧に向き合い続けてきたことによって、結果それをやらせていただけたということだと思います。

岩田
今日はありがとうございました。



これでスターバックス、山内さんとのお話はおしまいです。
お読みいただきありがとうございました。

取材:岩田和憲、山上浩明
構成:岩田和憲
写真:岩田和憲、酒井香菜子

この記事のライター

新聞記者からカメラマンになって、フリーのデザイナーに。
なぜかこのサイトの編集長も。

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