スターバックスが取り組むローカルレレバントの今 前編「店舗づくりの理念」

スターバックスが取り組むローカルレレバントの今 前編「店舗づくりの理念」

グローバル企業として存在しながら、土地の記憶や産業を導入したお店づくり(ローカルレレバント)によって躍進を続けるスターバックス。グローバルとローカル、両視点はどうリンクし、今後どこへ向かうのか。東京ミッドタウン店を訪ね、同社店舗設計部リージョンデザイングループマネージャーの山内さんにお話を伺ってきました。


前編「店舗づくりの理念」

山内 朗史(やまうち あきふみ)
デザイナー。スターバックス コーヒー ジャパン株式会社 店舗設計部リージョンデザイングループマネージャー。
1976年、大阪府茨木市生まれ。職業能力開発総合大学校インテリア科を卒業後、デザイン事務所、スポーツブランドなど数社を経て、2012年スターバックス コーヒー ジャパンに入社。

ローカルレレバントとは?


岩田 和憲(以下、岩田)
そもそもローカルレレバントの動きっていうのは、どういった意図のもとで始まってるんですか?

山内 朗史(以下、山内)
2007年に創業者のハワード・シュルツがCEOに戻ってきまして、それまで画一的なデザインを世界的に展開していたところから、もっとしっかりとローカルを見据えた地域性豊かな店舗を展開していこうというブランド戦略になりまして。
そこからローカルレレバントという概念が出てきました。
「デザインの力によってどうスターバックスが地域と共存できるか?」という取り組みで、店舗ひとつひとつを丁寧に作っていく。そしてコンセプト、ならびに「地域性を取り入れたデザインとは何か?」「地域の人に愛してもらえるお店作りとは?」っていうことを日々考えながら取り組んできたことが、今も続いているっていうところですね。

岩田
具体的にはどんなアウトプットがあるんですか?
例えば地場の工芸品をインテリアに使うとか、そういうことですか?

山内
そうですね。
例えば東北地方では、地元の照明器具メーカーさんとコラボしたり、その土地の伝統工芸を使いながら新たなものを生み出している会社さんと一緒に取り組んだりして、地元の人たちが大切にしているものを店舗のなかでも展開することで、地域とスターバックスというブランドを繋げていく。
京都の二寧坂ヤサカ茶屋店であれば、伝統的な織物を座布団という新たなかたちで使ったり。地元の伝統の良さをブランドの中でも体現していく。
オープンする店舗が木の産地であれば、地場の木を使ってカウンターにしたり、内装材としても取り入れたりして、地域をしっかりリスペクトする考え方を持たせていくようにしています。

京都二寧坂ヤサカ茶屋店 ©︎スターバックス コーヒー ジャパン株式会社

ロマンスコトストとは?


山上 浩明(以下、山上)
現実的なお話としてそれだけこだわると予算も相当に高くなると思うんですけど。
コストについてはどういうお考えでやられているんでしょうか。

山内
京都二寧坂のような店舗はリージョナル・ストアといって旗艦店に位置づけてますが、全国で1300店を超える店舗があるなかで95%ぐらいはそうではないコアストアと呼ばれている店舗です。
ひとつひとつコンセプトを考えていくところはコアストアも変わらないんですけど、やはりチェーンストアなので効率を考える必要も実際あります。その部分に関しては標準品を使いながら、地域性を取り入れる。その地域を表現するためのコストをプラスで見るようにしています。社内的にはそれをロマンスコストといっています。
標準品を使いながら、でもポイントになるところをきっちりと表現することで、地域と寄り添えるんじゃないかという考え方です。

山上
ロマンスコスト、それは面白い名前ですね。
内装材のサンプルにもラテ色とか、コーヒーにちなんだ名前を使われてたりとか。
こういうネーミングをするのは日本のスターバックスさんがそういう社風なんですか、それともグローバルでそうなんですか。

山内
これは日本で始めたことでして。
どういう表現にすると社内的にも啓発ができるか、っていうこともありまして。

岩田
誰かが決められるんですか?

山内
それは店舗設計部の中で決めてますね。
見え方だけでなく、考え方や理念も含めてのデザイン戦略なんです。
共通言語を見出すことによって、スターバックスというブランドに携わっている人間たちがみんな同じベクトルを向いていることが重要なんです。

岩田
内装をぜんぶローカルなものでやると当然コストがかかるので、ポイントでエッジを立たせるということですよね。
思ったんですけど、海外旅行でマイナー言語の国へ行ったときに、せめて「おはよう」だけでもいいからその国の言葉を憶えて現地の人に挨拶すると、すっと受け入れられる感覚がありますけど、それに似てるといえば似てるなあと。

山内
そうですね。おっしゃるとおりで、それが目に見えるかたちで「あ、このアート、地元のあの人のだ」とか、「これ、地元の木じゃないか」っていうのがありまして。
それをパートナー(*)がまたお客様に説明することでコミュニケーションにも繋がり、さらに地域の人たちの来店動機へと繋がっていく、そういう効果はあると思います。

*パートナー … スターバックスでは従業員のことをパートナーと呼ぶ。

山上
お客さんとスタッフの距離が縮まる仕掛けをハードウェアで散りばめていく、っていうことですね。

山内
そのとおりです。

グローバルトレンドの共有


岩田
一方で、スターバックスさんっていうのはグローバル企業じゃないですか。
グローバルな企業が、そういうローカルな情緒面に進出してきて、そこに店を建て、スターバックスとして営業するっていうことは、グローバル企業がローカルに入り込み、その経済圏から利益をいただいていくっていうことになると思うんです。
つまりローカルっていう特色を使って自社の利益に結びつけていく。
じゃあ地元のコーヒー屋さんはどうなるのか? とか。
そういうことはやっぱり問われると思うんです。

山内
我々の考え方としては、スターバックスという押し付けではなく、どう地域の方と寄り添えるのか。「我々が出店させていただくことによって地域全体が活性化する」っていうところを常に突き詰めて考えてます。
それを空間でいうとローカルレレバントで、地域に愛されているものを使うことで少しでも地域の方々と寄り添う。さらにそれを店舗パートナーたちが語り部としてしっかりと伝えていく。そうすることによって、地域に入り込む、愛される店舗づくりができるんじゃないかと考えています。

イメージをどう掘り下げるか?


山上
六本木と原宿と京都の店舗デザインにはブライアンさん(*)が関わられていたと聞いてますが。

*ブライアンさん … 店舗開発本部クリエイティブディレクター、ブライアン・ヴァン・スティブドンクさんのこと。

山内
ブライアンはUSの第一線で活躍していたシニアデザイナーで、日本市場のデザインをもっとエレベートしていこうということで、こちらに来てもらって一緒に取り組んでいます。
スターバックスは全世界に18のデザインスタジオを構えてまして、日本もそのスタジオの一つになっています。我々は日本市場のデザインをするっていうのがミッションなんですけど、さまざまなスタジオとつながることによって、今のグローバルなトレンドを共有しながらデザインを進めています。

山上
ブライアンさんが来ることで、具体的にどう掘り下げられたのですか?

山内
例えばこのミッドタウンであれば、1階と2階があるこの大きな空間の中で、2つの階をどう繋ぐかっていうところだったり、ですかね。
この店舗のコンセプトを掘り下げていったときに、もともとここにはヒノキの雑木林があって、その中に小川があったんです。じゃあ、水脈と地層をイメージしたアートでそれを表現しながら1階と2階を繋ごうと。2階に行くに従ってコーヒーの産地が表現されていく。そういうかたちをアートで作り上げ、コーヒーとこの地元を繋ぎこむような演出をしています。

ミッドタウン店の水脈と地層をイメージしたアート

やはりブライアンが来たことで、グローバルな情報を日本にスピーディーに落としていくかたちは取れるようになってきてはいます。
例えばUSの最新店舗のコンセプトや背景っていうのもきっちりと理解して日本にも応用できるというメリットは、非常に大きいです。
最初はどういうふうに協業していけばいいのか試行錯誤があったのは事実なんですけど、ブライアンが来て1年半ぐらいたちまして、一緒に取り組むなかで実際に具現化したものが見えてきたというのもあって、より良いものを日本で展開できるようになってきたと思っています。

山上
京都二寧坂の、畳に座ってコーヒーを飲むっていうのは、斬新ですよね。

京都二寧坂ヤサカ茶屋店 ©︎スターバックス コーヒー ジャパン株式会社

山内
やはり最初は靴のまま畳の上でっていう意見もあったんですが、これは日本の文化としては難しいですよね。
日本の文化と海外から見た文化。そこをいろいろ調整しながら、さらに伝統的建造物の保存地区なので、京都に精通した専門家の方たちとも協業しながら、さまざまな見知を入れて誕生させていくと。

山上
ロマンスコストがけっこういったんじゃないかと。

山内
文化財を誤って壊すようなことがあってはとんでもないことなので、工期的にも時間がかかるものでしたし、申請絡みも非常に重要でした。
見えないところにもさざままなコストがかかってます。



後編につづきます。

> 後編「続けるということ」

この記事のライター

新聞記者からカメラマンになって、フリーのデザイナーに。
なぜかこのサイトの編集長も。

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